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それって本当にてんかん?!/Vol.5 No.4(17)

 第4回は「それって本当に片頭痛?!」でした.
片頭痛らしい三つの所見を中心に,“らしさ"を見積もり,見合わない点があれば,たとえ既往に片頭痛があったとしても安易に診断してはいけません.復習を!
 今回は,てんかんに関してです.救急外来には,痙攣を主訴に来院する患者さん,てんかんの既往のある患者さんが意識障害や意識消失などの症状で来院しますが,注意が必要なことがいくつかあります.鑑別すべき疾患はなんなのか,ピットフォールを含め理解しておきましょう.

Point

てんかんらしさを正しく見積もり,初期対応を的確に!

Case

 今回も,救急外来を受診した3 人の患者を例に考えていきましょう.それぞれ頻度の高いてんかんのようで実は………な症例です.

◎ Case 01
80 歳女性.来院当日,友人たちと会食中に椅子から崩れるようにして倒れた.
目撃した友人によると,倒れたあとに手足をばたつかせていたらしい.救急隊到着時には普段と同様の状態へ改善していたが,経過から“痙攣の疑い"ということで救急搬送となった.脳梗塞の既往もあったことから,症候性てんかんと判断したが……
意識清明 血圧:112/78 mmHg 脈拍:64 回/ 分 呼吸:14 回/ 分 体温:36.3℃ 瞳孔:3/3 +/+
既往歴:脳梗塞(詳細は不明だが以前に指摘されたことがある,後遺症なし),高血圧,骨粗鬆症
内服薬:アスピリン,テルミサルタン

◎ Case 02
54 歳男性.詳細不明だが,レベチラセタム(イーケプラⓇ)を内服している.来院当日,職場で左上肢からはじまる痙攣を認め救急搬送となった.救急隊到着時には鎮痙していたが右向きの共同偏視を認めた.尿失禁あり.病着時,軽度の意識障害,左上下肢の麻痺を認め,てんかん後のTodd 麻痺と考えたが……
意識:3/JCS 血圧:189/101 mmHg 脈拍:91 回/ 分 呼吸:17 回/分 体温:37.1℃ 瞳孔:3.5/3.0 +/+
既往歴:高血圧,2 型糖尿病,脂質異常症
内服薬:アムロジピン,カナグリフロジン,アトルバスタチン,レベチラセタム

◎ Case 03
25 歳女性.GW で帰省中,自宅近くのショッピングモールで両上肢の強直間代性痙攣を認め救急搬送となった.救急隊到着時には明らかな痙攣は認められなかったが,救急車内で再度同様の痙攣が認められた.意識状態も悪く,痙攣重積状態と考えたが……
100/JCS 血圧:111/62 mmHg 脈拍:72 回/ 分 呼吸:18 回/ 分 体温:36.1℃ 瞳孔:3.0/2.5 +/+
既往歴:不明
内服薬:不明

Introduction

 てんかんをてんかんと正しく診断するためには,満たすべき条件を理解するとともに,鑑別すべき疾患を除外することが必須となります.頭部CT やMRI 検査は有用な検査ですが,それのみではてんかんとは診断できず,必須の検査である脳波を施行しても一度の検査で判断ができる確率は高くはありません.
 てんかんの正しい知識を啓蒙しようと,2013 年から,日本てんかん学会と日本てんかん協会が合同で「てんかんを正しく知る月間(てんかん月間)」を10 月に実施しています.今回はいかにして,てんかんと診断するのか,どこに着目して“らしさ"を見積もるのか,てんかん月間を前に整理しておきましょう(今回は成人以上の対応に限り記載します).

てんかんの一般的知識

 てんかん(epilepsy)は珍しい病気なのでしょうか? 日本では,100 人に1人程度,あらゆる年齢で発症しています(100 万人が罹患し,毎年5 万人が新たに診断).高齢者のてんかんも増加しており,決して珍しくはないのです.

◎てんかんの定義
 「てんかんとは,てんかん性発作を引き起こす持続性素因を特徴とする脳の障害である.すなわち,慢性の脳の病気で,大脳の神経細胞が過剰に興奮するために,脳の発作性の症状が反復性に起こる.発作は突然に起こり,普通とは異なる身体症状や意識,運動および感覚の変化などが生じる.明らかな痙攣があればてんかんの可能性は高い」と定義されます1). seizure,convulsion,epilepsy と,痙攣関連ではいくつかの言葉が用いられますが,それぞれ意味が異なります.てんかんの定義に含まれる発作とはseizureを指し,convulsion(痙攣),epilepsy(てんかん)ではありません.痙攣している患者をみて,「エピってる」などと不適切な発言をしてはいけません. “てんかんとはseizure を主症状とする脳の慢性疾患"であると理解しておきましょう.初診時に初発の痙攣の患者をてんかんと診断することは原則としてできないことが定義からもわかると思います.

痙攣患者のアプローチ

 痙攣患者を診たらどのように対応するべきでしょうか.ABC を安定化させることと同時に治療介入,さらには原因検索を行うわけですが,そのためには痙攣の原因となる病態や疾患を理解しておく必要があります.今回は救急外来やプライマリ・ケアの場面で多いと考えられる,自然に鎮痙が得られているバイタルサインがおおむね安定している患者のアプローチをまとめておきます.
 結論からいえば,初診時にてんかんと確定診断することはできませんし,するべきではありません.“らしさ"を正しく見積もるとともに,鑑別すべき疾患を意識して対応しましょう.
◎失神の関与はあるか
 救急医としては,この点を非常に重要視しています.てんかんと診断されている患者に一定数失神患者が含まれ,てんかんの鑑別としてまず考えるべきとされています1).詳細は後述しますが,痙攣した患者をみたら,まずは失神の可能性を考えることは頭に叩き込んでおきましょう.
◎急性症候性発作か否か
 痙攣が一過性の因子のものなのか否かを判断します.てんかんは,seizure を主症状とする脳の慢性疾患ですが,seizure を認める患者すべてが,てんかんというわけではありません.seizure は脳神経細胞の異常興奮が起こっていること,もっと厳密にいえば,異常興奮によって脳を含む身体に異常な状態が起こっていることで,発作は非誘発性(unprovoked seizure,誘因が明らかでないもの)と誘発性(provoked seizure,誘因が明らかなもの)に分かれます.このどちらかを判断するのがきわめて重要です.てんかんは,非誘発性発作を2回以上繰り返すか1 回であっても再発リスクが高い症例(広範囲の心原性脳塞栓症など)で疑うため,患者背景が不明な場合や,初回の痙攣でまず考えるべきではありません.
 誘発性は急性症候性発作(acute symptomatic seizure)ともよばれ,急性全身性疾患,急性代謝性疾患(低血糖など),急性中毒性疾患,急性中枢神経疾患(感染症,脳卒中,頭部外傷,急性アルコール中毒,急性アルコール離脱など)と時間的に密接に関連して起こる発作と定義されます(表1)1,2).
 救急外来で頻度が高いのは,脳卒中や頭部外傷に伴う痙攣,髄膜炎や脳炎に伴う痙攣,低血糖や電解質異常に伴う痙攣,アルコールやベンゾジアゼピン系薬の離脱によるものです.てんかんであれば,目の前の痙攣を止めることである程度の時間を稼ぐことができますが,急性症候性発作では,原因に対する治療介入を行わなければ根本的な解決にはなりません(急性症候性発作の30 日以内の死亡率は,非誘発性発作の8.9 倍という報告もあります)3).まずは急性に起こったものの可能性を考えましょう.
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◎繰り返すか否か
 今回の痙攣が初発なのか2 回目以上なのか,繰り返すリスクが高いのか否かを評価しましょう.
 脳梗塞や頭部外傷の既往があり,数ヵ月前にも同様の痙攣を認める場合にはてんかんの可能性が高いのに対して,初発の場合には急性症候性発作の除外のみでてんかんとは判断できません.
 再発リスクに関しては,絶対的な基準はないものの,脳梗塞や脳出血,頭部外傷ではおおよその基準があります.細かなことは割愛しますが,病巣が広範,皮質を含む病巣,急性期に痙攣(ealry seizure)を認めるものなどは,てんかんへの移行リスクが高くなります4,5).たとえば脳梗塞では,ラクナ梗塞のような範囲が狭いものよりも,右中大脳動脈領域の広範に及ぶ心原性脳塞栓症では,後者のほうが圧倒的にてんかん移行リスクが高くなります.

てんかんの既往は正しい?

 救急外来やプライマリ・ケアの現場では,「てんかんを指摘されている」,「抗てんかん薬を内服している」など,すでにてんかんの治療介入がなされている人もいることでしょう.そのような患者を診る際に,「本当にてんかんなのか」ということを一度は意識する必要があります.てんかんの定義は前述のとおりですが,確定診断するためには,頭部CT,MRI,そして脳波が必須の検査となります.痙攣したというエピソードのみでてんかんと病名がついていることも少なからずあり,どこでどのように診断されたのかは確認したほうがよいでしょう.

てんかんの鑑別疾患:てんかん mimics

候性発作は除外するとともに,失神,心因性非てんかん発作(psychogenic nonepileptic seizures:PNES)の可能性も考えながら対応するとよいでしょう.
 痙攣という主訴でも,実は悪寒戦慄など発熱時の震え(shivering)であったということも経験します.病歴やバイタルサイン(qSOFA やSIRS を満たす)などから鑑別はむずかしくありません.
 顔面の痙攣(facial spasm),こむら返り(muscle cramp)ということもありますが,意識は清明で緊急性はないため,病歴を聴取すれば,てんかんと判断することはないでしょう.
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Convulsive syncope とは

 突然ですが,失神の定義を知っていますか? 失神とは,瞬間的な意識消失発作で,姿勢保持筋緊張が消失し,その後速やかに意識が回復するとされます.脳血流が低下し,意識を失うわけですが,脳への血流が一定期間遮断されると,気を失うだけでなく,痙攣を認めることがあるのです.これをconvulsive syncope といいます.通常,失神の場合には数秒から数十秒で意識が回復しますが,痙攣を伴った場合には意識消失時間が遷延するため,失神ではなく,痙攣など他の原因があると考えられがちです.
 具体的な症例で頭に入れておくのが理解しやすいと思いますので,救急外来などでよく経験する例を二つ提示しておきます.
①状況失神 → convulsive syncope
 高齢者が排尿や排便に伴い失神することがよくあります.反射性失神で最も頻度が高い状況失神(situational syncope)ですね.排尿や排便後に倒れてしまえば,その後脳血流が速やかに回復し,意識は戻りますが,便座に腰かけ倒れることなく壁にもたれかかっている場合には,脳血流の回復が遅れ,その後痙攣することがあります.
②食後低血圧 → convulsive syncope
 入院中や施設入所中の高齢者が昼食をデイルームなどで摂っていたとします.
食後30 分から1 時間程度はその場で談笑などして過ごし,その後ベッドに戻るところをイメージしてください.介護士などに支えられて車椅子からベッドに移動しようと思った際に,両上肢をばたつかせるような痙攣様の動きが認められました.食後の血圧が下がりやすい時間帯に加え,座位から立位という状況が加わり失神,そして痙攣に至ったのです.
 てんかんと診断されている患者の約10% は,実は失神であるともいわれています.意識消失患者の原因が,失神に伴うものなのか,それとも急性症候性発作やてんかんなどの痙攣によるものなのか,原因疾患が異なり対応がまったく変わるため,病歴を把握し区別する必要があります.目撃者の話がなければ区別がむずかしいこともありますが,そもそも失神を引き起こす病態でも痙攣しうるという事実を知らなければ原因を検索しようとしないでしょう.

 失神なのか痙攣なのかはhistorical criteria(表3)6)が参考になります.どちららしいのかを見積もりながら対応するとよいでしょう.補足しておくと,舌咬傷はどちらでも認められることがありますが,痙攣の場合には舌側面に,失神の場合には舌先端に認められることが多いです.また,痙攣の場合には右・左どちらかに引っ張られるような姿勢となるため,頭を回旋させ,自然でない姿勢で倒れていることが多いのに対して,失神は姿勢保持筋緊張の消失の結果倒れるため,自然に倒れます.痙攣の様式,発見時の姿勢にもぜひ注意してみてください.
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心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizures; PNES)

 PNES とは突発的に生じるてんかん発作に似た精神身体症状で,身体的・生理学的発症機序をもたないものとされます1).PNES を疑わせる典型的な発作症候は表4 のとおりですが,単独で確定診断できるわけではないため,初診時に決めつけてしまうのは危険です7).救急外来でとくに意識しているのは,発作時の目の様子と持続経過です.てんかんの発作であれば開眼していますが,PNES の場合には閉眼しています.持続時間は,てんかんであれば多くの場合2 分以内に治まりますが,PNES の場合には数分以上持続します.てんかんの場合には5 分以上続く場合には重積状態を考え対応しますが,その場合は発作後速やかに意識が改善することはないのに対して,PNES は長らく続いたにもかかわらず錯乱などなく意識が清明に戻ることが多いです.
 これらの所見を総合的に評価し判断することが大切となるわけですが,初診時にPNES と診断された患者がのちにてんかんと診断されることもあり,また両者を合併していることもあるため診断は容易ではありません.診断されるまで平均7 年かかるともいわれているくらいです8).早期に診断し治療介入することは大切ですが,総合的な判断が必要であり,救急医,プライマリ・ケア医,神経科医,精神科医などの連携が大切となるため,PNES を疑ったとしても,前述した疾患の可能性はないか鑑別するようにしましょう.
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診断は?

 それでは,Case 01 〜03 を考えていきましょう.

 Case 01 は,てんかんの可能性も考えられはしましたが,痙攣のはじまり方や持続時間などの病歴やバイタルサインから,convulsive syncope の可能性が考えられたため,「心原性失神の疑い」として入院となり,その後完全房室ブロックであることが判明しました.

 Case 02 は,抗てんかん薬も内服しており,症候性てんかんは鑑別にはあがりますが,左上肢の麻痺に加え右向きの共同偏視を認めていることから,Todd麻痺というよりは右大脳半球の新規病変が考えられ,精査の結果,被殻出血でした.症候性てんかんの場合には,救急外来での対応は抗てんかん薬の調整となりますが,新規病変であれば,薬剤調整以外の介入が必要となります.急性症候性発作は常に鑑別する意識をもちましょう.

 Case 03 は,病着時にも痙攣が認められましたが,頭を左右に振り,目は閉眼している状態でした.PNES を考えながらも,初診であり患者背景が不明であったため,精査を進めながら患者情報を集めました.家族へ連絡がつき,以前から同様の発作を繰り返しており,現在PNES が疑われ精査中であることが判明しました.

 想定する疾患によって,対応は異なります.痙攣している患者を診ると,ジアゼパムやロラゼパムを投与したくなりますが,痙攣の原因によっては状態を悪化しかねません.バイタルサインを意識した介入はもちろんのこと,原因を意識して対応できるようになりましょう.

てんかんと診断するため の最低限確認すべき3 つ の事項

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キーメッセージ

・痙攣=てんかんではない

・意識消失=てんかんではない

・CT やMRI のみではてんかんと診断できず,脳波でも判断はむずかしい
 

文献

1)日本神経学会.てんかん診療ガイドライン2018.医学書院,2018.
2)Guidelines for epidemiologic studies on epilepsy. Commission on Epidemiology and Prognosis, International League Against Epilepsy. Epilepsia. 1993; 34: 592- 596.
3)Hesdorffer DC, Benn EK, Cascino GD, et al. Is a first acute symptomatic seizure epilepsy ? Mortality and risk for recurrent seizure. Epilepsia. 2009; 50: 1102-1108.
4)Haapaniemi E, et al. The CAVE Score for Predicting Late Seizures After Cerebral Hemorrhage.?Stroke. 2014 Jul;45(7):1971-1976.
5)Galovic M, Dohler N, Erdelyi-Canarese B, et al. Prediction of late seizures after ischaemic stroke with a novel prognostic model (the SeLECT score): a multivariable prediction model development and validation study. Lancet Neurol. 2018; 17(2):143-152.
6)Sheldon R, Rose S, Ritchie D, et al. Historical criteria that distinguish syncope from seizures. J Am Coll Cardiol. 2002; 40: 142-148.
7)Avbersek A, Sisodiya S. Dose the primary literature provide support for clinical signs used to distinguish psychogenic non-epileptic seizures from epileptic seizures ? JNeurol Neurosurg Psychiatry. 2010; 81(7): 719-725.
8)Reuber M, Fernández G, Bauer J, et al. Diagnostic delay in psychogenic nonepileptic seizures. Neurology. 2002; 58: 493-495.

プロフィール

坂本 壮
国保旭中央病院救急救命科
 
略歴
総合病院国保旭中央病院 救急救命科医長/ 臨床研修センター副センター長
2008 年順天堂大学医学部卒業.2010 年順天堂大学練馬病院救急・集中治療科入局.2015 年から2年間西伊豆健育会病院内科.2019 年4 月から現職.
救急科専門医,集中治療専門医,総合内科専門医
著書:救急外来ただいま診断中(中外医学社,2015),内科救急のオキテ(医学書院,2017),救急外来 診療の原則集 あたりまえのことをあたりまえに(シーニュ,2017),jmed 61「意識障害」(日
本医事新報社,2019),主要症状からマスターする すぐに動ける!急変対応のキホン(総合医学社,2019),J-COSMO 編集主幹(中外医学社,2019 〜)
 

 

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最終更新:2022年01月10日 22時25分

実践誌編集委員会

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