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第13回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVo.4 <口頭発表の部 優秀賞 > 熊本大学医学部

2022年6月11日(土)~12日(日)パシフィコ横浜で開催された、第13回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション。口演発表(研究)8エントリー、ポスター発表(活動紹介)18エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。

口頭発表の部 優秀賞

NDB オープンデータによる薬剤耐性アクションプランの達成の検討

##受賞内容
 口頭発表の部 優秀賞   
##演題名
 NDB オープンデータによる薬剤耐性アクションプランの達成の検討
##大学
 熊本大学医学部
##発表者名
 城戸初音さん(熊本大学医学部6年)
##指導者名
 徳田 安春先生(群星沖縄臨床研修センター センター長)
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全国各地の医学生が集まり、公衆衛生について学ぶ場からスタート

「NDB オープンデータによる薬剤耐性アクションプランの達成の検討」は、城戸初音さん(熊本大学6年)、伴野未沙さん(東京慈恵会医科大学5年)、松岡明里さん(長崎大学3年)たちが中心に活動する、耐性菌や公衆衛生の分野に興味を持つ学生グループの共同研究により発表された。2016年に厚生労働省より発表された、薬剤耐性アクションプラン成果指標の一つとして、経口セファロスポリン・マクロライド・フルオロキノロン系抗菌薬を50%削減(2013年と比較)することが掲げられているが、今回の研究では、当該抗菌薬の使用状況を、都道府県ごとの処方量と医師数の相関に着目したデータ分析による発表がなされた。

インプットの勉強会から、学会へのアウトプットで深い学びに

―伴野さん
もともと私は公衆衛生の分野に興味があり、コロナ禍を機に同じテーマに興味を持つ学生と勉強会をしようと、知り合いの知り合いを誘うような形で定期的なオンラインでの場を設けていました。最初は厚生労働省で働く方や研究者から話を聞いたりしていましたが、インプットだけではなく、自分たちでアウトプットできる場がある方が、より学びを深められるのでは?となったのが、今回の研究・発表のきっかけでした。

―城戸さん
そのひとつとして、ポリファーマシーについて調べて学習し、他の医学生のグループに勉強会として講義を行ったりしていましたが、発展形としてプライマリ・ケア学会でアウトプットの場をいただくことになりました。やはり、プライマリ・ケアや家庭医療は患者さんを個別でしっかり診るという視点からも、薬剤耐性菌といった公衆衛生と親和性の高い分野でもあると考えました。
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    ポリファーマシーの活動の一環として、厚生労働省に話を伺いに行った際の様子。現地で4名参加し、そのほか数名がオンラインで参加した。

NDBオープンデータを活用した研究・分析

―伴野さん
私たちのグループで学会発表前に扱っていたテーマとして、薬の飲み残しや薬による体の不調をさらに薬で治そうとする、いわゆるポリファーマシーが問題に着目していました。その視点でNDBオープンデータを見ていくうちに、やはり耐性菌という感染症の話もポリファーマシーと深い関係があるので、そこをさらに探求していった経緯があります。

―城戸さん
NDBオープンデータは厚生労働省が中心となり、データ分析等が行われていると思いますが、私たちの研究では、平成31年度の都道府県ごとの処方量と10万人あたりの医師数との相関と、平成28年から31年度の性年齢別処方量の経年変化を調べてみたことがポイントになります。あとは、それぞれの抗菌薬に対する耐性菌の割合に重きを置いて、どの抗菌薬に対してどのくらい耐性菌があるのか、広域スペクトラムを持つどのくらい処方されているのかに着目して分析しました。

データ集めや分析をメンバーの得意分野で分担

―城戸さん
私たちのグループに、研修医の安藤さん(総合病院南生協病院 研修医1年目)というメンバーが統計の知識が豊富なので、私たちが集めたデータを安藤さんがコードを書いて分析するなど、それぞれの得意分野を活かして、時にやり方を教えてもらったりしながら作業を進めてきました。

―松岡さん
私は城戸さんと安藤さんに誘われてこのプロジェクトに参加しましたが、その理由のひとつが統計ソフトを使えるようになりたいというのもあり。教えてもらいながら初めて統計ソフトを使って解析しましたが、データを集めるところから実際にソフトに入れるところまで、なかなか難しかったです。

―城戸さん
オンラインでほとんどのことを行っていたので、対面だったら一言で済むようなことも、わざわざzoomで繋いで画面共有しながら、「もう少し右側のボタンを…」とやらないといけないのが結構大変でしたね笑。

―伴野さん
大変だったところでいうと、どういう視点でデータを読み取っていくのかについても、みんなでよく議論しました。相関が出たデータも、因果関係までは語れない部分もあるので、このデータからどこまでのことが言えるのか、言い回しとしてどの表現が適切かなどは特に注意深く話し合った部分でもあります。
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    オンラインでのミーティングの様子。リアルで会ったことが1度もないメンバーも。

プライマリ・ケア学会での発表が更なる研究テーマに

―城戸さん
学術大会当日は、AMRアクションプランの達成に関して、減少率は10%に留まっていて達成まで努力を要することや、フルオロキノロン処方量と医師数には相関がみられ、医師の多い地域でよりフルオロキノロンが処方されていることなどを発表した。その後、私たちの研究結果について「医師数だけではなく、薬剤師数との関係はどうなっている?」「医師の少ない地域で処方量が少ないのはどうして?」「医師が多い方が逆にチェックが入るから、薬の処方量って少なくなるんじゃないの?」といった、意見やご質問をたくさんいただきました。特に薬剤師との相関については、オープンデータにもあるので、今後論文にまとめていく等しながら進めていきたいテーマでもあります。

―伴野さん
私たちのグループでは、この研究テーマ以外にも別の論文を書いていたりするので、それぞれの結果についてグループ全体で議論を重ねることで、さらに視点の広い仮説や結果に導いていく相乗効果もあると思います。
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    学術大会当日、授賞式のシーン。城戸さんが代表で表彰状を受け取った。

興味ある分野からそれぞれの世界でチャレンジ

―城戸さん
私は大学に入ったころからWHOなどの国際保健に興味があって、将来は日本を超えて海外の方でも医療にアクセスしやすい環境整備に携わりたいと思っています。総合診療という領域は、医療者としての力が付く分野だと思うので、専門医も取りたいと考えています。

―松岡さん
私は感染症分野、特に国際保健分野に興味を持ったことがキッカケで医師を目指すようになったので、将来は海外での途上国を中心に働ける医師になりたいと思っています。その働き方が行政なのか臨床医なのか、今はまだ色いろと学んでいるところなので、グループの先輩方のご意見やお話を聞きながら、自分の目指す姿を見つけていきたいという段階です。

―伴野さん
私は公衆衛生の中でも特に医療政策に興味があります。日本でも戦後復興時に医学部の教育改革や保健所ができたことなど、さまざまな改革の中で日本人の寿命が大きく伸びた背景があります。そういった戦争等によって荒廃した国が、医療政策を通じて復興できるような仕事に携りたいと思っています。2022年にポーランドでウクライナの難民支援の学生ボランティアとして参加するなど、今はどういう道があるか模索しているところです。
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    左前列が伴野さん、中央が城戸さん、城戸さんの右隣が指導医の徳田先生。そして一番右が統計の知識が豊富な研修医2年目の安藤さん。
私たちのように公衆衛生に関心のある人は医学生の中では少数派ですが、各地各大学のそういった人が集まり私たちのグループが構成されています。一番上が研修医2年目、下が3年生と学年も幅広くいることでで、研修医の先生からは研修先の病院の選び方や研修医が終わった後の話などを聞いたりと、限られた分野であっても進路相談や今後のキャリアなど相談し合えるのも魅力のひとつです。

最終更新:2023年03月04日 18時15分

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