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ドラマ『19番目のカルテ』の中にみる、産業保健の視点

「産業保健マインドを取り入れた総合診療医・家庭医・主治医」として、「総合診療・家庭医の視座をもつ産業医」として、何が出来るか。

こんにちは。産業保健チームの石原です。気づけば19番目のカルテのテレビ放映から1ヶ月が経ってしまいましたね。総合診療科として日々勤務していると、なかなか短い時間でわかりやすくこの診療科について伝えることは難しいと感じることが多いので、こうしてテレビの場に「総合診療科」という名前が取り上げられたことはとても嬉しいことでした。また、僕自身は心療内科としても活動しているため、身体疾患の現場での心理支援というテーマや心身症が丁寧に取り上げられていて感動しました。

さて、この漫画・ドラマの面白いところの1つは、
随所に様々な「視点」が隠れて取り入れられているところだと思います。

僕たち産業保健チームからは、
このドラマの中から、
「命か、声か」という究極の選択を迫られる下咽頭癌を指摘されたアナウンサーの患者さんをテーマに、

①    かかりつけの家庭医

②    病院総合診療(主治医)チーム

③    産業医(職場)

の3者が
「治療と仕事の両立支援」という共通の視点を持ちながら当事者に係わっていくという視点で整理してみようと思います。

① かかりつけの家庭医の視点

家庭医は、患者さんの喪失をめぐる感情に寄り添いながら併走します。本人の価値観や家族背景を意識した診療ができると良いですね。「声が仕事の中心であること」「家族からの期待」「自分の誇りや不安」こうした思いから、価値観と希望や就業上の不安を言語化し、主治医チーム・産業医との連携を行っていくことが求められると思います。

② 病院総合診療(主治医)チーム

ドラマの中で取り上げられていたように、悪い知らせを伝えるときの基本(SPIKESモデルなど)を大切にし、患者さんと医療者が一緒に決めていくという姿勢を持って診療していくことがとても大事です。また、エクステンシビストとして、専門診療を束ねつつ、外来・病棟・自宅・職場をまたぐ視野を持った上で、治療選択の医学的配慮(根治性、機能予後、合併症)を仕事の言葉に翻訳し、職場と共有できると良いですね。両立支援という視点を通して、医療の見通しと働き方の見通しが噛み合うような働きが求められています。

③ 産業医(職場)

産業医は、こうした本人の医学的状況・心理社会的背景に加えて、職場の実情をよく知ったうえで、主治医の情報と照らし合わせ、働き方の工夫を具体化します。「勤務時間をどう区切るか」「連続して声を出す上限をどう設定するか」「休憩の取り方」「録音中心へ切り替える期間」「スタジオの湿度や機材の工夫」「通院のための時間確保」こうした就業上の配慮を設定し、見直し期日の設定を行い、本人・上司・人事・産業医/産業保健職で共有します。今回の状況では、番組の編成や人員の配置、繁忙期など、現場の事情を丁寧に把握した上で、主治医の意見書と齟齬が出ないような医療と職場の両方の言葉をうまく繋ぎ合わせる役目が求められています。

まとめ

三つの視点が一枚の地図に重なったとき、「命か、声か」という問いは、「どう生き、どう働くか」という設計へと姿を変えます。家庭医は、患者さんの人生に併走し、病院の総合診療医・主治医は医学の見通しを仕事の言葉に置き換え、産業医は現場の運用に落とし込む。こうした連携が総合診療・家庭医療の視点を通して実際に地域の中で増えていくことを願っています。



文責:
藤田医科大学総合診療科・小島プレス株式会社産業医
JPCA予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム
石原稜己

最終更新:2025年10月03日 00時00分

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

記事の投稿者

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

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