ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!vol.38 /「薬を減らすことを考えるのも薬剤師の役割」 【薬剤師】吉田 聡先生
ニュース
プライマリ・ケア Field LIVE!
vol.38 /「薬を減らすことを考えるのも薬剤師の役割」 【薬剤師】吉田 聡先生
幼少時代、山のように薬を飲まされていた祖父の姿に「薬ってなんだろう?」と思い、それが薬剤師になるきっかけにつながったという吉田聡先生。その歩みを振り返りながら「薬剤師だからできること」や「プライマリ・ケアとの出会い」「薬局運営のあり方」などについてさまざまに語っていただくことにしました。
山のように薬を飲まされていた祖父
― 先生が薬剤師を目指した理由からおうかがいしたいと思います
将来的に医療の世界に行くんだろうなというのは、幼稚園の頃から漠然と考えていました。というのも、私は体が弱くて「病院」が身近な存在だったからです。自分にとっては馴染みのある場所なので、働くとしたら病院なんだろう、と。その漠然とした思いが「薬剤師」という具体的な職種に絞られたのは、祖父の死がきっかけでした。
今でもよく覚えていますかが、祖父は毎日山のように薬を飲んでいたんですね。朝は18錠、昼は12錠、夜は15錠。さらに粉薬を4袋です。それで祖父が「(薬で)腹一杯やから飯食われへんねん」 と嘆いていたことも覚えています。それでも、処方された薬は「これは必要なものだから」と真面目に飲んでいたんです。でも、その祖父が亡くなったんですね。私はその時高校生でしたが、「おじいちゃんは病気を治すために、ちゃんと薬を飲んでいたのに死んでしまった。どうしてそんなことが起きるんだろう?」 薬を飲んだら病気は治るものと単純に考えていたわけですが、それだけに祖父の死はショックでした。その時「薬」と言うものをもっと知らなければならないと思い、それから薬剤師になると心に決めました。
今でもよく覚えていますかが、祖父は毎日山のように薬を飲んでいたんですね。朝は18錠、昼は12錠、夜は15錠。さらに粉薬を4袋です。それで祖父が「(薬で)腹一杯やから飯食われへんねん」 と嘆いていたことも覚えています。それでも、処方された薬は「これは必要なものだから」と真面目に飲んでいたんです。でも、その祖父が亡くなったんですね。私はその時高校生でしたが、「おじいちゃんは病気を治すために、ちゃんと薬を飲んでいたのに死んでしまった。どうしてそんなことが起きるんだろう?」 薬を飲んだら病気は治るものと単純に考えていたわけですが、それだけに祖父の死はショックでした。その時「薬」と言うものをもっと知らなければならないと思い、それから薬剤師になると心に決めました。
― 大学卒業後は北海道で薬剤師としてのスタートを迎えました。なぜ北海道だったのでしょう?
地元を離れてみたかったんですね。当時は奈良に住んでいたのですが、どこか思いっきり遠くへ行ってみたいなと考えて、北海道と沖縄を検討しました。当時は、例えば沖縄だとスキューバダイビングを楽しみながら薬剤師として働くといったスタイルが流行していたんです。北海道ならスノボですね(笑)。それで結局は北海道で働くことにしました。
最初に勤めたのは地元のドラッグストアチェーンです。ここで店長を経験して、その後調剤薬局チェーンに転職しました。そこでも薬局長を経験させてもらって、3年くらい働いたタイミングで、今度は病院に転職しました。ドラッグストアも調剤薬局も経験したので、次は病院薬剤師にチャレンジしたいと思ったわけです。結果的にそれは有意義なチャレンジになりました。いろんな意味で薬剤師としての成長につながったと個人的には思っています。
最初に勤めたのは地元のドラッグストアチェーンです。ここで店長を経験して、その後調剤薬局チェーンに転職しました。そこでも薬局長を経験させてもらって、3年くらい働いたタイミングで、今度は病院に転職しました。ドラッグストアも調剤薬局も経験したので、次は病院薬剤師にチャレンジしたいと思ったわけです。結果的にそれは有意義なチャレンジになりました。いろんな意味で薬剤師としての成長につながったと個人的には思っています。
他の医療従事者との関わりの中で学んだこと
― 病院勤務が薬剤師としての成長にどうつながっていたのでしょう?
病院薬剤師はやはりドラッグストアや調剤薬局に比べると、他の医療従事者との関わりが圧倒的に多いんですね。調剤薬局時代も医師と接する機会はありましたが、正直そんなに頻繁に話せるわけではありませんでした。会うとしても週に1回程度でしたね。でも病院の場合は日常的に会話ができます。医師に限らず、看護師や理学療法士といった人たちともしょっちゅう顔を合わせて情報のやりとりをしていました。だから「医療の全体像」が見えるようになったと言えます。
また、これは薬剤師なら誰もが心当たりがあることでしょうが「どうしてこういう処方をしたのかな?」と思うことがか必ず何度あるんです。そういう場合、 調剤薬局にいた時は「疑義照会」という手続きを取る必要がありました。それが病院薬剤師だと「ちょっといいですか?この処方なんですけど」と本当に気軽に医師に聞くことができるわけです。もちろん医師もきちんと答えてくれます。コミュニケーションが取りやすいぶん自分の意見も言いやすくなって、それまで以上に仕事が面白くなっていきました。
あとはそうですね、当時私が勤めていた病院では、看護師が薬の鑑別(持参薬鑑別:入院に際して、患者さんが服用している薬の種類や量などを調べること)をしていたんです。その業務にけっこう時間をとられているみたいだったので「薬のことですから、こっちでやりますよ」と引き受けたら、とても喜んでもらったということもありましたね。こういう連携のようなところでも仕事の面白さを感じました。
また、これは薬剤師なら誰もが心当たりがあることでしょうが「どうしてこういう処方をしたのかな?」と思うことがか必ず何度あるんです。そういう場合、 調剤薬局にいた時は「疑義照会」という手続きを取る必要がありました。それが病院薬剤師だと「ちょっといいですか?この処方なんですけど」と本当に気軽に医師に聞くことができるわけです。もちろん医師もきちんと答えてくれます。コミュニケーションが取りやすいぶん自分の意見も言いやすくなって、それまで以上に仕事が面白くなっていきました。
あとはそうですね、当時私が勤めていた病院では、看護師が薬の鑑別(持参薬鑑別:入院に際して、患者さんが服用している薬の種類や量などを調べること)をしていたんです。その業務にけっこう時間をとられているみたいだったので「薬のことですから、こっちでやりますよ」と引き受けたら、とても喜んでもらったということもありましたね。こういう連携のようなところでも仕事の面白さを感じました。
― その後、再び調剤薬局に転職、ここでも薬局長を務めています
その調剤薬局の経営者はもともとMRだったんです。だから経営は得意だけど、薬局の管理自体はそうでもないという状況でした。私は調剤薬局の薬局長経験がありますから、そのマネジメント力に期待されて迎えられたかたちですね。そこはけっこう患者さんの数が多い薬局で、かなり必死になって管理業務に取り組みました。経営者も私の意見に耳を傾けてくれたので居心地はよかったといえます。私自身も勉強になりましたね。
6年ほど頑張ったところで「そろそろ自分で開業しようかな」と思い立ち、茨城にちょうどいい物件があったので、そこで独立しました。今度は自分自身が経営者になったわけですが、そのことで長期的な視野を持つようになったといえます。自分の薬局をこの先ずっと続けていく上で何が必要かと考えた時に行き着いたのが「在宅医療」です。当時は在宅医療という言葉はあるにはあったものの、まだまだなじみの薄い分野でした。まわりの薬局の経営者や薬剤師を見ても具体的な動きはなくて、だったら今から手をつけておけば、自身の薬局の独自性につながると思い、いろいろと勉強を始めました。そこで出会ったのが「プライマリ・ケア」です。日本プライマリ・ケア連合学会にも入りました。
6年ほど頑張ったところで「そろそろ自分で開業しようかな」と思い立ち、茨城にちょうどいい物件があったので、そこで独立しました。今度は自分自身が経営者になったわけですが、そのことで長期的な視野を持つようになったといえます。自分の薬局をこの先ずっと続けていく上で何が必要かと考えた時に行き着いたのが「在宅医療」です。当時は在宅医療という言葉はあるにはあったものの、まだまだなじみの薄い分野でした。まわりの薬局の経営者や薬剤師を見ても具体的な動きはなくて、だったら今から手をつけておけば、自身の薬局の独自性につながると思い、いろいろと勉強を始めました。そこで出会ったのが「プライマリ・ケア」です。日本プライマリ・ケア連合学会にも入りました。
「なくすりーな」という薬局名にこめた思い
― プライマリ・ケアと出会ってよかったと思うことはなんでしょうか?
まず学会のことから言うと、皆さんものすごく勉強されていますよね。そのことで刺激を受けますし、また研修においてもディスカッションが多いので、結果として親しくなることが多い。その相手にしても薬剤師だけではなく、医師であったりその他の職種の方々であったりと多様性があるので、いろんな考え方に触れることができます。これもメリットのひとつですね。
私はプライマリ・ケア認定薬剤師の資格も取りましたが、その際に医師に同行して在宅医療の現場を経験したことがあります。そこで思ったのは、薬剤師が役に立てる場面というのは結構あるんだなということです。例えば患者さんが薬をきちんと服用しているかどうかは、残薬を見るとすぐにわかるんですね。他にも薬の管理面で医師に提言できるようなこともかなりあると思いました。
それで薬剤師が在宅医療にもっと関わっていけるようになるには他の医療従事者と仲良くなることだと思い、交流の場としてケアカフェというものを始めました。ここでかなり多くの人たちが交流するようになりました。その後、今の北千住に移るまでケアカフェは続けましたね。
私はプライマリ・ケア認定薬剤師の資格も取りましたが、その際に医師に同行して在宅医療の現場を経験したことがあります。そこで思ったのは、薬剤師が役に立てる場面というのは結構あるんだなということです。例えば患者さんが薬をきちんと服用しているかどうかは、残薬を見るとすぐにわかるんですね。他にも薬の管理面で医師に提言できるようなこともかなりあると思いました。
それで薬剤師が在宅医療にもっと関わっていけるようになるには他の医療従事者と仲良くなることだと思い、交流の場としてケアカフェというものを始めました。ここでかなり多くの人たちが交流するようになりました。その後、今の北千住に移るまでケアカフェは続けましたね。
― その東京の薬局の名前は「なくすりーな」。この名称にはどのような思いが込められているのでしょう?
これにはふたつの意味があって、ひとつは「いらない薬はなくす」です。薬というものはもちろん飲まなければいけないわけですが、中には減らそうと思えば減らせるものもあるんです。薬を減らしながらも治療効果を維持することができるんですね。薬による副作用のことまで考えて薬を最適化することが薬剤師の役割だと私は考えています。だから「薬をなくす」なんです。
もうひとつは「薬に対する不安をなくす」です。患者さんの中には薬に対して「こんなに飲んでも大丈夫なのかな」と考える人も多くて、その不安から服用を控えるケースも見受けられます。薬剤師としてはそうした不安をなくして、適切に薬を服用してもらいたい思いがあります。その思いも「なくすりーな」という名称に込めました。
もうひとつは「薬に対する不安をなくす」です。患者さんの中には薬に対して「こんなに飲んでも大丈夫なのかな」と考える人も多くて、その不安から服用を控えるケースも見受けられます。薬剤師としてはそうした不安をなくして、適切に薬を服用してもらいたい思いがあります。その思いも「なくすりーな」という名称に込めました。
そうした思いを実現する具体的な取り組みとしては、オンラインで処方箋の受け付けをしたり、全国の人からの薬の相談にのったり、さらにはそれに関連して病院を紹介したりもしています。また、一般的に調剤薬局には処方箋が出たときに行くことがほとんどなのですが、私はもっと気軽に、それこそ病気になる前に立ち寄ってもらえる薬局にしたくて、野菜や妻の作った惣菜などを販売したりもしています。そうやって薬以外の目的で来ていただくことで「ついでだから、ちょっと相談してみようかな」という雰囲気を作っていければと思っているんです。
「病気になってから」ではなく「病気になる前から」薬剤師に相談できる、身近に感じてもらえる
そんな薬局が地域に増えるといいですよね。
そうした思いを大切にしながら、今後も薬局運営を続けていきたいと考えています。
「病気になってから」ではなく「病気になる前から」薬剤師に相談できる、身近に感じてもらえる
そんな薬局が地域に増えるといいですよね。
そうした思いを大切にしながら、今後も薬局運営を続けていきたいと考えています。
プロフィール
薬剤師 吉田 聡
【経歴】
2000年 4月 神戸学院大学薬学部薬学科 卒業
同年 8月 株式会社メリッサコーポレーション入社
同年 9月 ドラッグメリッサ北栄東急店 店長
2001年 株式会社アインファーマシーズ入社
2003年 アイン薬局釧路芦野店 薬局長
2004年 オホーツク勤医協北見病院 入職
2006年 有限会社マスト 入社
2007年 有限会社マスト 桜町調剤薬局 薬局長 就任
2012年 株式会社LLE 代表取締役
2022年 なごみの薬局 なくすりーな日の出 薬局長就任
【資格】
薬剤師免許
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日本在宅薬学会認定エヴァンジェリスト
COMPASSプロジェクト 3☆ファーマシスト
言響インストラクターその他多数
【所属】
日本プライマリ・ケア連合学会
東京都薬剤師会
足立区薬剤師会
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会
【経歴】
2000年 4月 神戸学院大学薬学部薬学科 卒業
同年 8月 株式会社メリッサコーポレーション入社
同年 9月 ドラッグメリッサ北栄東急店 店長
2001年 株式会社アインファーマシーズ入社
2003年 アイン薬局釧路芦野店 薬局長
2004年 オホーツク勤医協北見病院 入職
2006年 有限会社マスト 入社
2007年 有限会社マスト 桜町調剤薬局 薬局長 就任
2012年 株式会社LLE 代表取締役
2022年 なごみの薬局 なくすりーな日の出 薬局長就任
【資格】
薬剤師免許
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日本在宅薬学会認定エヴァンジェリスト
COMPASSプロジェクト 3☆ファーマシスト
言響インストラクターその他多数
【所属】
日本プライマリ・ケア連合学会
東京都薬剤師会
足立区薬剤師会
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会
取材後記
薬学生時代、吉田先生は薬剤師という仕事について疑問を抱いたことがあったそうだ。「医師からの指示通りに薬を処方するだけの仕事にやりがいを感じるのだろうか?」。当時は表面的にしか物事が見えてなかった、と苦笑混じりに吉田先生は振り返っていたが、その根底には「薬剤師には薬剤師にしかできない役割があるはず」との思いがあったと考えられる。その後の先生の歩みをうかがえば、そうした思いが浮かび上がってくる。薬局「なくすりーな」の名称の由来や、そこで提供されるサービスがなによりもそのことを物語っている。先生はまたプライマリ・ケア認定薬剤師になることで、さらに視野が広がったとも言っていた。意欲ある若手薬剤師の皆さんにとって吉田先生の歩みはきっといい刺激を与えてくれるに違いない。
最終更新:2024年08月05日 01時35分