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第17回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.2 <ポスター発表の部(活動・症例報告) 最優秀発表賞> 山口大学医学部医学科
2026年5月29日(金)〜31日(日)国立京都国際会館で開催された第17回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会学生セッション。総エントリー数99演題(口演24演題、ポスター75演題)の中から、各部門で受賞された研究・活動内容をご紹介します。今回は大学ネットワーク委員会、井口 清太郎先生(新潟大学大学院医歯学総合研究科 特任教授)とともに、「ポスター発表の部(活動・症例報告)」で最優秀発表賞を獲得した、山口大学医学部医学科の大倉一真さん、三谷陽菜さん、藤澤翔太さん、そしてその活動をサポートされた指導医の波乗りクリニック小早川 節先生からお話をうかがいました。
ポスター発表の部(活動・症例報告)最優秀発表賞
##受賞部門
口演発表の部(活動・症例報告) 最優秀発表賞
##演題名
診察室外で子どもは何を語るか(第3報)―「斜めの関係」はなぜ本音を引き出すのか:10症例の質的検討―
##大学
山口大学医学部医学科
##発表者名
大倉一真さん(山口大学医学部医学科6年)
三谷陽菜さん(山口大学医学部医学科6年)
藤澤翔太さん(山口大学医学部医学科6年)
##指導者名
小早川 節先生(波乗りクリニック)
小早川 留衣先生(波乗りクリニック)
山下敬大先生(宇部中央病院総合診療科)
大﨑崇正先生(宇部中央病院総合診療科)
口演発表の部(活動・症例報告) 最優秀発表賞
##演題名
診察室外で子どもは何を語るか(第3報)―「斜めの関係」はなぜ本音を引き出すのか:10症例の質的検討―
##大学
山口大学医学部医学科
##発表者名
大倉一真さん(山口大学医学部医学科6年)
三谷陽菜さん(山口大学医学部医学科6年)
藤澤翔太さん(山口大学医学部医学科6年)
##指導者名
小早川 節先生(波乗りクリニック)
小早川 留衣先生(波乗りクリニック)
山下敬大先生(宇部中央病院総合診療科)
大﨑崇正先生(宇部中央病院総合診療科)
子どもたちが心の本音を語りだすきっかけをつくる
診察室から一歩離れた場所で
文部科学省の調査によれば、2024年度の不登校児童生徒数は小・中学校全体で35万人を超え、過去最多を更新している。児童・思春期の精神疾患が増加する中で、医療機関における心理的・教育的支援の重要性はますます高まっているといえるだろう。しかし限られた診察時間の中で、子どもたちが抱える複雑な内面や苦悩を十分に把握することは容易ではなく、特に診察の場では親と子どもの訴えが一致しない「認識の乖離」がしばしば見られる。本研究では、山口県宇部市の「波乗りクリニック」において行われている「スタディーサーフィン研究会(Study Surfing Kenkyuukai:SSK)」という活動を通じて得られた子どもたちの「診察室外での語り」を分析することで、プライマリ・ケアにおける新たな支援のあり方を検討した。
◎医学生が子どもたちと関わる活動「SSK」
まず「スタディーサーフィン研究会(SSK)」について概要をお伝えすると、これは宇部市にある「波乗りクリニック」で診療過程の一環として実施されている活動で、2020年11月から始まりました。この活動に私たち山口大学の医学部生たちが参加しているというわけです。
同クリニックでは発達特性や不登校傾向を有する児童・思春期のお子さんが多く受診されます。しかし限られた診察時間の中では、本人や家族の本当の苦悩やニーズを十分に把握しきれないという課題がありました。そこで私たち医学部生が診察前の待ち時間等を利用し、医学生が学習支援や遊び、対話などを通じて子どもたちと関わることで心身の状態を把握し、臨床現場への橋渡しを行う取り組みを進めてきました。今回の学会では、このSSKにおける実践と多角的な検討について、3つの報(第1報〜第3報)として発表しました。
同クリニックでは発達特性や不登校傾向を有する児童・思春期のお子さんが多く受診されます。しかし限られた診察時間の中では、本人や家族の本当の苦悩やニーズを十分に把握しきれないという課題がありました。そこで私たち医学部生が診察前の待ち時間等を利用し、医学生が学習支援や遊び、対話などを通じて子どもたちと関わることで心身の状態を把握し、臨床現場への橋渡しを行う取り組みを進めてきました。今回の学会では、このSSKにおける実践と多角的な検討について、3つの報(第1報〜第3報)として発表しました。
◎場面に応じた「オーダーメイド型」の活動
藤澤が担当した第1報では、私たちが日頃行っているSSKの活動実態を整理するため、受診した患者の男女比や年齢層、活動内容の傾向について分析を実施。対象となった患者さんは男女比がほぼ半々であり、就学初期から思春期まで幅広い年齢層が来院していました。私たちが実践する活動を分類すると、①関係構築、②対話・コミュニケーション、③認知・学習支援、④身体活動、⑤リラクゼーションの5つに大別されることが分かりました。
結果として、例えばADHDの特性を持つ児童には、多動・衝動性へのアプローチとして身体活動を多めに選択し、成功体験や実行機能の育成を図るなど個々の疾患特性や状態、場面に応じた「オーダーメイド型」の活動選択が概ね適切に行われていることが確認されました。一方で、自閉症に対する認知・学習支援や全体としての身体活動・リラクゼーションの選択にはまだ広げる余地があることも示され、今後の介入の幅を広げるための重要な基盤データを得ることができました。
結果として、例えばADHDの特性を持つ児童には、多動・衝動性へのアプローチとして身体活動を多めに選択し、成功体験や実行機能の育成を図るなど個々の疾患特性や状態、場面に応じた「オーダーメイド型」の活動選択が概ね適切に行われていることが確認されました。一方で、自閉症に対する認知・学習支援や全体としての身体活動・リラクゼーションの選択にはまだ広げる余地があることも示され、今後の介入の幅を広げるための重要な基盤データを得ることができました。
◎医療スタッフと家族との情報の架け橋に
児童・思春期の臨床現場では、診察室において「親子間で訴えや認識が一致しないケース」が散見されます。三谷が担当した第2報では親子間に明らかな認識の乖離を認めた14歳・中学2年生の女性の1症例を取り上げ、SSKによる介入が家族や医療者が把握しきれていなかった情報の共有にどのように寄与したかを考察しました。
対象の患者さんは、中学1年生の時に教室で動けなくなる、過換気発作を起こすなどの症状が出現して不登校となり、前医で自閉スペクトラム症・適応障害と診断されるも改善に乏しく、同クリニックを受診。外来で医学生が継続的に関わる中で、本人はそれまで親御さんに言えずに抱えていた内面的な葛藤や本音を徐々に表出するようになりました。SSKという診察室外でのフラットな関わりが、家族関係の力動や本人の隠れた苦悩を浮かび上がらせ、医療スタッフと家族との重要な情報の架け橋となることを示しました。
対象の患者さんは、中学1年生の時に教室で動けなくなる、過換気発作を起こすなどの症状が出現して不登校となり、前医で自閉スペクトラム症・適応障害と診断されるも改善に乏しく、同クリニックを受診。外来で医学生が継続的に関わる中で、本人はそれまで親御さんに言えずに抱えていた内面的な葛藤や本音を徐々に表出するようになりました。SSKという診察室外でのフラットな関わりが、家族関係の力動や本人の隠れた苦悩を浮かび上がらせ、医療スタッフと家族との重要な情報の架け橋となることを示しました。
◎「斜めの関係」として機能の意義
児童精神医療において、親子間の認識の不一致(Informant Discrepancies)は診断や治療方針に大きな影響を与えます。大倉が担当した第3報では、2025年3月1日から9月30日までに当院心療内科を新規受診した就学年齢の患者のうち、親子間で訴えの不一致がみられた10症例を対象に、SSKの聞き取り内容および診療録を用いて質的に整理・分析を行いました。
その結果、親子間の認識の不一致はいくつかのパターンに類型化されましたが、表現こそ異なるものの、いずれも子どもが自己や家族の均衡を維持しようとする「防衛反応」であると考えられました。診察室等の「垂直な関係(評価・指導の場)」においては、評価への警戒からこうした防衛が強固になり、子どもの内面は潜在化しやすい傾向にあります。対して、医学生によるSSKは、指導的・指示的な役割を緩和する「斜めの関係」として機能します。学生という非評価的な存在が日常の文脈で関わることで、子どもの心理的脅威を低減させ、診察室では捉えきれなかった防衛そのものを可視化することができたと言えます。この乖離は誤差ではなく、子どもの防衛スタイルや家族力動を映し出す重要な臨床指標(アセスメントデータ)であると結論づけました。
その結果、親子間の認識の不一致はいくつかのパターンに類型化されましたが、表現こそ異なるものの、いずれも子どもが自己や家族の均衡を維持しようとする「防衛反応」であると考えられました。診察室等の「垂直な関係(評価・指導の場)」においては、評価への警戒からこうした防衛が強固になり、子どもの内面は潜在化しやすい傾向にあります。対して、医学生によるSSKは、指導的・指示的な役割を緩和する「斜めの関係」として機能します。学生という非評価的な存在が日常の文脈で関わることで、子どもの心理的脅威を低減させ、診察室では捉えきれなかった防衛そのものを可視化することができたと言えます。この乖離は誤差ではなく、子どもの防衛スタイルや家族力動を映し出す重要な臨床指標(アセスメントデータ)であると結論づけました。
◎プライマリ・ケアにおける多職種連携の新たな形
以上のことから、SSKのような診察室外での第三者による関わりは、子どもたちの内面的理解を深め、より適切な支援方針を策定する上で極めて有用であることが分かりました。不一致や乖離は単なる「誤差」ではなく、子どもの防衛スタイルや家族の力動を映し出す重要な臨床指標です。 私たちは、医学生が医療知識と遊びの感覚を併せ持つ「プレ研修医」として関わることで、質の高い診療に寄与できると確信しています。
― 今回1つのテーマを共同で研究に取り組み「第1報」「第2報」「第3報」として発表にまとめ、「第3報」の発表が最優秀発表賞という形になりました。
大倉さん:実は、以前は1つのポスターに3人連名で発表していたのですが、今回は小早川先生から「一人ひとりが責任を持って1枚のポスターを仕上げよう」という提案があり、あえて3人が3つのパートに分けて発表することにしました。結果として、活動の全容を重層的に伝えることができ、それが高い評価に繋がったと感じています。
― 第1報を担当した藤澤さんはSSKの活動を5つのカテゴリーに分類されました。
藤澤さん:SSKでは、その場の状況や子どもの特性に合わせて、トランプをしたり勉強を教えたりと、本当に多様な関わりが行われてきました。しかし、それらが学術的にどう位置づけられるのかは整理されていなかったんです。そこで今回の学会発表にあたり、過去の膨大な活動記録を読み込み、自分なりに「この活動はリラクゼーションだ」「これは認知支援だ」とグループ化していきました。
― 分類してみて、何か気づきはありましたか?
藤澤さん:はい。「医学生はただ子供たちと遊んでいるだけではなく、実は多角的なアプローチを無意識に使い分けていたんだ」と再確認できました。例えば、ADHDのお子さんには外で一緒に体を動かす身体活動が多く選ばれており、それが特性に合った適切な成功体験の場になっていることもデータで裏付けられました。自分たちの活動が客観的な「医療的支援」として機能していると実感できたのは大きな収穫でした。
― 第2報の三谷さんは、14歳の少女とどのように信頼関係を築かれたのですか?
三谷さん:私は特に、初対面での「テンション感」を合わせることを心がけています。おとなしい子には優しく、元気な子には明るく接し、最初は最近楽しかったことや動画サイト、お絵描きの話などのプラスの話題から入るようにしています。この症例でも、最初は母親の背後に隠れていた彼女が、趣味の共有を通じて少しずつ自分のことを話してくれるようになりました。
― 親にも言えなかったトラウマを聞き出した時は、どう感じましたか?
三谷さん:正直、驚きと同時に責任の重さを感じました。子どもにとって親は絶対的な存在であり、その関係を守るためにあえて「困っていることはない」と嘘をつき、自分を押し殺している現実を目の当たりにしたからです。この情報は、私一人の胸に収めるのではなく、月1回のオンラインミーティングで他の学生や先生、心理士さんと共有し、どう支援に繋げるかを徹底的に話し合いました。
― 第3報の大倉さんは、医学生の立ち位置を「斜めの関係」と定義されました。
大倉さん:医師や親は、どうしても「治す」「指導する」という目的を持つ「垂直な関係」になりがちです。子どもはそれを察知し、評価を恐れて本心を隠す「防衛」に入ってしまいます。対して、医学生は「ちょっと年上のお兄さん・お姉さん」という非評価的な、いわば「斜め」の位置にいます。この既存の文脈から離れた立ち位置だからこそ、子どもは警戒を解き、防衛という名の「殻」の中から本音を見せてくれるのだと考えました。
― コミュニケーションにおいて特に意識しているテクニックはありますか?
大倉さん:小早川先生からよく言われるのが「沈黙を恐れるな」ということです。質問しても黙り込んでしまう子に対し、焦って次の話題を振るのではなく、じっと待ってあげる。すると、しばらくしてから「実は……」と、親にも言えない悩みが出てくることがよくあります。この「待つ時間」こそが、斜めの関係における信頼の証なのだと感じています。
― 小早川先生にお伺いします。先生がSSKという活動を始められたきっかけを教えてください。
小早川先生:私が開業する前に大学の医学教育センターにいた縁もあり、2019年頃から臨床実習の学生を受け入れるようになりました。心療内科の外来は待ち時間が非常に長くなりがちで、特に不登校のお子さんは「学校に行けない→学力が下がる→さらに学校に行きづらい」という悪循環に陥っています。そこで、学生さんに待ち時間の15分だけでも勉強を見てあげてほしい、運動不足の子と砂浜で遊んでほしい、とお願いしたのが始まりです。
― 活動の中で、学生さんにお給料を支払われているのがユニークだと感じました。
小早川先生:ボランティアという言葉は便利ですが、無償の奉仕では責任感が希薄になりがちです。部活動や遊びの時間を削って来てくれる学生たちには、家庭教師と同等の「責任」を持って取り組んでほしいという思いから、最低賃金以上のアルバイト代を支払っています。SSKの学生は「プレ研修医」としてシフトに入り、真剣に患者さんと向き合っています。
― 今後のSSKに期待することは?
小早川先生:最近では、学生たちから「近所のお祭りにAED体験ブースを出したい」といった提案も出てくるようになり、活動がボトムアップで広がっています。診療所の方向性と一致していれば、彼らがやりたいことはどんどん後押ししていきたい。この「波乗り」の精神が、次世代の医学生たちにも受け継がれていくことを願っています。
― 今回の経験は、皆さんの将来にどう影響しそうですか?
藤澤さん:私は消化器内科か耳鼻科を志望していますが、どの科に進んでも子どもと接する機会はあります。ポスター作成を通じて「どうすればより良い支援ができるか」を客観的に考えるスキルが身についたので、臨床に活かしていきたいです。
三谷さん:私はずっと小児科志望でしたが、SSKを通じて「児童精神」という分野の奥深さを知りました。どの道に進んでも、子どもや親御さんに寄り添う姿勢を忘れず、勉強を続けていきたいという明確な目標ができました。
大倉さん:親にばかり話を聞くのではなく、しっかり子ども本人に焦点を当てて対話をする大切さを学びました。僕は整形外科に興味があり、積極的に手術に携わりたいと思っているのですが、スポーツ整形などで子どもを診る際には、この経験を活かしていきたいです。また、学生のうちに研究の一連のプロセスを経験できたことは、一生の財産になったと思っています。
三谷さん:私はずっと小児科志望でしたが、SSKを通じて「児童精神」という分野の奥深さを知りました。どの道に進んでも、子どもや親御さんに寄り添う姿勢を忘れず、勉強を続けていきたいという明確な目標ができました。
大倉さん:親にばかり話を聞くのではなく、しっかり子ども本人に焦点を当てて対話をする大切さを学びました。僕は整形外科に興味があり、積極的に手術に携わりたいと思っているのですが、スポーツ整形などで子どもを診る際には、この経験を活かしていきたいです。また、学生のうちに研究の一連のプロセスを経験できたことは、一生の財産になったと思っています。
大学ネットワーク委員会 取材後記
今回の受賞者インタビューを拝聴し、山口大学の学生グループであるスタディーサーフィン研究会の活動から生まれた3題の研究は、同じ活動を基盤としながらも、それぞれが異なる視点で地域の子どもたちに向き合った意欲的な発表であったと感じました。活動の舞台となった波乗りクリニックは、児童精神領域に加え、総合診療や在宅医療にも取り組む地域に根ざした診療所であり、その診察室の外に広がる子どもたちの生活や地域との関わりに目を向けた点が大変印象的でした。学生の皆さんは、現場で試行錯誤を重ねながら自ら課題を見いだし、それを研究という形でまとめ上げました。この経験は、将来どの診療科へ進んだとしても、臨床の中から課題を発見し、科学的な視点で解決策を探究する姿勢につながる貴重な財産になると思います。また、小早川先生が学生一人ひとりの関心を尊重しながら丁寧に指導されていたことも印象的であり、今回の受賞が今後このような学びに挑戦する学生の輪をさらに広げる契機となることを期待しています。
大学ネットワーク委員会 委員 井口 清太郎先生
大学ネットワーク委員会 委員 井口 清太郎先生
最終更新:2026年09月08日 11時39分




















