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vol.18/『プライマリ・ケア×AI』先端医療を僻地の離島で実践中!【医師】宮崎 岳大先生

長崎県・五島列島の福江島「山内診療所」で地域医療に力を注ぐ、宮崎岳大先生。診療所の公式ホームページやSNSには、趣味の農場や飼育する鶏の写真などが紹介され、美しい五島の風景にも癒やされます。良い意味で都心部にはない、のどかさを感じる診療が持ち味なのでは・・・と思いきや。最先端のAIとITを活用したハイテク診療に早くから取り組んで来られたことを知り、驚きました。「僻地だからこそ必要な医療」について、宮崎先生にお話しを伺いました。
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長崎県五島で大活躍!AI×ITを駆使したハイパー総合診療医

-先生の診療所では現在、AIを診療に導入されているのですよね。

最近、導入した“新人AI"は、人工知能搭載の胃カメラ・大腸カメラです。内視鏡検査時に、癌が疑われる病変をリアルタムで検出し、画面上に映るその領域を枠で囲って、音でも知らせてくれます。癌化が疑われる病変かどうかは、最終的に医師である私の目で診断するのですが、微かなびらん、粘膜の色の違いも検知してくれるので、重点的に検査できるのが利点です。導入後、すぐに数名の患者さんの早期胃癌を見つけることができました。

- AIが患者さんの診断に大いに役立っているということですね!

特に、胃癌は専門医でも2割前後は病変の見逃しがあると言われています。医師も人間ですから、疲れている時など、大きい病変には気付けても、小さなポリープや微かな病変を、見逃してしまう可能性があります。AIを活用することで、そうした見逃しを防げたらと考え、導入を決めました。腕のいい相棒であり、ライバルができたような感覚ですね。私も内視鏡は得意分野なので「AI対自分」、どちらが早く病変に気付けるか、見逃さないか、検査のたびに競っています(笑)。
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    宮崎先生の診療所で導入している「AI内視鏡システム」

-他にも、診療でAIの活用を?

胸部レントゲン写真に、「AI読影システム」を導入しています。先ほどの内視鏡カメラと同様に、肺癌などの病変が疑われる領域を教えてくれます。
電子カルテには「音声入力AIシステム」が入っていて、診療中に喋るだけで医療用語も理解して自動入力してくれます。レセプトもAIがチェックしてくれるんですよ。最初は導入に否定的だった看護師や医療事務スタッフも、今では「最高!」と喜んでくれていますよ。

-医療スタッフのマンパワー軽減にも役立っているんですね。

その通りです。さらに、2023年春に五島市が導入した「モバイルクリニック(巡回診療車両)」も活用しています。巡回診療車両に遠隔聴診器や血圧計、心電図モニター、ポータブルエコーなどが揃っていて、看護師が同乗して患者さん宅へ向かい、主治医である私は、この診療所に居ながら看護師に指示をして遠隔診療するんです。
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    モバイルクリニックと診療所の診察室を接続してのオンライン診断

-すごい! 長崎の五島は、近未来の医療の縮図ですね。

僻地医療のマンパワー不足はとても深刻です。

医師も看護師も足りていません。私の診療所では、外来・往診を含め、多い時には1日100名以上を診療しています。常勤医師は私と父の2人、看護師は5人、医療事務が4人。それでも平日の診療はバタバタと目が回るほど忙しい。
医師・看護師・事務スタッフの労力軽減のためにも、AIやITを大いに活用しないとね。

-AIを導入し、先生ご自身も休診日にしっかり休養できるように?

農場と果樹園で、家族と一緒に、米作り、季節の野菜や果実の栽培や収穫を楽しんでいます。特に果実は苗を植えて今年で3年目。ブルーベリー、柿、アーモンド、栗、梅、すもも、プルーン、梨・・・。そろそろ、たくさん実が成り始めるのでは?と期待しています。海と川も近いので、休日は子どもたちと釣りに出かけられる楽しみもできました。
五島の大自然から元気をもらえて、オン・オフの切り替えができるのも、僻地ならではの醍醐味ですよ。
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父の背中を追って医師を目指し、総合診療の名門病院で武者修行

-そもそも先生が医師を志すようになった、きっかけは?

父が医師で、私に小児喘息があり、子どもの頃から父が働く病院に通って医師として働く父の姿を見て育ちました。小学校の卒業文集で「将来は医師になる」と書いていたので、ごく自然に医師を志すようになったのだと思います。

-離島(五島)で現在の山内診療所を始められたのも、お父さま?

そうです。父は、長崎市内の病院の勤務医だったのですが「離島(五島)で農業に携わりながら診療所を開く」という将来像をずっと思い描いていて、その夢を2000年に実現しました。私も医大へ進学し、漠然と「いずれは五島で父と共に診療所の医師に」と思いながら、医師として見識を広げるために卒業後すぐには五島へ戻らず、長崎県外の病院で研修を重ねました。ですので、医師になるきっかけは父の影響、現在の私の診療スタイルを築いたのは研修時代の経験とご指導いただいた先生方との出会いが、大きいですね。
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-最初の初期研修先は?

福岡県の麻生飯塚病院です。大学の研修で、九州大学から指導に来られていた先生に卒後の研修先について相談したら「麻生飯塚病院しか思い当たらない」と即答だったんです。実際に見学に行って、総合診療科に興味を持ち、決めました。大学にも総合診療科はあったのですが、正直よく分からなくて。麻生飯塚病院で「総合診療科ってこういうものなのか!」と初めてリアルに感じられました。

-7年間の研修で、どんなことを学びましたか?

総合診療科は、専門に特化するのではなく、全体を診るというジェネラリストの視点を徹底的に教わりました。
総合診療科での鑑別診断をはじめ、内科、外科、小児科、整形外科、救急、在宅医療、内視鏡など診療科の垣根を取り払ったローテーション研修で幅広いスキルを身につけることができましたし、アメリカのピッツバーグ大学へ指導医としてのスキルを学ぶ機会もいただきました。麻生飯塚病院での経験は全て、現在の私の診療の糧になっています。

さらに首都圏で内視鏡スキルをアップデートし、故郷の診療所へUターン

- その後、首都圏の総合病院でも研鑽を重ねられたとか? 

飯塚病院時代の先輩からの誘いもあり、「東京ベイ・浦安市川医療センター」に赴任。総合内科、消化器内科の両科を兼任しました。五島の診療所で父が内視鏡検査もしていたので、内視鏡スキルをもっと磨きたいと思っていたところ、誘ってくださった先輩が「総合診療・内視鏡コース」という研修プログラムを立ち上げたんです。タイミングの女神に恵まれたとしか思えない展開でしょう。

-望んだ環境での研修は、手応えも大きそうですね。

やりたいこと全てに挑戦させてもらえた3年間でした。通常の内視鏡検査はもちろん、ERCP(内視鏡を使って胆管・膵管を造影する検査)、ESD(内視鏡的粘膜下層はく離術)など、内視鏡専門医の高度な技術を吸収することができました。また、研修スタイルが米国式で、アメリカ医療の現状も踏まえながら多くのことを学べましたし、指導医はもちろん、集まる研修医のレベルもスバ抜けて高い。最先端の医療技術と人材が集約された現場で、「やっぱり都会はすごいなぁ!」と感じました。

-総合診療の幅広い経験を手土産に、五島へ帰郷されたのですね?

卒後10年目、五島に戻りました。まず、地域と医療環境の現状や課題などを、改めて客観視する準備期間が必要だと考え、五島中央病院で勤務医として1年間働き、それから、父の診療所を引き継いで山内診療所の院長に就任しました。
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-新たな気づきや想像とのギャップなどは、ありましたか?

10年間かけて、医師としての知識・スキル・心構えの基礎を私なりに築けた自負があるので、医療に関しては、戸惑いやギャップほとんどありませんでした。当初、悩んだ緩和ケアの薬の投与タイミングや投与量の調整も、緩和ケア専門医にオンラインでアドバイスをいただける機会があり、クリアすることができました。
唯一、苦労したのは人材確保かな。父と一緒に長年働いてくれていた看護師さんも年齢的に代替わりのタイミングとなり、幸い現在の医療スタッフに出会うことができましたが、人的マネジメントの大切さと難しさを痛感しました。

僻地医療のマンパワー不足解消のために必要なこと

-五島に戻られた今、改めて離島医療の現状や課題をどう捉えていますか?

いろんな意味でのマンパワー不足が課題ですね。今、この五島では在宅での看取りが減って、施設看取りが増えています。患者さんだけでなく、介護するご家族も高齢化しています。ご高齢で通院できなくなる患者さんも今後ますます増えるでしょうし、AIを活用したオンライン遠隔診療は、僻地の開業医にとって必須になってゆくはずです。

-近隣でも開業医のIT化は進んでいますか?

まだまだ電子カルテの導入に抵抗を感じていたり、ZoomなどのITツールを使いこなせていない医師も少なくないのが現状ですね。離島や僻地の1人開業医にこそ、ITやAIを活用した情報共有システムが必要だと思うのですが・・・。
日本プライマリ・ケア連合学会の研修会も、離島から直接足を運ぶのことは難しいのですが、オンラインで参加や情報交換ができるようになり、とても便利になりました。
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    長崎県五島市にある、宮崎先生の山内診療所

-先生の診療所は研修医の受け入れも?

現在、麻生飯塚病院の系列である頴田(かいた)病院から1人、家庭医が来てくれています。
僻地医療は、教育環境としても最適だと私は感じています。私が大勢の指導医から刺激を受けたように、私も若手医師の力になれたらと考えています。

そうやって、各地の医師が繋がって、巡り巡って、日本の医療を担う人材を確保し、医療の質を担保・向上できたら素敵ですよね。

-看護師の見学や研修もOKでしょうか?

もちろん、大歓迎です。首都圏の“東京ベイ" 勤務時代、欧米で主流のNP(診療看護師)の存在とドクター顔負けの高度なスキルに度肝を抜かれました。離島でNPさんが当たり前に活躍できる体制が整えられたら、僻地医療のレベルは格段に上がるでしょうね。ぜひ、旅行がてら五島へ見学に来てください!

プロフィール

山内診療所 院長
宮崎 岳大(みやざき・たけひろ)
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~プロフィール~
2009年 東北大学卒業
2009〜2015年 麻生飯塚病院 総合診療科 初期研修・後期研修
(2010年:ベストインテリジェンス賞受賞、2014年チーフレジテント任命)
2015〜2018年 東京ベイ・浦安市川医療センター
2018年 長崎県立五島中央病院
2019年〜 山内診療所・院長、五島中央病院・非常勤医師

専門領域:内視鏡・消化器・総合診療
日本プライマリ・ケア連合学会(認定医・特任指導医)
日本内科学会(認定医・専門医・指導医)
日本内視鏡学会(専門医)
日本消化器病学会(専門医)
臨床研修指導医(平成28年度取得)

山内診療所ホームページ
https://clinic-yamauchi.com

取材後記 ~AIとITの活用は人間らしい医療を持続するための切り札~

今回記事で触れた以外にも、診療所の待合室で待ち時間対策にYouTube動画を上映するスクリーンを導入するなど、IT技術を“患者ファースト"にも生かしている宮崎先生。今後、エコー診療にもAIシステムの導入を検討しているそう。
離島僻地の診療所は地域コミュニティの重要拠点。AIとITの活用は時として人の温もりとは真逆の無機質なものとして捉えられがちだが、そうではないことを宮崎先生は実践しながら視覚化してくれているように感じました。

最終更新:2023年06月07日 11時44分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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