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プライマリ・ケアにこそ漢方! 風邪に対する漢方薬の考え方,使い方④ —ほかにもまだある! 風邪の漢方— Vol.2 No.2

はじめに

 前回までに風邪をひいた際の闘病反応と発症からの時間の経過に応じた風邪に対する漢方薬の考え方、使い方を解説した。これまでに紹介した漢方薬を使いこなせるようになれば、単なる対症療法にとどまらない「積極的に治しにいく」姿勢で風邪の診療ができるようになり、高い治療効果も期待できる。風邪の漢方治療は、漢方の基本となる考え方であることから、ぜひとも会得してほしい。
今回は、今までに紹介できなかった漢方薬も含めて、風邪の漢方治療を実際のプライマリ・ケア外来へ活かす方法を紹介する。

風邪の漢方治療とプライマリ・ケア外来

 風邪の漢方治療では、「悪寒」、「発熱」、「冷え」といった生体の闘病反応に応じて漢方薬を選択する。

第一に「悪寒→冷え」タイプの「冷え」を見逃さないことが重要である。
「普段と比べて身体が冷えますか?」
「冷房にあたると嫌ですか?」
「冷たいものではなく、温かい飲み物がほしいですか?」
「きつくて横になりたいですか?」
などの問診が「はい」である、または、水様性鼻汁がある、青白い顔色をしている、四肢などを触診して他覚的な冷えがある場合などは「冷え」の存在が考えられる。
「冷え」が確認できない場合は、悪寒の有無と発症からの経過を考慮して漢方薬を選択する。
 前回までをまとめると、
①「冷え」(+)の場合:麻ま 黄おう附ぶ子し細さい辛しん湯とうで身体を温める治療を行う(第1 回参照)
②「冷え」(−)、「悪寒」(+)の場合:発症後まもない時期で悪寒が存在する場合は、悪寒の程度や発汗・口渇の有無に応じて、麻ま 黄おう湯とう、葛かっ根こん湯とう、桂けい枝し二に越えっ婢ぴ 一いっ湯とうなどで発汗による治療を行う(第2 回参照)
③「冷え」(−)、「悪寒」(−)の場合:発症から時間が経過して悪寒がなく、微熱、喀痰、咳嗽、食欲低下などが出現している場合には、小しょう柴さい胡こ 湯とうや柴さい胡こ 桂けい枝し 湯とうなどでその場で炎症を鎮める治療を行う(第3 回参照)となる。

 風邪の漢方薬を使いこなせるようになれば、単なる対症療法にとどまらない「積極的に治しにいく」姿勢で風邪の診療ができるようになり、高い治療効果が期待できる。とくに発症直後の風邪の場合は、適切な漢方薬の内服と正しい養生で「風邪に即効、漢方薬」といわれるような効果が期待できるので、ぜひ会得してほしい。
 しかし、プライマリ・ケア外来では、「2 〜3 日前から症状があります」、「数日前から風邪っぽくて、だんだん悪くなりました」と、発症後ある程度時間が経過してから受診する患者も多く1)、発症後まもない悪寒のある時期に受診することは比較的少ない。また、風邪の治療で再診をしてもらうことがむずかしく、漢方治療の効果を確認したり、時間経過を意識した治療を行いづらい場合も多い。
さらに、仕事や学校のため、温かくして、安静に保つ正しい養生ができないなど、最適な漢方治療のための制限がいくつか存在することも事実である。

今回は、それらの制限にも考慮しながら、プライマリ・ケア外来の幅広いニーズに対応できる漢方薬を紹介する。

漢方医のもう一言(救急や病棟でも漢方のトレーニング):

肺炎や敗血症などの患者で発熱のない場合、予後が悪いことは経験的に実感するところであるし、重症敗血症患者において、低体温(≦ 36.5℃)は、敗血症性ショック発症とは無関係に死亡率が上昇すると報告2)されている。この低体温は、漢方医学的にも闘病反応が乏しく「冷え」て、より重篤な病態であると判断できる。
また、肺炎や尿路感染症の入院患者の治療をする際にも、脈の状態、悪寒・発汗・口渇の有無や熱型の変化を観察することで漢方医学的な病態の把握が可能である。実際に漢方薬を併用するかどうかは別にして、外来よりも救急搬送された患者や入院患者のほうがより詳細な所見や経過をみることができるため、漢方医学的診察のよいトレーニングになり、外来での風邪の漢方治療に活かすことができる。

ほかにもまだある風邪の漢方薬! —プライマリ・ケアの多様なニーズに対応する—

◯ 小しょう青せい竜りゅう湯とう(No.19)
 アレルギー性鼻炎に対する漢方薬として有名であるが、風邪に対しても頻用される。麻黄湯や葛根湯などと同様に発汗作用のある麻黄と桂皮が入っているが、そのほかの構成生薬がずいぶん違うことが特徴である。身体を温める乾かん姜きょう(生姜を蒸して乾燥させたもの)や細さい辛しん、半はん夏げ 、五ご味み子しといった鎮咳作用・水分代謝の異常を改善させる生薬が含まれる。
よって小青竜湯は、発汗作用と同時に身体を内部から温めながら、水様性の鼻汁や水様性の喀痰が多い咳を軽減させる。
「今朝から寒気がして鼻水が出はじめました」というような発症直後の風邪から水様性の鼻汁や喀痰が数日間持続している場合にも適応になる。
色白で普段から浮腫みっぽい人が風邪をひくと小青竜湯が適応になることが多い。
イメージとして、第1 回で紹介した「悪寒→冷え」タイプで麻黄附子細辛湯(No.127)が適応となる風邪と同じベクトル上にあって、悪寒と冷えが同程度に存在している状態に小青竜湯が適応になると考えることができる(図1)。
また、構成生薬で考えると、小青竜湯は乾姜、麻黄附子細辛湯は附子で身体を温める違いはあるが、麻黄と細辛は共通している(図2)。
 風邪やアレルギー性鼻炎で水っ洟が出ている患者で小青竜湯を内服すると、内服15 分前後で体が温まり、症状が軽減する。内服しても効果がすぐに実感できない場合は、薬の効果が弱い可能性が高い。
小青竜湯を増量するか、もしくはより温める作用の強い麻黄附子細辛湯に変更して対応する。また、小青竜湯と麻黄附子細辛湯を併用することで、さらに効果が増強される。
しかし、併用した場合、麻黄の量が増えることで、麻黄の副作用である胃もたれや動悸、不眠といった症状が出る恐れがある。胃が弱い人、高齢者、長期に内服する場合には注意が必要である。
麻黄の量を増やしたくない場合は、小青竜湯と冷えを伴う症状に対して他の漢方薬とあわせて用いるブシ末を併用するとよい。小青竜湯+附子となり、麻黄附子細辛湯の生薬がすべて含まれることになる(図2)。
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    図1
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    図2
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漢方医のもう一言(試服のススメ):

風邪に対して適切な漢方薬を選択できているかを確認するために、外来での試服をお勧めする3,4)。漢方薬を内服してもらい、ベッドで温かく保ち、15 分後に自覚症状の改善(悪寒が軽減する、体が温まる、咽頭痛や鼻汁が軽減する)をみる。効果があれば、さらに自宅で服用する分を処方する(効果がなければ再度、別の漢方薬を試す場合もある)。風邪で受診した患者に漢方薬の試服を行うことは、漢方を勉強するための有用なトレーニングである。今回紹介した小青竜湯や麻黄附子細辛湯は、試服することで、水様性鼻汁がピタッと止まって効果が実感しやすいため、とくにオススメである。
◯柴葛解肌湯(さいかつげきとう)(葛根湯(No.1)+ 小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(No.109))
 大正時代のスペイン風邪の流行の際に漢方医が活用して死者を出さなかったという逸話で知られる漢方薬である。エキス剤では葛根湯(No.1)と小柴胡湯加桔梗石膏(No.109)を合わせて用いることで代用する。風邪の急性期に用いる葛根湯と亜急性期以降に用いられる小柴胡湯、熱を冷ます作用のある石膏が組み合わされていて、発汗作用に加えて、抗炎症作用をもつ漢方薬である(体の表面と内部に対して同時に作用するという意味で表裏双解(ひょうりそうかい)的効果という5))。
 風邪の漢方治療の基本は、闘病反応と時間経過に応じて、厳密に使い分けるべきである。しかし、悪寒があり、発症直後に適応となる麻黄湯や葛根湯は、発症から2 〜3 日以内の短い期間の適応に限定される(図3)。
 前述のとおり、風邪の再診がむずかしいプライマリ・ケア外来では、より適応となる時期が幅広い漢方薬が望ましい場合もある。柴葛解肌湯は、悪寒があって、汗がない葛根湯や麻黄湯が適応となる風邪やインフルエンザの症例に対して、発症直後から亜急性期までを見越した治療が可能であり、ブロードスペクトラムに対応することができる(図3)(そのぶん、薬の切れ味としてはやや鈍化してしまうとみるべきであろう)。
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◯補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(No.41)
 補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味をもつ。
さまざまな原因(感染症、悪性腫瘍、栄養失調、外科手術など)によって、全身倦怠感や食欲不振、微熱などの症状がある際に、弱った消化吸収能を立て直すことで全身状態を改善させる漢方薬である。風邪の症状はおさまったものの倦怠感、食欲不振、微熱が続いている場合がよい適応になる。
また、風邪に限らず、筆者は老人ホームの訪問診療で、肺炎や尿路感染症などで入院治療を行い治癒して退院はしたものの、食事が入らない、何となく活気がない、微熱が続くといった、検査では異常が現れない高齢者の急性感染症の治癒後の不調によく活用している。
このように弱った体力を補う効能効果を期待できる薬剤は西洋医学の治療にはなく、漢方治療のよい適応である。
◯桔梗湯(ききょうとう)(No.138)
 漢方薬のトローチである。咽頭痛が強いのど型の風邪に適応になる。使用方法がポイントで、湯のみ半分くらいの熱いお湯に溶かしたあと、すこし冷めるのを待ってからうがいをする。
構成生薬の桔梗と甘草には鎮痛作用と抗炎症作用があり、うがいにより患部に直接触れることで咽頭痛が軽減する(うがい直後に痛みがやわらかくなる感じが実感できる)。
うがいでは届きづらい箇所にも効かせるために、半分はうがいして、残りの半分は飲んでもらうこともある。
全量内服すると、甘草3.0g/ 日(1 日3 回の場合)が含まれるため、偽性アルドステロン症の恐れがある。
桔梗湯は、咽頭痛のみが使用目標で、漢方医学的な診断を考えなくても使用が可能である。
発熱や咳などの症状は西洋医学の薬剤や他の漢方薬で治療を行い、咽頭痛に対しては桔梗湯で治療するといった使い方も可能である6)。

漢方医のもう一言:

「悪寒→発熱」タイプの風邪の経過と主な漢方薬とその適応となる時期を示す(図3)。たとえば、麻黄湯は、即効性が期待できる漢方薬であるが、発症直後の悪寒が強く汗のない短期間に限定される。また、わずかに悪寒があり、体熱感や口渇がある場合に用いる桂枝二越婢一湯(桂枝湯(No.45)+越婢加朮湯(No.28))や亜急性期への移行期から治り際まで適応となる柴胡桂枝湯(No.10)は適応となる時期が広く、さらに発症後ある程度時間が経過してから受診することが多いプライマリ・ケア外来における風邪の患者層と一致する。
そのため、両者は使用頻度が高く、活用しやすい漢方薬である。詳細は、本連載の桂枝二越婢一湯(第2 回)、柴胡桂枝湯(第3 回)の解説を参照してほしい。
漢方薬の適切な処方日数もほぼこの適応期間に一致する。たとえば、麻黄湯は長くても3 日程度が望ましく、桂枝二越婢一湯であれば5 〜6 日程度の処方が可能である。今回紹介した柴葛解肌湯とあわせて、自身の風邪治療のスタンスや患者のニーズ、そして院内の採用漢方薬も考慮して、風邪の治療に漢方薬を積極的に組み込んでいただけたら幸いである。

漢方Q&A

 本連載では、読者の先生方から一般医療用漢方エキス製剤による治療に関する「素朴な疑問・質問」を募集します。
お気軽にきいてください(問い合わせは pcmagazine@primed.co.jp まで) 。

Q : 発汗作用のある葛根湯や麻黄湯などを投与すると解熱する機序として、温熱 産生援助によりウイルスを不活化させること以外にわかっていることはあり ますか?

A:ご質問ありがとうございます。
インフルエンザに感染させたマウスを用いた報告があります。黒川らは、感染に伴うインターフェロン(IFN)に反応性のインターロイキン(IL)-1 α産生を抑制することで葛根湯(そのなかの桂皮)がアスピリンとは異なる解熱機序をもつことを報告7,8)しています(図4)。さらにこの報告では、葛根湯は、肺炎を軽症化して、感染マウスの死亡率を低下させたことも確認されており、IL-1 α産生抑制が肺胞での炎症反応に伴う細胞浸潤を軽減させたと考えられています。その他にも、麻黄の成分であるエピカテキンはインフルエンザウイルスの脱殻を阻止する9)ことにより、桂皮の匂いの成分であるシンナムアルデヒドは遺伝子転写後のタンパク合成を阻害する10)ことにより、抗ウイルス作用を示すことが明らかになっています。
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参考文献

1)山本舜悟.かぜ診療マニュアル.第2 版,日本医事新報社,2017,p42-43.
2)Kushimoto S, et al. The impact of body temperature abnormalities on the disease severity and outcome in patients with severe sepsis: an analysis from a multicenter,prospective survey of severe sepsis. Crit Care. 2013; 17: R271.
3)三潴忠道.はじめての漢方診療十五話.第1 版,医学書院,2005,p9.
4)三潴忠道.はじめての漢方診療ノート.第1 版,医学書院,2007,p99-101.
5)木下恒雄.併病の概念からみた柴葛解肌湯(浅田家方)の運用について.日本東洋医学会雑誌.1994;44(4):607-611.
6)岸田直樹.誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた.第1 版,医学書院,2012,p155.
7)黒川昌彦,他.葛根湯の新規解熱機序—アスピリンとの対比—.和漢医薬学雑誌.1995;12:390-391.
8)黒川昌彦,他.インフルエンザ感染症に有効な葛根湯成分の解析.和漢医薬学雑誌.1996;13:442-443.
9)Mantani N, et al. Inhibitory effect of Ephedrae herba, an oriental traditional medicine, on the growth of influenza A/PR/8 virus in MDCK cells. Antiviral Res. 1999; 44(3): 163-200.
10)Hayashi K, et al. Inhibitory effect of cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex,on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and vivo. Antiviral Res. 2007; 74(1):1-8.

キーメッセージ

〇風邪の漢方治療は漢方の考え方の基本
 
〇外来での試服や,救急・病棟で漢方のトレーニング
 
〇プライマリ・ケアのニーズに応える漢方治療

プロフィール

吉永 亮
飯塚病院 東洋医学センター漢方診療科
 
略歴
2004 年自治医科大学卒業.
2004 ~ 2006 年飯塚病院 初期研修医.
2006 ~ 2007 年福岡県立嘉穂病院.
2007 ~ 2010 年新宮町相島診療所.
2010 ~ 2013 年八女市矢部診療所.
2013 年4 月より現職.
 
日本内科学会認定内科医、総合内科専門医/日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・家庭医療指導医/日本東洋医学会漢方専門医,指導医自治医科大学の義務年限の期間に,福岡県の離島と山間地の僻地診療所に各々3 年間勤務しました.地域医療を行いながら,当科で漢方の外来研修を行いました.漢方外来で学んだことを地域医療で実践すると,とても有用で,地域住民の方々に喜んでもらえ,その上,自分自身の地域医療のやりがいを高めることができました.そうしているうちに,徐々に漢方の魅力にハマってしまい,地域医療の終了後はもっと本格的に漢方を勉強しようと現在に至ります.どっぷりと漢方の世界に浸かって,漢方の可能性を広げるべく日々奮闘中です.
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最終更新:2022年04月23日 11時33分

実践誌編集委員会

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