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vol.25/「薬局薬剤師との連携強化を図る一方、地域の健康イベントにも積極参加」【薬剤師】野田学先生

全国規模で店舗展開する大手調剤薬局チェーンでキャリアを積んだあと「地元に戻って地域医療に携わりたい」との思いがふくらみ、生まれ故郷の福井県にUターンしてきた野田学先生。その転機を生むきっかけのひとつにJPCAとの出会いがあったとのことです。そんな野田先生に地域との関わりについて、お話をうかがってみることにしました。
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大手調剤薬局チェーンを退職して地元へ

― 先生が薬剤師になろうと思ったきっかけは何だったのですか?

特別な理由はなく、母親から「薬剤師になったら?」と勧められたことがきっかけです。薬剤師への憧れどころか、薬剤師がどんな仕事をするのかすら知らなかった。「薬を開発する人なのかな?」と、その程度の認識でした(笑)。
もともと福井県は薬剤師の数が少ないんです。調剤薬局自体も少なく、医薬分業率(処方箋受取率)は、日本で一番低いという現状があります(日本薬剤師会の発表によると、2022年度で福井県は59.3%。全国都道府県のうち60%未満は福井県のみ)。そういうこともあって薬剤師という職業が身近じゃなかったことも影響しているでしょうね。私の母親は元検査技師で、医療系の仕事をしていたことから薬剤師を勧めてきたのだと思います。

― そして近畿大学薬学部に進学されたのですね。

そうですね。2007年に卒業して、全国にチェーン展開している大手調剤薬局に就職しました。それで配属された先が山口県です。山口には7年間いましたが、 5年目くらいからですかね、地域医療に関心を持つようになったんです。それが私にとっての転機となりました。先ほども言ったように、もともと強い意志があって薬剤師になったわけではないんですが、それでも働くうちに自分なりの「薬剤師像」というものができてきて、それが地域医療の考え方とぴったり重なったと言えますね。
当時、 私は薬局長を務めていました。そのまま薬局をマネジメントしながら現場で働く道もあれば、複数の薬局をマネジメントする管理職の道もありました。どちらかを選択しなければならない時期でもあったのですが、よくよく考えてみたら「どっちも自分には向いてないな」ということを感じたんです。

― それで、地域医療の道を選んだわけですか?

はい。見ず知らずの土地で、見ず知らずの人に医療を提供することに疑問を持ち始めていたんです。配属された地域になじむのが難しかったこともありますが。薬剤師としての基礎を作ってくれた会社なので、もちろん感謝はしているのですが、自分とは方向性がずれてきたと言いますか……。それで地域医療に携わるなら縁もゆかりもない土地ではなく、自分の地元に戻ろうと思って転職を決意したというわけです。山口にいる時も年に2回は福井に帰省していたのですが、帰ってくるたびに「年々寂れてきてるなぁ……」と思っていたんです。このままだと地元の医療はどうなるんだろう、自分はただ衰退していくのを見ているだけなのかな……と思ったことも大きかったですね。
地元に戻って勤めたのが「若狭高浜病院」。独立行政法人「地域医療機能推進機構」が展開する病院で、 地元の町にひとつしかない病院です。「地域医療」という言葉からもうかがえるように、プライマリ・ケアに通じる医療を提供している点に惹かれて入職しました。

学会に入っていることの意義

― 先生がJPCA(日本プライマリ・ケア連合学会)に 出会ったのはいつですか?

まだ山口にいる時ですね。当時は個人的にいろいろな研修を受けていたんです。もちろん社内で行われる研修も受けていましたが、それだけでなく「外の世界」も見ておいた方がいいと思ったんですね。それで九州に行ったり、広島に行ったりといろいろなところで研修を経験するなかで、もっとも興味を感じるものが多かったのが、JPCAの研修だったというわけです。それなりに費用はかかりましたが(笑)、得るものは大きかったと思っています。その関連でプライマリ・ケア認定薬剤師の資格も取りましたしね(2023年7月15日時点で福井県におけるプライマリ・ケア認定薬剤師は野田先生のみ)。JPCAとの出会いがUターンのそもそものきっかけになったとは言えますね。

― JPCAに入っていて、メリットに思えることはなんですか?

まずあげられるのは、実は福井はプライマリ・ケアが盛んな地域だということに気づかせてもらったことですよね。
私が勤める若狭高浜病院は高浜町というところにあるのですが、ここには「和田診療所」があります。この和田診療所はプライマリ・ケアの世界では全国的にも有名なところなんです。その影響もあり、今では当院にもプライマリ・ケア認定医や指導医が複数人在籍しております。彼らの協力のおかげで、昨年よりプライマリケア認定薬剤師の新規認定の要件である「見学実習」の受け入れを行っており、昨年、今年と1人ずつの受け入れを行うことができました。
そういうプライマリ・ケアに関する情報にふれやすいという点はやはり大きいですね。
情報収集に加えて、地域とのつながりの大切さも学会のさまざまな方たちと交流していくなかで認識させられますし、セミナーからも学べるものはたくさんあります。
例えば先日学んだのが「SDH(Social Determinants of Health)」。日本語では「健康の社会的決定要因」と言いますが、健康に影響するさまざまな社会的背景(地域におけるつながりや経済状態、文化、環境など)を指すものです。こうしたソーシャルキャピタルの分野の考え方にふれることもできますし、他に行動経済学の話も聞けました。このような知見は本当に勉強になります。

― 学会で得られる情報は現場でのお仕事にも役立っていますか?

そうですね。私は病院の薬剤師なので、患者さんと直接お話をするよりも医療関係者との接点の方が多いのですが、先ほども申し上げたように勤務先は地域医療を重視しているので、その点で意思疎通を図りやすい面は確かにあります。同じ価値観を有していると言えばいいでしょうか、退院後の患者さんのことも考えながら連携を図って仕事をしていますね。もちろん地域の薬局薬剤師のみなさんとも連携しています。退院した患者さんの情報を共有するといったことですが、こうした連携は今後さらに強化していきたいと思っています。
でも、福井に戻ってきた当初は「何年か病院で働いたら自分で薬局を開業しよう」と考えていたんです。生まれ故郷とは言え地域のことはあまりよく知りませんでしたから、いきなり薬局を開いても患者さんに寄り添った対応は難しい。それなら病院で働きながら地元への理解を深めようと思ったわけですね。いまでは病院でプライマリ・ケア認定薬剤師としての仕事にやりがいを感じているので、 薬局を開業するというプランは棚上げになっています(笑)。
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    指導医・認定医・学生らとのマルチモビディティカンファレンスの様子

薬剤師とプライマリ・ケアは親和性が高い

― 地域の方々とふれあう機会もあるのでしょうか?

はい、あります。ひとつには「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」ですね。これは町と福井大学医学部地域プライマリ・ケア講座、また町内の医療・介護福祉関係者や地域住民が一体となった取り組みです。私自身もできるだけ参加することにしています。
どういうものかと言うと「話を聞いて、喋るだけ」。健康のことや高浜のこと、その他いろんなことを専門家や活動家の方たちを招いて話を聞き、自由に話すという定期的なイベントです。いくつか例をあげると、これまで「健康」「スポーツ」「野菜」「子育て」「独居」「認知症」「フレイル」といった話題がテーマになりました。集まるのは地域住民の方や行政関係者、福祉関係者、医療関係者といった人たちで、開催は月に1回。毎回15人から20人が参加しますね。また、この「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」から生まれたものとして「赤ふん坊や体操」というものがあります。
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    健高カフェの様子

―「赤ふん坊や体操」ですか?楽しそうですね。

高浜町には「赤ふん坊や」というご当地キャラがいて、テーマソングも作られているんです。このキャラとテーマソングを使って何かできないかという話が「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」のなかで出て「それなら健康に役立つ体操を作ってみよう」ということになりました。そこで運動コーディネーターと理学博士の方たちの監修のもと、生まれたのが「赤ふん坊や体操」です。「郷土愛の醸成」と「子供の発育」「介護予防」「交流の創出」を目的としたもので、いろんな機会を通して町の人たちに楽しんでもらっています。子どもから年配の方まで楽しく体を動かせる体操で、YouTubeにも動画を公開しています。私が出ている動画もありますよ(笑)。
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    赤ふん坊や体操
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    体操後には参加者との雑談タイム
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    参加することでもらえるタンブラーとスタンプカード
<活動されているカフェ>
https://www.facebook.com/kenkocafe.takahama

<活動されている赤ふん体操>
https://www.facebook.com/akafunex

 ※「赤ふん坊や音頭体操」動画
https://www.youtube.com/watch?v=rDb5gukTAS0

― 薬剤師は患者さんにとって身近な存在

薬剤師はもともと患者さんに近い存在です。私の場合は病院薬剤師ですが、薬局薬剤師は患者さんの身近なところで健康相談にのったりもしています。医師とはまた違ったスタンスですよね。だから薬剤師とプライマリ・ケアは親和性が高いと言えますし、むしろプライマリ・ケアそのものと言っていいとも思っています。

その意味では、私はもっとたくさんの薬剤師の人たちがJPCAに入ってくれたらな、と待ち焦がれているんです(笑)。先ほども言ったように、最新の情報にふれることができますし、自身の成長に結びついていく。また、薬剤師同士の横のつながりも出てきます。そこから新しい動きが生まれてくれば、いろいろと面白くなっていくんじゃないでしょうか。お互いに地域をより良くしていくようなことをしていきたいですね。

プロフィール

2007年3月 近畿大学薬学部卒業、薬剤師免許取得
2007年4月 総合メディカル株式会社入社
2014年12月-現在 社会保険高浜病院(現:JCHO若狭高浜病院入職)

所有資格
プライマリ・ケア認定薬剤師、病院薬学認定薬剤師、介護支援専門員、公認スポーツファーマシスト、ファイナンシャルプランナー2級

ご所属学会
日本プライマリ・ケア連合学会、日本病院薬剤師会、日本薬剤師会、医療薬学会

取材後記

「帰省するたびに地元が年々寂れてきていることを実感し、その衰退をただ見ているだけでいいのかと思いました…」。インタビュー中、地元に戻ることを決めた理由のひとつとして、野田先生はそう語った。
先生の場合、地元は福井県高浜町だが、これは同町に限ったことではなく、多くの地域に通じる問題だ。その問題に対して野田先生は「ただ見ているだけの自分」でいることを潔しとせず、Uターンを決意した。その姿勢に共感を覚える人もきっと少なくないはずだ。「地元のために何かしたい」との思いを抱いていれば、同じ志を持つ人たちとの出会いが生まれる。その出会いから新たな可能性が広がっていくことも野田先生のお話から伝わったに違いない。なお、お話の中に出てきた「赤ふん坊や音頭体操」の動画は実にユニーク。思わず笑顔になるので、ぜひご覧いただきたい。

最終更新:2023年08月26日 20時41分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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