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vol.08/「総合診療は学ぶことが多い領域だから、興味が尽きない。臨床医・教育者・研究者として成長を常に実感できる」【医師】家 研也さん

聖マリアンナ医科大学と川崎市立多摩病院で要職に就き、2020年には日本プライマリ・ケア連合学会の理事、メンタルヘルス委員会・委員長にも就任。臨床・研究・教育という多角的なアプローチから総合診療の未来を見つめているのが、今回お話しをうかがった家 研也先生です。総合診療の業界全体が成長するために必要なキーワードを探るべく、インタビューさせていただきました。
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身近に感じていた「かかりつけ医」の存在が医師を志した原点

- 先生が医師を目指すようになったきっかけは?

幼い頃に小児喘息の持病があり、小児科のクリニックに通っていました。私にとって、その時の記憶が医療の原風景なんです。私を診てくださった先生のお名前、優しい手の感覚などを今も鮮明に覚えていて、子供心にすごく安心できる存在でした。ところが、高校生の時に先生が急逝され、大きなショックを受けて…。大学の進路を決める時期とも重なり、先生のようになれるかどうかは分からないけれど、私も地域の方たちに安心感を与えられる医師になれたらと考えるようになりました。

- ということは、当初は開業医を目標に?

そうですね。総合診療という明確な方向性までは持っていませんでしたが、将来、開業医として地域で働くことをイメージして医学部へ進みました。卒業後に何科を専門に選ぶかは、あまり重要ではありませんでした。

-卒業後の研修先では、どんな経験を積まれたのでしょう?

2004年に卒業したタイミングで、現在の臨床研修制度がスタート。開業医として必要なスキルを身につけるため、初期研修先に国立国際医療センターのジェネラリストコースを選びました。そこで出会った呼吸器内科医の先生から身体所見の方法など、ローテクな医療をしっかり教えていただけたことが大きな学びになりました。例えば、重度の肺気腫の患者さんに対して、お口の前に聴診器をかざして呼吸の音を聞くなど。気づきや発見が沢山あり、興味が尽きませんでした。
その後、尊敬する上司の元での呼吸器内科後期研修を経て、病院外の環境で医療に触れたくて、自ら志願して奄美大島にある国立療養所への短期派遣へ。元ハンセン病患者さんの療養施設に内科医として赴任しました。実際には診療科の区別なく、療養所に訪れた患者さんの様々な不調や悩みに声に耳を傾ける総合診療に近いスタンス。診療が終わって寮に帰ると、患者さんとご家族が「先生、ごはん食べにおいで」と呼びに来てくれたり、「庭に実が成っていたから」と食べごろの果物を届けてくれたり。生活と医療が密着していて、とても楽しく、居心地がいい。このときの経験が、キャリアとして総合診療に本格的に興味を持った第一歩といえますね。

- 呼吸器内科医から総合診療医への転向を、明確に意識されたのですね?

はい。奄美大島から戻り、実は日本プライマリ・ケア連合学会の前身となる家庭医療学会の夏期セミナーへ参加する機会があり、それが決定的な転機となりました。全国から家庭医と研修医・医学生が集まり、活発に意見や議論を交わす場があることに感銘を受け、思い切って「総合診療」の世界へ飛び込む決心をしました。現在もお力添えをいただいている恩師との出会いも、学会のセミナーに参加したおかげで得ることができました。

家庭医療の研修で感じた手応えからアカデミックなアプローチへ

-その後、亀田総合病院で家庭医療の後期研修を受けられたのですね。どのような手応えを感じましたか?

亀田総合病院には、亀田ファミリークリニック館山という家庭医のグループ診療所で研修に入らせてもらいました。比較的大規模なクリニックで、診療範囲は驚くほど幅広く、子供から妊婦さんを含めた大人までのあらゆる健康問題の外来診療と、透析、訪問診療までカバーしていました。そんなに幅広く診るのは無理があり、質が保てないのでは?と疑問に感じていたのですが、むしろ逆。診療の質を保つための教育体制が整っていて、どうしたら新しい知識を幅広くアップデートできるかなど、家庭医としてステップアップしてゆく方法論がちゃんとあるスペシャリスト集団だったんです。メンバーの一員として学ばせてもらえて、非常に刺激的な3年間を過ごすことができました。
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    亀田時代の在宅患者さんのもとで

- 特に印象に残っている学びはありますか?

亀田ファミリークリニック館山の院長で、プログラムディレクターでもあった恩師・岡田唯男先生が主催した学会ワークショップへの講師参加ですね。前立腺がんのPSAスクリーニングを題材にしたshared decision makingについてのワークショップで、エビデンスに対する考え方、多面的にメリットとデメリットを捉える必要性など、1つの臨床決断に至るまでのプロセスの緻密さが衝撃的で。総合診療をアカデミックな視点から展開することに強い興味を持つようになりました。

- その後、アカデミックへの探究心から、三重大学で研鑽を積み、アメリカ留学を?

そうです。後期研修を始めた頃は、趣味がサーフィンだったこともあり、そのまま千葉の海が近い町で開業することを考えていたんですけれど(笑)。岡田先生のワークショップがきっかけで、アカデミックなアプローチも面白いと感じるようになり、後期研修終了後は三重大学に席を移し、総合診療科に所属。大学病院や市中病院、診療所で家庭医として診療をしながら、教員としての医学生・研修医への教育、そして大学院生として研究にも携わるようになりました。
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    海が大好きな家先生
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    三重の時に診療所での子供向けイベント
大学院での研究は最初は思うようにいかずしんどかったですね。ただ、数年かけて形になり始めると楽しくなってきました。この頃,将来的に大学などのアカデミアでやっていける指導医となるためにはどうすれば良いか,と考えるようになり、色々な先輩方に相談に載っていただきました。

そんな中、恩師の岡田唯男先生から米国ピッツバーグ大学家庭医療科の指導医を紹介してもらい,運良く日本財団国際フェローに選んでいただけたことも重なり,指導医養成フェローシップ(無給フェロー)そして同大の公衆衛生修士課程で「アカデミアで指導医として生きていくための基礎」を学ぶ機会に恵まれました.フェローシップと院の両立は忙しかったですが,この期間に今の臨床・教育・研究に活きる基礎が身につき,異国での外国人としての生活経験で視野も少しだけ変わった気がします.
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ポリファーマシー×メンタルヘルスの研究を総合診療に生かしたい

- 現在は、どのような活動に力を注がれているのですか?

2017年に帰国してから聖マリアンナ医科大学の川崎市立多摩病院に所属し、現在は総合診療内科の副部長として内科を中心とした入院診療を行ったり、医学生・研修医の指導に携わりながら、「ポリファーマシー(薬剤の多さや薬物有害リスク)」をテーマに自分自身の研究にも力を入れています。

また週一日はすぐ近くにある「多摩ファミリークリニック」(大橋博樹院長)で外来と訪問診療を担当しています。同じ医療圏にあるので診療所で担当中の方を病院で主治医として治療したり、逆に病院で担当した方の訪問診療を担当させてもらうなど、継続性のある診療をさせてもらえています。
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    医学生・研修医への指導

- プライマリ・ケア連合学会でもご活躍ですよね?

プライマリ・ケア連合学会ではメンタルヘルス委員会に委員長として主にかかわっているほか、ICT診療、研究支援、広報、コアコンピテンシー、英文誌編集といったいくつかの委員会に所属しています。
JPCAの家庭医療研修はWONCA(世界家庭医療機構)からプログラム認証を得た専門医資格なのですが、メンタルヘルスの診療と教育の質は向上させるべき宿題とコメントされました。
そこで、メンタルヘルス委員会では学会員のメンタルヘルスの診療の質が向上するような活動を目指しています。

- ポリファーマシーとメンタルヘルスは、どちらも総合診療と関係性が?

ポリファーマシーについては留学中から興味のあるテーマでしたので、川崎市立多摩病院に入職した当初から薬剤師さんと連携をし、ポリファーマシー状態で入院された患者さんに対して、薬を減らす取り組みをしてきました。病気と健康の境目は判断が難しく、誰にでも心当たりがあるような辛い症状や苦しみの表れとして、気持ちの落ち込み、眠れないなどの症状が現れたり、それらが身体の不調の訴えに繋がって対症療法の薬が処方されることもあります。メンタルヘルスに限らず、患者さんの背景や考えを知ろうとし、薬だけに頼らないケアの在り方、接し方を模索すれば、薬だけが解決方法ではない場面はきっと沢山あると思います。その意味では、ポリファーマシー対策もメンタルヘルスへのアプローチも、患者さんのアウトカムを良くすることを目指す総合診療の武器の一つだと思います。
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臓器別の専門医や領域を超えた医療の連携が未来へのキーポイント

- ご自身の研究や学会での活動を今後どのように繋げてゆきたいですか?

当初はポリファーマシーについて、何か具体的なエビデンスを確立できたらと考えていましたが、個別性が高く、一括りにはできない難しさがあります。ポリファーマシーは、あくまでも入り口の一つであり、そのことをきっかけにして、医療従事者と患者さんの関わり方を見直したり、患者さんご自身が自分の健康問題やお薬の治療に対する意識を変えるきっかけに繋がればとの思いで今は取り組んでいます。

- プライマリ・ケア連合学会の中で、チャレンジしたいことはありますか?

メンタルヘルス委員会は、精神科医、診療内科医、臨床心理士といった専門家と絡むチャンスが多いので、何かコラボ企画を発信したいですね。お互いの所属学会で合同交流会をしたり、研究を一緒に取り組んだり。他領域の医師がプライマリ・ケアに、何か知識やスキルを共有して広めたいと思った時の窓口にもなれたらと考えています。現在の学会員数は約1万人ですが、地域で頑張っている開業医の先生方をはじめプライマリ・ケアの裾野はものすごく広いので。

さらに、メンタルヘルスだけでなく、臓器別専門医や職種をまたいだ領域など、学会単位で交流がどんどん増えると活気が増しますよね。そういう活動のサポートができればと思います。

- 臓器別専門医と領域を超えて連携してゆくために大切なことは何でしょう?

学会などを通じたグローバルな交流だけでなく、私はローカルに築き上げる信頼感と貢献が何より大事だと思って日々の診療にあたっています。 例えば、病院セッティングでの高齢患者さんの場合、感染症、心不全、腎臓のトラブルなど様々な疾患を抱えた状態で来院されるケースが多い。こうした一人ひとりを、総合診療医が臓器別専門の先生と対話をしながらケアをすると、臓器別の専門を持った先生方が求める診療レベルや彼らが大事にしている哲学が分かってきます。同じ患者さんを共に診る経験を重ね、「総合診療医にここは任せて大丈夫」と思ってもらえる関係性を築いて、専門科と持ちつ持たれつできるような貢献が可能になる。そういう相互理解が、全国のローカルな地域・病院単位で発生していくと最高だと思います。

- そう思うと、総合診療・家庭医療は学ぶ領域が多いですね。

学ぶことが尽きないから、面白いし、オイシイのです(笑)。
医師として領域を超えたスキルを身につけられるのが、総合診療医、総合診療科の魅力だと私は感じています。今、私は医師として19年目ですが、「臨床医として成長できている」と毎年、思えるんです。
もともと開業したくて医師になりましたし、将来どこかで開業するかもしれませんが、今は一緒に成長できる仲間、後輩や色々な専門を持った同僚達と出会える今の職場や、学会での役割にやりがいを感じています。
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    聖マリアンナ医科大学 総合診療内科のみなさんと

一人でも多くの方に総合診療の領域に興味を持ってもらえたらうれしいです

総合診療医が増えれば、人数に応じてできることの幅や貢献できる領域も広がってゆくので、学会を通じたグローバルな広がりだけでなく、病院単位のローカルな範囲内で総合診療の価値を高め、ロールモデルを示して若手を育ててゆく大切さも感じています。一人でも多くの方に総合診療の領域に興味を持ってもらえたらうれしいですね。

プロフィール

聖マリアンナ医科大学 総合診療内科 准教授
川崎市立多摩病院 総合診療内科 副部長
医師 家 研也(いえ・けんや)
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~プロフィール~
2004年 千葉大学医学部卒業
2004〜2008年 国立国際医療センター 初期研修、呼吸器科後期研修
2008年 亀田総合病院 家庭医診療科 後期研修
2011年 三重大学 総合診療科 助教/三重大学大学院 医学系研究科 家庭医療学 博士課程
2015年 米国ピッツバーグ大学 家庭医診療科 指導医養成フェロー/同大学公衆衛生大学院 公衆衛生学修士課程
2017年 聖マリアンナ医科大学、川崎市立多摩病院 総合診療内科 講師/同 総合診療センター副センター長
2018年 同 総合診療内科副部長、臨床研修センター副センター長、初期臨床研修プログラム責任者
2020年 同 総合診療内科 准教授
医学博士
公衆衛生学修士
日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医
日本プライマリ・ケア連合学会指導医
日本プライマリ・ケア連合学会認定医
日本病院総合診療医学会認定 病院総合診療医
日本病院総合診療医学会認定 特任指導医
日本内科学会総合内科専門医
日本内科学会指導医
日本専門医機構 総合診療特任指導医

川崎市立多摩病院 臨床研修医のサイト
https://tama.marianna-u.ac.jp/resident/ 

取材後記 ~領域にとらわれず医師としてアップデートする大切さ〜

開業医になる目標を出発点に、研修や学会での出会から刺激を得て、研究者・指導者としてキャリア・アップを重ねてこられた家先生。インタビューを通して先生の現在までの道のりを追体験しながら、総合診療の領域の幅広さ、可能性の高さ、懐の深さを改めて感じました。先生が提言する、領域をまたいだ専門医や薬剤師をはじめとする他業種との連携やメンタルヘルスの観点について、今後、プライマリ・ケア連合学会での発信力にも期待が高まります。

最終更新:2023年02月28日 08時09分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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