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第17回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.1 <口演発表の部(研究) 最優秀発表賞> 長崎大学医学部

2026年5月29日(金)〜31日(日)国立京都国際会館で開催された第17回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会学生セッション。総エントリー数99演題(口演24演題、ポスター75演題)の中から、部門で受賞された研究・活動内容をご紹介します。今回は大学ネットワーク委員会、委員の阿波谷敏英先生(高知大学医学部 家庭医療学講座 教授)とともに、「口演発表の部(研究)」で最優秀発表賞を獲得した、長崎大学医学部の辻 佑理さん、そしてその活動をサポートされた指導医の永田康浩先生からお話をうかがいました。

口演発表の部(研究)最優秀発表賞

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    口演発表の部(研究)最優秀発表賞 となった長崎大学医学部の辻 佑理さん
##受賞部門
口演発表の部(研究) 最優秀発表賞

##演題名
BMI低値の高齢者におけるポリファーマシーと介護保険サービス導入の関連

##大学
長崎大学医学部

##発表者名
辻 佑理さん(長崎大学医学部6年)

##指導者名
永田康浩先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 地域医療学分野)

BMIとポリファーマシーを掛け合わせることで見えてきたもの

「痩せ」と「多剤服用」で、リスクは最大に

超高齢社会を迎えた日本において、健康寿命の延伸と介護予防は避けて通れない喫緊の課題となっている。それを踏まえて本研究では長崎県五島市の地域住民を対象とした大規模なコホート研究データを用いて、高齢者の「痩せ(BMI低値)」と「多剤服用(ポリファーマシー)」が、その後の介護保険サービス導入にどのような影響を与えるかの分析を試みた。研究の結果、BMIが低い高齢者では、ポリファーマシーがなくても介護リスクが有意に高まり、さらに両者が重なるとリスクが相乗的に上昇することが明らかになった。

◎超高齢社会における「介護予防」の重要性

私がこの研究に取り組んだ背景は、日本の深刻な高齢化と、それに伴う「介護予防」への強い関心があったからです。現在、多くの高齢者が複数の疾患を抱えており、日常診療において「ポリファーマシー」とともに、栄養状態の悪化を示す「痩せ(BMI低値)」、そして「フレイル(虚弱)」が重要な課題となっています。
今回の研究は、長崎県五島市で長年にわたって地域住民の健康データを追跡している長崎大学のコホート研究のデータの一部を活用して行いました。これまでにもポリファーマシーと介護リスクの関連については多くの研究がなされてきましたが、「痩せ」という身体的特性が薬剤の影響とどのように絡み合って介護導入に繋がっているのか、その関連はまだ十分に解明されていませんでした。
高齢者にとってBMIは単なる体格指数ではなく、栄養状態や薬物動態(薬が体内でどう動くか)に大きく関わる重要な指標です。そのことから、BMIとポリファーマシーという2つの視点を掛け合わせることで、より実践的な介護予防の手がかりを見つけ出せるのではないかと考えました。

◎五島市のデータを用いた後ろ向きコホート研究

本研究の目的はポリファーマシーとフレイルが、介護保険サービス導入にどのように関連しているかを明らかにすることです。
手法としては、五島市で行われた特定健康診査などのデータを用いた「後ろ向きコホート研究」を採用しました。対象としたのは、2015年のベースライン時点で介護保険サービスを受給していない65歳から79歳の住民1,083人の住民です。この方たちを、BMI(18.5kg/㎡未満を「低値」と定義)と、内服薬の数(6剤以上を「ポリファーマシー」と定義)の組み合わせによって、以下の4つのグループに分類しました。
1.    BMI正常(≧18.5)かつ 薬剤6剤未満(基準グループ)
2.    BMI正常(≧18.5)かつ 薬剤6剤以上
3.    BMI低値(<18.5)かつ 薬剤6剤未満
4.    BMI低値(<18.5)かつ 薬剤6剤以上
この分類に基づき、2016年から2019年までの4年間における「新規の介護保険サービス利用開始」をアウトカムとして追跡調査を行いました。解析にあたっては、年齢・性別・生活習慣(飲酒・喫煙・運動)・既往歴(脳血管疾患・心疾患)といった、介護リスクに影響を与えうる他の要因の影響を調整する「COX回帰分析」で行いました。

◎「痩せ」と「多剤服用」が重なる時、リスクは最大に

4年間の追跡調査の結果、非常に興味深い知見が得られました。まず、BMIが正常なグループでは、ポリファーマシーがある場合でも、統計的な有意差は認められませんでした。しかし、BMIが低いグループでは、ポリファーマシーがなくても介護導入リスクは2.67倍と有意に上昇していたのです。さらにBMI低値とポリファーマシーが併存しているグループでは、基準グループと比較して、リスクが5.02倍にまで上昇することが示されました。
この結果から、以下のメカニズムを想起しました。BMIが低い高齢者は、もともと低栄養やサルコペニア(筋肉量の減少)といったフレイル状態にある可能性が高く、それ自体が介護リスクとなります。そこにポリファーマシーが加わると、薬剤同士の相互作用や副作用が出現することで、ADL(日常生活動作)の低下に拍車をかけ、介護を必要とする状態へと加速度的に向かうものと考えています。
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◎これからの臨床現場へのフィードバック

今回の研究では、フレイル(BMI低値)とポリファーマシーの併存が、介護保険サービス導入のリスク因子であることが示されました。この研究を通じて私自身が学んだ最も重要なことは「痩せが見られる高齢者への薬剤療法では、疾患の治療だけではなく、生活機能の維持や介護予防の視点を持つことが重要である」ということです。高齢者の多くは複数の疾患を抱えており、それぞれの処方が個別には適切であっても、結果として多くの薬剤を服用することになります。その際には、薬剤数の増加が患者さんの身体機能や日常生活に影響を及ぼし、その方らしい「健康な生活」を損なう可能性があることを常に意識する必要があると思います。
今回の結果は医師だけでなく、薬剤師や介護従事者をはじめとする多職種で共有することが重要と思います。患者さん一人ひとりの体格や身体機能、生活背景を多職種で見据えながら、「疾患にとって適切な治療」だけでなく、「その人にとって最適な医療」を考えることの大切さを示唆する結果だと考えています。
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― まずは今回のテーマに取り組まれた背景や理由について教えてください。

高齢化が進む中で、高齢者のフレイルや多剤服用(ポリファーマシー)が日常診療において非常に重要な課題となっていることを実感していました。特に長崎大学では、五島市を用いた地域住民のコホート研究が長年にわたり脈々と続けられている環境があり、私もその蓄積された貴重な資料やデータを使わせていただく機会に恵まれました。薬の数の多さだけに注目するのではなく、BMIが低い高齢者の方々にどのような背景があり、それが介護保険サービスの利用とどのように関係しているのかを自分の手で明らかにしたいと思い、この研究テーマに挑みました。

― ポリファーマシーにBMIを掛け合わせて検証しようと思われた理由は?

高齢化社会においてポリファーマシーは常に議論の的ですが、研究室の先輩方の研究を拝見する中で、体格指数であるBMIを掛け合わせることによって、より高齢者の身体的リスクを可視化できるのではないかと思いました。BMIという指標自体が高齢者の方の栄養状態などを反映していることは広く知られていますし、薬物動態なども体組成やBMIと深く関わっているため、リスクを評価する上での強力な指標になると考えたわけです。これまでの研究室ではポリファーマシーを軸にした研究が主に行われていましたが、両者を掛け合わせれば、実際のプライマリ・ケアの現場により役立つ新しい示唆が得られるのではないかということで解析に組み込みました。

― 実際にデータを解析していく中で特に苦労された点はどこですか。

統計解析ソフトを本格的に触る機会がこれまであまりなかったので、まずはその操作に慣れること、そして解析の仕方やデータの考え方を一から学ぶことが何より大変でした。自分だけでデータをもらって進めるのは難しく、指導医の先生方に基礎から丁寧に教えていただきながら進めました。また、一番難しかったのは、得られた解析結果を臨床的にどのように解釈し、今後の医療現場や予防にどう繋げていけるのかという「考察」の部分でした。
解析の結果、BMI低値グループのハザード比が顕著に出たわけですが、正直、予想以上に「綺麗な結果」だったので、そのことには驚きましたし、嬉しかったです。一方で「本当にこれでいいのかな?」という不思議な感覚もありましたが、実際のデータが示すリスクの大きさに改めてこの指標の重要性を再認識しました。

― 学会当日の発表は非常に落ち着いて見えたと伺っています。

いえ、実はものすごく緊張していました(笑)。練習では先生方の前で発表していましたが、本番は知らない方々、それも専門家の方々の前でお話しするので、勝手が違いました。
ただ、今回の研究では多くの気づきを得たとも思っています。臨床実習だけをしていると、どうしても「目の前の疾患をどう治すか」という治療の側面ばかりに目が向きがちです。しかし、この研究を通じて、患者さんの生活背景や介護保険制度といった、より広い視点で「高齢者を支える」ことの重要性を学ぶことができました。これは、来年から医師として働く上で、かけがえのない財産になると思います。
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    当日堂々と発表する辻さん

― 永田先生にお伺いします。辻さんを指導されてみていかがでしたか?

医学生が研究に専念できる時間は、決して多くありません。本学では3年次に研究室配属の期間を設けていますが、この時期はまだ医学的知識や臨床経験も十分でないため、データの意味を深く理解しながら研究を進めることは容易ではありません。辻さんは研究枠入学ということもあり、6年次にも再び研究室で研究に取り組む機会を得ることができました。臨床実習を経験したこの時期だからこそ、自ら医療現場のニーズを感じ取り、主体的に研究テーマに向き合ってくれたのだと思います。研究の基盤となるデータは研究室で準備しましたが、辻さんの素晴らしいところは、アドバイスの意図を即座に理解し、それを研究に反映できる力です。バイアスへの配慮や統計手法の選択など、専門的な議論にも真摯に向き合う姿には、大変に感心しました。
学会当日は、私の方がドキドキしながら見守っていましたが、辻さん本人は落ち着いて聴衆の顔を見ながら、自分の言葉で研究成果を伝えていました。彼女は3年次にアメリカに短期留学し、英語でプレゼンした経験もあり、そうした経験で培った度胸と、自分の研究をしっかり伝えようとする姿勢が、今回の最優秀賞という結果にも繋がったのだと思います。
また、学会発表の準備では、スライドの文字の大きさや余白にまでこだわり「とうすれば相手に伝わるか」を考えながら工夫を重ねた経験は、必ず将来に生かされるはずです。今回の受賞は本学医学部としても大変喜ばしく、誇らしい成果です。これからも自分の関心や疑問を大切にしながら、いろいろな事に挑戦し、成長されることを願っています。

― 辻さんの今後の展望と後輩たちへのメッセージを。

まずは医師国家試験に向けて勉強が最優先ですが、医師になった後も、今回得られた視点を大切にしていきたいです。将来は家庭医療や地域医療に携わりたいと考えており、機会があれば大学院に戻って、さらに症例数を増やしたり、都会と地方の比較をしたりといった研究の続きにも挑戦してみたいですね。
メッセージとしては「研究でも何でも、新しいことに挑戦するのは勇気がいりますが、失敗を恐れずに飛び込んでみてください」ということです。私の場合は、たまたまそれが今回の受賞という形に繋がりましたが、たとえ結果がどうあれ、真剣に取り組んだ過程で得られる「視野の広がり」は一生の宝物になるはずです。
私はもともと地域医療に強い興味を持っていました。指導医の永田先生とは、低学年の頃から授業などを通じてお会いする機会があり、先生の親しみやすいお人柄もあって、ぜひこの研究室で学びたいと思ったのが今回の研究のきっかけです。そうした恩師との出会いもつかむようにしてください。
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    表彰式での長崎大学医学部の辻 佑理さん(左)と、プレゼンターの大学ネットワーク委員会 委員の鈴木富雄先生(右)

大学ネットワーク委員会 取材後記

受賞演題は、高齢者のポリファーマシー、フレイルと介護保険サービス受給開始との関連を明らかにしたもので、超高齢社会にあるわが国において大変意義深い研究でした。医学生がこのようなテーマに真摯に取り組んでいることを大変頼もしく感じるとともに、医師となった後も研究を続けていただきたいと思いました。共同演者の先生方のご指導のもと、しっかりとした分析、考察がなされており、医学生の域を超えた出色の研究成果でした。学会当日の発表も拝聴しましたが、プレゼンテーション、質疑応答ともに落ち着いて的確に行われていました。ぜひ論文としてまとめ、多くの方々に研究成果を発信していただければと思います。将来の進路は未定とのことですが、どの分野に進まれても、研究に携わった経験は必ず生きるものと信じています。今後ますますのご活躍を心より期待しています。

大学ネットワーク委員会 委員 阿波谷 敏英先生

最終更新:2026年09月04日 10時28分

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