ホームスキルアップCurrent topics - プライマリ・ケア実践誌プライマリ・ケア医のための更年期障害診療/①更年期障害診断編「症状のバラエティと鑑別診断」/vol.1 No.1

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プライマリ・ケア医のための更年期障害診療/①更年期障害診断編「症状のバラエティと鑑別診断」/vol.1 No.1

要旨

更年期障害とは、閉経前後の計10 年間に起こる更年期症状のうち、日常生活に支障をきたす病態のことである。のぼせ・ほてり(hot flush)などの血管運動神経症状や萎縮性腟炎、性交痛などの腟症状が主体とされる。しかし、日本における更年期障害では肩こり、易疲労感が多いのが特徴とされる。そのほかにも抑うつ、不眠などの精神神経症状、腰痛、関節痛などの運動器症状、嘔気、食欲不振などの消化器症状、乾燥感、痒みなどの皮膚粘膜症状、排尿障害、頻尿などの泌尿器症状と多種多様である。
 その原因としては、卵巣からのエストロゲン分泌低下という内分泌学的な変化に加え、さまざまな心理社会背景が関与していると考えられている。
 目の前の患者の一つひとつの症状を診るだけでなく、その症状の原因となるような背景を思い描きながら患者とかかわることが、更年期障害を診ていくうえでのポイントである。

はじめに

 更年期障害はのぼせ・ほてり(以下hot flush)などの血管運動神経症状や萎縮性腟炎、性交痛などの腟症状をはじめとしたさまざまな症状を呈する。更年期女性の50 ~ 82%でこれらの症状が見られるとの報告があり1)、非常にありふれた疾患である。
 その原因としては、卵巣からのエストロゲン分泌低下という内分泌学的変化だけではなく、加齢による体力低下や女性らしさの喪失、ライフサイクルの移行に伴う心理社会的ストレスなどが複雑に関与している2)。そのため、症状に対する対応に加え、その背景にある心理社会的な問題や家族へのアプローチが必要となる。
 「プライマリ・ケア医のための更年期障害診療」と題して、更年期障害へのアプローチについて4 回に分けて述べていく。今回は第1回として、更年期症状の多様性とその鑑別疾患について扱う。

更年期障害とは

 女性が性成熟期の終わりに達し、卵巣の活動がしだいに低下し、ついに月経が永久に停止することを閉経という3)。月経が停止した時点で閉経を判断することはむずかしいため、12 ヵ月以上の無月経を確認することにより判定する。
 日本人女性の平均閉経年齢は49.5 歳、中央値は50.54 歳と報告される4)。その前後5 年の合計10 年間を更年期とよぶ5)。
この期間に現れる多種多様な症状のうち、器質的変化に起因しない症状を更年期症状(表1)とよび、これらの症状のなかで日常生活に支障をきたす病態が更年期障害と定義される5)。

症状

欧米では更年期症状はhot flush などの血管運動神経症状と萎縮性腟炎、性交痛などの腟症状が主体とされる6)。
 一方、日本における更年期症状は肩こり、易疲労感、のぼせ、発汗の順であり、肩こりや易疲労感が多いのが特徴とされる(図1)。そのほかは抑うつ、不眠などの精神神経症状、腰痛、関節痛などの運動器症状、嘔気、食欲不振などの消化器症状、乾燥感、痒みなどの皮膚粘膜症状、排尿障害、頻尿などの泌尿器症状と多種多様である。
 これは、欧米がエストロゲン欠乏による内分泌学的な変化に起因する症状を中心にしているのに対し、日本はそれに加え、加齢に伴う身体的変化、精神・心理学的な要因、社会文化的な環境因子などに起因する症状を含めているための違いと考えられる8)。
 いずれも多様な症状であるが、とくに重要と思われる①血管運動神経症状、②腟症状、③精神神経症状について以下に述べる。
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①血管運動神経症状

 hot flush は突然に出現し、顔面から頭部・胸部・全身に広がる熱感である。平均4 分ほど持続し、大量の汗を伴い、その後に寒気や不安感が続くこともある。また、hot flush が夜間に出現すると不眠や寝汗の原因となる。
 その病態生理は不明であるが、何らかの機序で体温調節域が狭小化し、深部体温の変化に対し敏感になるため、わずかな温度変化に過剰に反応してしまうことが原因と考えられている1)。
 閉経間際に出現することが多く、30 ~ 40%が数ヵ月以内に改善し、4 ~ 5 年で85 ~ 90%が改善する9)。人種差があり、黒人やラテン系女性では多く、日本人女性では少ないとされ10)、日本人女性で日常生活に支障をきたすほど重症なのは1 割程度と考えられている11)。
 鑑別疾患としては、甲状腺機能亢進症、ダンピング症候群、カルチノイド、褐色細胞腫、アルコール、薬剤(GnRH アゴニスト、抗エストロゲン薬など)などがあげられ、詳細な問診や身体診察が必要になる6)。
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②腟症状

 腟粘膜はエストロゲン依存性上皮であり、更年期になり、エストロゲンが減少するに伴い、腟粘膜上皮の菲薄化と腟分泌液の分泌低下が起こる6)。それにより、萎縮性腟炎、性交痛を呈し、閉経後より出現しはじめることが多い(図2)。hotflush と違い、腟症状は加齢とともに悪化する。欧米では、閉経3 年後には47%に腟症状を認めたという報告がある12)。
 これも日本人では少ないとされるが、性生活や陰部の悩みを打ち明けることに恥じらいをもつ女性が多い日本の社会文化的背景が関与しているのかもしれない。実際には、更年期の日本人女性へのある調査では、性生活がなくなった理由として最も多かったのは性交痛であった、という結果が得られ13)、腟症状に対する潜在的な悩みはあり、QOL を障害している可能性があると考えられる。
 鑑別疾患としては、感染(カンジダ外陰腟炎や細菌性腟症など)や腫瘍、外傷があげられる6)。

③精神神経症状

 情緒不安定、イライラ、抑うつ気分、不安感、不眠が出現する5)。これらの症状は、エストロゲン低下という内分泌学的変化だけでなく、月経の停止、乳房の萎縮などの女性らしさの喪失、体力の低下や老いの自覚、また子どもの自立、夫の退職、両親の介護などのライフサイクルの変化といった心理社会的背景が関与していることを理解しておく。
 鑑別疾患としては甲状腺機能異常、うつ病、不安障害があげられる。とくにうつ病に関して、更年期は閉経前と比較すると発症リスクが2.5 倍高く14)、常にうつ病の鑑別を頭においておくことが重要と考える。更年期障害における症状であるか、うつ病であるかの鑑別は我々プライマリ・ケア医の強みが発揮できるところであろう。

まとめ

 以上に述べたように、日本人の更年期症状は血管運動神経症状や腟症状だけでなく、精神神経症状、運動器症状、消化器症状、泌尿生殖器症状と多岐にわたる。
また、その症状にはさまざまな心理社会背景が関与しているため、症状一つひとつを診ていくのではなく、眼の前の患者を診ながらその「家族の木」15)を思い描き、患者に寄り添っていくことが求められる。これが更年期障害へのアプローチで非常に重要なポイントである。
 第2回は、より具体的な診断、アセスメント方法について述べていく。

参考文献

1)American Congress of Obstetricians and Gynecologists.ACOG Practice Bulletin No.141:Management of menopausal symptoms.Obstet Gynecol.2014;123(1):202-216.
2)大石元.更年期における身体的・心理的・内分泌的変化.診断と治療.2014;102(8):1111-1115.
3)日本産科婦人科学会.産科婦人科用語集・用語解説集,改訂第3 版.日本産婦人科学会.2013.
4)日本産科婦人科学会教育・用語委員会報告:「本邦女性の閉経年齢について」に関する委員会提案理由.日産婦誌.1995;47(4):449-451.
5)日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会.産婦人科ガイドライン-婦人科外来編2014.日本産科婦人科学会事務局.2014.
6)Deborah G.Management of Menopausal Symptoms.N Engl J Med.2006;355(22):2338-2347.
7)日本産科婦人科学会.生殖内分泌委員会報告:更年期障害に関する一般女性へのアンケート報告.日産婦誌.1997;49(7):433-439.
8)日本女性医学会.女性医学ガイドブック:更年期医療編,2014 年度版.金原出版,2014.
9)Kronenberg F.Hot flushes:epidemiology and physiology.Ann NY Acad Sci.1990;592:123-133.
10)Avis NE,Stellato R,Crawford S,et al.Is there a menopausal syndrome? Menopausal status and symptoms across racial/ethnic groups.Soc Sci Med.2001;52(3):345-356.
11)麻生武志.女性総合外来-基礎と実践,文光堂,2007,428p.
12)Dennerstein L,Dudley EC,Hopper JL,et al.A prospective population-based study of menopausal symptoms.Obstet Gynecol.2000;96:351-358.
13)河端恵美子.更年期女性の性生活の現状と問題点-女性外来の調査から.日本更年期医学会雑誌.2005;13(1):111-120.
14)Freeman EW,Sammel MD,Lin H,et al.Associations of hormones and menopausalstatus with depressed mood in women with no history of depression.Arch Gen Psychiatry.2006;63(4):375-382.
15)McDaniel SH, Campbell TL, Hepworth J, et al.(著).松下 明(監訳).家族志向のプライマリ・ケア,シュプリンガー・フェアラーク東京,2006,439p.

キーメッセージ

〇 更年期の症状は非常にありふれている
 
〇 日本人の更年期症状は肩こり、易疲労感が多いのが特徴
 
〇 内分泌因子以外に加齢、精神心理、社会文化を考慮する
 
〇 症状に関与する心理社会背景を思い描きながら診ていくことが大切

プロフィール

城向 賢
浜松医科大学産婦人科家庭医療学講座
菊川市立総合病院産婦人科
菊川市家庭医療センター

略歴
2007 年浜松医科大学卒業。2007 年よりJA 長野厚生連佐久総合病院で初期・後期研修を行い、総合診療ならびに地域医療を学び、家庭医療専門医を取得する。
2013 年より静岡家庭医養成プログラムクリニカルフェローとして「子宮の中から天国まで」携わる家庭医療を学ぶ上で、女性医学の重要性と必要性を知る。
2014 年より女性医学をsubspecialty として選択し、家庭医療に携わりながら産婦人科専攻医として藤枝市立総合病院産婦人科で学ぶ。
2016 年より現職。
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井上 真智子
ハーバード大学医学部
Beth Israel Deaconess MedicalCenter
Division of General Medicineand Primary Care Research(日野原フェロー)
静岡家庭医養成プログラム指導医
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最終更新:2023年04月27日 11時51分

実践誌編集委員会

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