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それって本当にBPPV?!/Vol.5 No.1(14)

 第1 回目は「それって本当に胃腸炎?!」でした.
今回もまた救急外来や初診患者さんで多い主訴であり,皆苦手な(?)症候である“めまい",その原因の代表的疾患である良性発作性頭位めまい症(bengin proxysmal positional vertigo:BPPV)に関して,知識を整理しておきましょう.

Point

BPPV と診断するための三つのポイントを理解し,早期に症状を取り除こう!

Case

 今回も,独歩受診した3 人の患者を例に考えていきましょう.それぞれ頻度の
高いBPPV のようで実は……な症例です.

◎ Case 01
35 歳女性.起床時にめまい,嘔気を認め,その後嘔吐した.数回嘔吐し胃液様の吐物しか認められなくなったが,めまい,嘔気が治まらず,心配した母親とともに来院.起床時にはじまっためまいで,本人曰く回転性のめまいであったためBPPV と思ったが……
意識清明 血圧:100/58 mmHg 脈拍:110 回/ 分 呼吸:24 回/ 分 体温:36.0℃ 瞳孔:3/3 +/+
既往歴:特記事項なし

◎ Case 02
74 歳女性.立位で調理中にめまい,嘔気を認めた.自宅のソファーで横になり,症状は改善傾向にはあったが,めまい症状は治まらず,家族に連れられて外来を受診.頭位を変換したときに,めまいが生じるという訴えであったため,BPPVと思ったが……
意識清明 血圧:169/98 mmHg 脈拍:80 回/ 分 呼吸:20 回/ 分 体温:35.9℃ 瞳孔:3/3.5 +/+
既往歴:高血圧,脂質異常症,骨粗鬆症

◎ Case 03
80 歳女性.来院前日の就寝前にめまいを自覚したが,そのまま就寝した.来院当日の起床時に起き上がると嘔気,めまいを認め症状が改善しないため救急要請.診察時には,嘔気は消失し,めまい症状も軽快していた.高齢で,高血圧や心房細動など脳梗塞のリスクがあったため,頭部CT,MRI を施行したが異常を認めず,頭位変換で症状の増悪を認めたためBPPV と診断したが……
意識清明 血圧:162/88 mmHg 脈拍:92 回/ 分 不整 呼吸:18 回/ 分 体温:36.2℃ 瞳孔:2.5/2.5 +/+
既往歴:高血圧,心房細動(抗凝固薬内服なし)

Introduction

 めまいはみなさんが苦手とする症候の一つではないでしょうか.私も苦手です.
苦手な理由はたくさんあるとは思いますが,そもそも患者さんの訴えがはっきりしないことが最大の問題ではないでしょうか.学生のころに誰もが習う,「回転性vs 浮動性」の表,そこには回転性ならば末梢性,浮動性ならば中枢性めまいと分類されますが,実臨床ではその区別がつかないことも多く,また患者さんの訴えも時間とともに変わることも珍しくありません.
 また,どうしても高齢者では,中枢性めまいの代表である脳卒中(とくに小脳梗塞)を気にかけるがあまりCT やMRI をオーダーすることが多くなりがちですが,ここにもpitfalls が存在します.
 今回は,苦手な“めまい"をすこしでも自信をもって診療することができるように,外来を訪れるめまい患者さんの原因の半数以上を占めるBPPV を正しく理解しましょう.

◎なぜめまい診療はむずかしいのか?

 小脳梗塞を見逃してしまった,不要な検査を行ってしまった,など,めまいの診療では悩ましいことが多いものです.その原因は次の五つに集約されます(表1)1).

1 項目ずつ整理していきましょう.
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①症状の質に過度に依存してしまう 
これがまさに先ほど述べた回転性か否か,回転性なら末梢性なのかということです.めまいの症状,それも初発の症状の際に,性状を正確に表現できる患者さんはなかなかいません.「どのようなめまいですか?」と聞いても,はっきりしない答えが返ってくることが多く,また改めて聞くと訴えが変わることも少なくありません2).私は,「めまい」というさまざまな症状を含む言葉を使わず,具体的な症状を患者さんから聞き出し対応するようにしています.「血の気が引くような感じがして……」という訴えがあれば,それは起立性低血圧の可能性が高いでしょう.しかし,現実は非常に悩ましいことも多いため,救急外来や初療時においては,以下の2 点は最低限確認し,それ以降は②〜⑤を意識して対応しています.
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●前失神か否か
 めまいというと回転性か浮動性か,すなわちBPPV やメニエール病などの耳性めまいなのか脳梗塞や脳出血のような中枢性めまいのどちらかか,というとそんなことはありません.中枢性めまいと同様に必ず除外する必要がある病態,それが前失神です.とくに心血管性失神(不整脈などの心原性失神に加え,クモ膜下出血など(表2),覚え(EARTS"3)),消化管出血に代表される出血性病変は必ず意識する必要があります.
 HEARTS のなかでも,心筋梗塞,大動脈解離,クモ膜下出血であれば発症時の痛みを,肺血栓塞栓症であれば呼吸困難症状を,大動脈弁狭窄症であれば収縮期雑音を,不整脈であれば胸痛や動悸,さらには臥位の状態で症状を認めたのであれば積極的に疑い,身体所見をとるようにしましょう.これらを意識して常に造影CT を施行せよといっているわけではありません.
めまい患者では,HEARTS を意識して対応する,それだけです.

●安静時に症状は存在するか否か
 めまいの原因として最も多いBPPV は,安静時(患者さんが最も楽な姿勢)では症状は消失しています(嘔気は残存していることもあります).救急搬送時や外来受診時は,患者さんは自ずと楽な姿勢をとっているはずですから,その状態で症状が持続しているのか否かは非常に大切です.
②時間や誘発因子の未活用
●持続時間に注目
 めまいの鑑別では持続時間が非常に有用です.表3 のとおり,BPPV によるめまいの持続時間は数十秒,長くても1 分以内です.これはBPPV の発症のメカニズムを知れば理解は簡単です.
簡単にいえば,耳石が半規管内を動きそれによって生じるのがBPPV による症状であるため,ある一定の姿勢で耳石がその位置に停滞していれば症状は認めないはずです.動くとはじまる,しかしある一定の姿勢でいると治まる,これがBPPV であり,数十秒程度で治まるわけです.イメージが湧かない場合には,動画サイトで検索すると複数の理解を助ける動画があるので見ておくとよいでしょう.
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●誘発因子を意識
 BPPV はその名の如く頭位変換で誘発されるわけですが,めまいを引き起こすあらゆる疾患が頭位変換でおそらく症状は増悪します.安静よりも体動時のほうが症状が楽ということは通常ありませんよね.BPPV は“頭位変換時のみに症状が生じる",このように覚えておくとよいでしょう.前述したとおり,安静時には耳石は動きませんから.
 起立性低血圧も誘発因子が存在します.臥位から座位,さらには立位になった際に,脳血流が低下し,ふらつきなどの前失神症状を起こすわけです.寝返りのみでめまいが生じるのであれば,頭の高さは変わっていないわけですから,起立性低血圧の可能性はぐっと下がり,BPPV らしいということになります.
③身体診察に精通していない
 ここで①,②をふまえ,めまい診療のアプローチを確認しておきましょう(図1)4).
注目すべきポイントは,①のとおり症状に依存しすぎず,②のとおり持続しているか否か,誘発因子に注目して鑑別します.
 安静時にもめまいが持続している場合には,BPPV や起立性低血圧の可能性はぐっと下がり,急性前庭症候群(acute vestivular syndrome:AVS)の可能性がぐっと高くなり,頻度が高いのが前庭神経炎や内耳炎ですが,必ず鑑別しなければならないのが後方循環系の脳梗塞(小脳梗塞や脳幹梗塞)ということになります.
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④にも通じることですが,これらの鑑別を画像に頼るとまずいのです.小脳出血など出血性病変であればCT で即座に診断可能ですが,脳梗塞はそうはいきません.やるべきは身体診察,HINTS(表4)です.紙面の関係上,詳細はここでは述べませんが,これを実践しない限り,初診時に危険なめまいを見逃さないのはむずかしくなります.HINTS も動画サイトに多くのわかりやすい動画があるので参照してください.
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④年齢や血管危険因子などのリスクを過大評価
 どうしても高齢者では脳卒中を考えがちです.確かに年齢が最大のリスクではありますが,BPPV はどの年代でも発症し,高齢者でも多いのが現状です.脳梗塞に代表される急性前庭症候群は,めまいが持続しているのが特徴です.安静時に症状が消失しているのであれば,それは中枢性病変を積極的に疑う必要はありません.
⑤ CT・MRI への依存,評価の見誤り
 世界No.1 のCT,MRI の台数を誇る本邦では,気軽に画像が撮影できるのが現状です.しかし,クリニックや夜間休日診療所ではそうはいきません.撮影できる環境下だから撮影するというのは,必要な場合もありますが,場所が変わったことで診断できなくなってしまうのでは困ってしまいます.また不要な被曝や費用は避けるべきであるため,撮影せずに診断できるに越したことはありません. 発症24 時間以内の後方循環系の脳梗塞のCT の感度は7 〜16% と非常に低く5,6),MRI であっても発症24 〜48 時間以内では10 〜20% は見逃してしまうのです6-8).これは日常診療でしばしば実感することですよね.急性期には,画像で明らかな所見がないから脳梗塞は否定的とはいえないことは改めて理解しておきましょう. これらを理解したうえで,今一度BPPV の特徴を整理しておきましょう.

BPPV の特徴

BPPV の特徴はいくつかあるのですが,ここでは以下の三つを覚えておきましょう.

①持続時間がとにかく短い
 BPPV によるめまい症状の持続時間は1 分以内です.ここで問診の際のポイントを一つ伝授しましょう.「めまいはどの程度続きますか?」と聞くと,多くのBPPV 患者が「ずっと続いています」と答えます.繰り返している患者さんは別として,今まさに困っている,とくに初回のめまいの場合には,症状が辛くそのように答えることが多いでしょう.なぜなら,病院を受診する前に,“動くとはじまる⇔安静にすると落ち着く",これを繰り返しているわけですから,よくならない=持続している,と訴えるのです.そのため,「1 回1 回のめまいはどの程度続きますか?」と聞きましょう.それでもうまく答えが返ってこない場合には,「めまいは動くとはじまるけれども,ある一定の姿勢でいると1 分以内に落ち着く,そんな感じですか?」と聞いてみるとよいと思います.
②眼振は誘発したときに認める
 耳石が動いていなければ眼振も認めません.つまり,診察時は最も楽な姿勢でいることが多いと思うため,まずこの段階でめまいや眼振は認めないはずです.そのため,診断するためには,耳石をあえて動かし,その際に生じる眼振をキャッチするのです. 眼振所見は,BPPV の半規管による分類で異なりますが,最も頻度の高い後半規管型BPPV のDix-Hallpike(座位ならびに右/ 左下懸垂頭位)は最低限理解しておきましょう3). 眼振は,フレンツェル眼鏡をなるべく使用しましょう.その場にないときには,コピー用紙など白紙を用いるとよいでしょう.フレンツェル眼鏡は,ただ単に虫眼鏡のように目を大きくして眼振を確認しやすくしているだけではありません.それであれば虫眼鏡を利用すればいいですよね.かければわかりますが,視点をぼやけさせる,つまり一点を見つめさせないのも役割の一つです.眼振は一点を見つめてしまうと確認しづらくなるため,そのような構造になっているのです.
自身の人差し指などを見てもらうと判断がむずかしいことも多いため,ちょっとした工夫として覚えておきましょう.
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③潜時を認める
 めまいを誘発した際,耳石が動くまでのタイムラグ,それが潜時です.頭位を変換して数秒して症状が生じるのです.これは,Dix-Hallpike,さらには耳石置換法であるEpley 法を実践する際によくわかります.
 問診の段階では,頭を動かすと数秒して症状が出るか否かを確認しますが,辛そうにしている患者さんからはなかなかよい返事はもらえないことが多いでしょう.診察や治療しながら実感するのがよいと思います.
 紙面の都合上BPPV の治療に関してはくわしくは述べませんでしたが,BPPVと判断したら原則耳石置換法を行いましょう.自然寛解には1 週間程度かかり,特効薬はありません.また,再度この症状が生じないかと,患者さんは不安で
す.再発も決して少なくないため,BPPV に対する知識,そして対処を適切に行わなければ,持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural perceptual dizziness:PPPD)(診断基準は表5 参照)など慢性的めまいを引き起こしかねません9).その場でできることをきちんと行いましょう.
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薬剤性を忘れずに

めまいの原因として薬剤性ということが少なくありません.めまいを使わずに表現してもらうと,「歩くとふら
ふらする」,「ぼーっとする」,「まっすぐに歩くことができない」などと訴えます.とくに高齢者では,内服して
いる薬も多く,相互作用など薬の影響は計り知れないため,“くすりもりすく"と意識し必ず内服薬は確認するよ
うにしましょう.
 内服薬や使用している薬剤の確認は,薬手帳はもちろんのこと,以前の薬を内服していないか,家族や友人からもらった薬を内服していないか,さらには漢方やサプリメントを使用していないかなど,処方薬以外の薬も必ず確認するようにしましょう.コンビニエンスストアやインターネットなど,誰もがどこでも薬を入手できる時代です.思わぬものを内服していることもあるためお忘れなく.

診断は?

 それでは,Case 01 〜03 を考えていきましょう.

 Case 01 は,前回も似たような症例でしたが妊娠,それに伴う悪阻の症状でした.いわれればなぁんだと思うかもしれませんが,女性の場合には常に鑑別にあげるべきです.不要な被曝を避けなければなりませんからね.
 めまいの症状の質に過度に依存してはいけないのでしたね.

 Caes 02 は,来院時にもめまいが持続していました.きちんと問診したうえで持続が確認できたので,この段階でBPPV はらしくないわけです.その後,HINTS を施行し,中枢性めまいを示唆する眼振を認めたため,精査の結果,脳梗塞の診断となりました.

 Case 03 も脳梗塞でした.画像に依存しすぎた典型例ですね.持続しているめまいということから,HINTS や難聴の有無など中枢神経病変を疑う所見が存在するか否か,きちんと身体所見をとる必要があるのでしたね.
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キーメッセージ

・BPPV は持続時間が短い

・BPPV では眼振は安静時には認めない

・誘発から症状が現れるまで潜時を認める

文献

1)Kerber KA, Newman-Toker DE. Misdiagnosing dizzy patients: common pitfalls in clinical practice. Neurol Clin. 2015; 33: 565-575.一部改変.
2)Newman-Toker DE, et al. Impression in patient reports of dizziness symptom quality: a cross-sectional study conducted in an acute care setting. Mayo Clinic Proc. 2007; 82:1329-1340.
3)坂本壮.救急外来ただいま診断中.中外医学社,2015.
4)Edlow JA, Gurley KL, Newman-Toker DE. A new diagnostic approach to the adult patient with acute dizziness. J Emerg Med. 2018 Apr; 54(4): 469-483.
5)Chalela JA, Kidwell CS, Nentwich LM, et al. Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet. 2007; 369: 293-298.
6)Choi JH, Kim HW, Choi KD, et al. Isolated vestibular syndrome in posterior circulation stroke: frequency and involved structures. Neurol Clin Pract. 2014; 4: 410-418.
7)Kattah JC, Talkad AV, Wang DZ, et al. HINTS to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedside oculomotor examination more sensitive than early MRI diffusion-weighted imaging. Stroke. 2009; 40: 3504-3510.
8)Saber Tehrani AS, Kattah JC, Mantokoudis G, et al. Small strokes causing severe vertigo: frequency of false-negative MRIs and non-lacunar mechanisms. Neurology. 2014; 83: 169-173.
9)Staab JP, Eckhardt-Henn A, Horii A, et al. Diagnostic criteria for persistent posturalperceptual dizziness(PPPD): Consensus document of the Committee for the Classification of Vestibular Disorders of the Barany Society. J Vestibular Res. 2017;27: 209-215.

プロフィール

坂本 壮
国保旭中央病院救急救命科
 
略歴
総合病院国保旭中央病院 救急救命科医長/ 臨床研修センター副センター長
2008 年順天堂大学医学部卒業.2010 年順天堂大学練馬病院救急・集中治療科入局.2015 年から2年間西伊豆健育会病院内科.2019 年4 月から現職.
救急科専門医,集中治療専門医,総合内科専門医
著書:救急外来ただいま診断中(中外医学社,2015),内科救急のオキテ(医学書院,2017),救急外来 診療の原則集 あたりまえのことをあたりまえに(シーニュ,2017),jmed 61「意識障害」(日
本医事新報社,2019),主要症状からマスターする すぐに動ける!急変対応のキホン(総合医学社,2019),J-COSMO 編集主幹(中外医学社,2019 〜)
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最終更新:2022年01月05日 20時58分

実践誌編集委員会

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