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第15回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.3 <口演発表の部 優秀発表賞> 東京科学大学医学部
【補足】東京医科歯科大学は、大学名が 東京科学大学 となりました。(2024年10月1日より)
受賞当時の所属は、東京医科歯科大学となります。
受賞当時の所属は、東京医科歯科大学となります。
2024年6月7日(金)〜9日(日)アクトシティ浜松で開催された第15回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会学生セッション。口演発表24エントリー、ポスター発表47エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「口演発表の部」で優秀発表賞を獲得した東京科学大学医学部の宮坂さんと、指導にあたった馬淵先生からお話をうかがいました。
口演発表の部 優秀発表賞
在宅虚弱高齢者におけるフレイルスケールとPhase Angleの関連
##受賞内容
口演発表の部 優秀発表賞
##演題名
在宅虚弱高齢者におけるフレイルスケールとPhase Angleの関連
##大学
東京科学大学医学部
##発表者名
宮坂夏生さん(東京科学大学医学部医学科5年)
##指導者名
馬渕卓先生(東京科学大学)
口演発表の部 優秀発表賞
##演題名
在宅虚弱高齢者におけるフレイルスケールとPhase Angleの関連
##大学
東京科学大学医学部
##発表者名
宮坂夏生さん(東京科学大学医学部医学科5年)
##指導者名
馬渕卓先生(東京科学大学)
加齢を主な要因とするフレイルは、高齢化社会において重要な課題となっている。フレイルの中でも身体機能の低下を指すサルコペニアは、これまで骨格筋の「量」で評価されてきた。本研究では新たな評価基準として、細胞の健常度や全体的な栄養状態を反映する「フェーズアングル(Phase Angle)」を導入した。これにより、在宅虚弱高齢者におけるフェーズアングルの低さとフレイルの重症度との関連を明らかにすることを目的としている。
フェーズアングルとフレイルの関係
体に微弱な電流を流した際に得られる電気抵抗値をもとに算出した数値として「フェーズアングル」があります。これは筋密度や細胞膜の健常性を反映するもので、広く医療分野で活用されています。フェーズアングルは「細胞膜に電流を通したときの抵抗を示した角度」を表し、この角度が小さいと筋肉の質が悪く、大きいと筋肉の質がいいとされています。
フェーズアングルは加齢や疾患とともに減少し、死亡率を始めとする様々な臨床的アウトカムの高い予測因子となることがわかっていますが、80歳以上の在宅虚弱高齢者のフェーズアングルの値やフレイル(身体的、精神的、社会的虚弱)との関連はわかっていませんでした。
この研究ではその点に注目して始めたもので、主には「筋肉の質」と「フレイルの重症度」の関連を見つけ出すことを目的としました。感覚として「虚弱している高齢者は筋肉の質が良くないのでは?」との思いがありましたが、それを実際にデータとして明らかにしていこうとしたわけです。
フェーズアングルは加齢や疾患とともに減少し、死亡率を始めとする様々な臨床的アウトカムの高い予測因子となることがわかっていますが、80歳以上の在宅虚弱高齢者のフェーズアングルの値やフレイル(身体的、精神的、社会的虚弱)との関連はわかっていませんでした。
この研究ではその点に注目して始めたもので、主には「筋肉の質」と「フレイルの重症度」の関連を見つけ出すことを目的としました。感覚として「虚弱している高齢者は筋肉の質が良くないのでは?」との思いがありましたが、それを実際にデータとして明らかにしていこうとしたわけです。
中央値は予想以上に低水準
データの収集に関しては訪問診療を利用する65歳以上の地域在宅虚弱高齢者33名の方と、この方たちを診ている「府中みどりクリニック」「梶原診療所」「オレンジほっとクリニック」にご協力いただきました。電気デバイスが体内に埋め込まれている方や急性疾患の治療中の方、重篤な慢性疾患を有する方などは除外し、体組織・ BMI ・フレイルスケールを調べました。合わせて疾患数や薬剤数、認知症の有無なども問診を通して確認しました。
データからわかったのはフェーズアングルの中央値は男性で3.80、女性で3.75と低水準にあることでした。フェーズアングルに関しては65歳以上80歳未満の中央値は、男性が6.5前後、女性は5.0前後なので、今回の結果はいずれもその中央値を下回ることになります。これは予想以上でした。また、フェーズアングル値が低い方は年齢が高く、フレイルスケールも高いことが伺えました。結果として在宅虚弱高齢者におけるフェーズアングル値は年齢・フレイルスケールと関係することが示唆されたと言えます。
— 宮坂さんが今回の研究テーマを選んだ理由はどこにあったのでしょう?
うちの大学のプログラムに、授業とは別に任意の研究室に所属して、自分の関心のあることを半年のスパンで学ぶというものがあります。私がお世話になろうと思ったのが総合診療科の研究室でした。私はもともと地域医療であったり、患者さんの生活背景を知った上で診察をするということに興味があったため、それならやはり総合診療が向いていると考えました。その中で研究室の先生方とお話をしながらテーマを決めていったという流れになります。私の興味に対して先生方がいろいろとアドバイスをしてくださり、それでテーマが見えてきたという感じですね。地域医療となるとどうしても高齢の患者さんとの関わりが多くなりますし、高齢者とフレイルは切っても切り離せない問題でもあるので、このテーマになったと言えます。
— 研究を進めていく中で、どのような感想を抱きましたか?
結構驚いたのはフェーズアングルに関して、男女差があまり見られなかったことですね。若い世代だと男女差は割とはっきり出てくるんですが、高齢になって虚弱度合いが上がっていくにつれて、その男女差が小さくなっていることがわかりました。また、高齢の方は若い方に比べると筋肉の質が落ちているということはなんとなく予想していたのですが、実際に数字で目にしてみると「こんなに低いんだ」と改めて驚きました。一方で、フェーズアングルの値が高い(筋肉の質がいい)方たちは介護者の数が少なく、自立している傾向があることもわかりました。
— 研究ではどういった点に苦労をしましたか?
最初の頃、体組織を計測する時にエラーが頻出して困惑しました。訪問診療の時間の一部をお借りしてデータを収集していたため、診療所の先生にも患者さんにもご迷惑をおかけすることになってしまいますから。エラーの理由は高齢者の方はお肌が乾燥しがちで電流が流れにくかったためでした。それに気づいてからは計測の前にお肌に少し水分を与えるようにするとエラーは出なくなりました。あと、寝たきりの方や腰が曲がっている方の身長を測る時もどうすれば正しく計測できるのかと散々調べました。結果として「五点法」という方法があることを知って、それを採用しました。こうしたことはもちろん私一人の力で解決したのではなく、馬淵先生をはじめとする研究室の先生方のご指導のおかげです。
— 馬淵先生にお伺いします。今回の研究テーマは先生方と一緒に考えたとのことですが。
私自身、高齢者医療を専門としているので、それに関する研究を一緒にできる人を求めていました。だから宮坂さんがうちの研究室に来てくれた時は本当にうれしかったですね。しかも彼女は「とにかく現場に出たいんです!」という熱意の持ち主で、頼もしさも覚えました。そういうこともあってテーマを決めるのもお互いに話し合いながら自然にまとまったという感じです。毎日のように顔を合わせながら内容を練り上げていったことを覚えています。どういう患者さんに協力していただくかも一緒に考えて、知り合いの先生たちに声をかけて協力をしていただくことになりました。
— 宮坂さんの現場での動きはいかがでしたか?
「彼女、本当にまだ医学生なのかな? 研修医と同じくらいの働きをしているぞ」という印象ですね(笑)。それくらい違和感なく、現場にしっかりとなじんでいました。患者さんに対しても積極的に話しかけ、そのコミュニケーションスキルの高さには感心させられました。患者さんも喜んで宮坂さんにいろいろと話してくださって、その姿が印象的でしたね。あと、これは余談になりますが、体組成を計測する機械というのは結構大きいんです。両手でやっと抱えられるほどの機器を宮坂さんが背中に担いで「よいしょ、よいしょ」と現場に向かう姿も目に焼き付いていますね。
— 宮坂さんの今後に期待することはなんでしょう?
宮坂さんはご自身でも言っていたように、地域医療に大変強い関心を持っていて、学内においてもプライマリ・ケアの研究サークルや小児科関連のボランティア活動に意欲的に関わっていて、その姿勢にはとても感銘を受けています。患者さんとのコミュニケーションもそうですが、コ・メディカルの看護師さん達とのやりとりも丁寧で、ついつい私自身の学生時代と比べて「とてもかなわないな」と思ったくらいです(笑)。将来的にきっと素晴らしい医師となって、地域医療に貢献してくれると信じています。
— 宮坂さんの今後の目標を教えてください。
私は大学を卒業した後は、地元の長野県に戻って研修医生活をスタートさせる予定です。その後も地元で地域医療に貢献していきたいと考えています。今回の研究ではいろんな患者さんのご自宅に伺わせていただきましたが、本当に生きた勉強ができたと思っています。患者さんがどのように暮らしているのかといったことやご家族との関係も感じ取ることができましたし、現場の大切さが理解できました。現場を見ることで医療者のアプローチも変わってくるということを実感できただけでも大変勉強になったと言えます。また、いろんな先生方の診察スタイルも間近に見ることができて、さまざまなことを学ばせていただきました。こうした経験も私自身の目標の大きな支えになると思っています。
最終更新:2024年11月01日 15時32分