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vol.36 /「訪問看護師としての経験と知識を教壇で活かす!」 【看護師】 安木信子先生
今回ご登場いただく安木先生は、病院看護師・訪問看護師としての豊富なキャリアを持つ一方、大学院においても専門的な勉強をしてきた方。現在は川崎医療短期大学の講師として教壇に立っています。そんな安木先生にうかがったお話からは「常に学び続けよう」とする強い姿勢が感じられました。
現場で経験を積んだあと大学院へ
― 先生が看護師になろうと思ったのはいつ頃からだったのですか?
小学5年生のときには「看護師になりたいな」と思っていたことを覚えています。きっかけのほうはあまり覚えてなくて、たぶん看護師のドラマを見てあこがれを持ったんじゃないでしょうか(笑)。看護師の前は保育士になりたいと思っていたんですけど、私は不器用なほうで、ピアノを弾いたり細かい作業をするのは難しいだろうなと思って、それで看護師を目指すようになりました。子どもが好きだったので、子どもたちに関わる仕事がしたかったということも動機としてはあげられますね。
― 地元の大学(川崎医療福祉大学)を卒業したあとは東京で就職されました
はい。東京慈恵会医科大学附属病院の小児科に入職しました。小児科は希望通りだったんですけど、初めての東京暮らしでなにかと大変でしたね。知り合いは誰もいないし、家族もそばにいない、仕事も思っていたよりも大変で、最初のうちは環境の変化にかなり戸惑いました。そこで7年間ほど働いたあとは、高知女子大学大学院(現:高知県立大学大学院)で改めて勉強をすることにしました。
― 何かきっかけはあったのでしょうか?
大学在学時にCNS(精神看護専門看護師)の方のお話を聞く機会があったのですが、そのときのことがとても印象に残っていて、自分も将来的には専門看護師の資格を取りたいと思っていたんです。その後就職したわけですが、あるとき大学院の先生にお会いする機会があって「もっと広い視野を持って看護のことを見たほうがいい」と助言をいただいたんですね。病院内のことしかわかっていないようではいけないということを言われ、さらには専門看護師のこともあったので「それならもう一度勉強し直してみようか」と思って、大学院に行くことにしたわけです。家族看護や小児看護を学ぶことが目的でした。
教育者として、訪問看護師として
―大学院で学んでよかったと思うこととしてどんなことがありますか?
ひとつには「言語化する力」が身に付いたことがあげられますね。それまで私は自分の考えをまとめることがあまり得意ではなかったんです。言葉として口にするのもそうですし、文章にまとめるのも苦手でした。でも大学院ではプレゼンテーションをする機会がとても多く、また研究もまとめていかなくてはならないので「苦手だ」なんて言ってられないんですね。それで、そうしたたくさんの課題をこなしていくうちに言語化する力が鍛えられていったと思っています。これは、その後の仕事でもとても役に立ちました。
また、限られた時間のなかで課題に取り組むわけですから、タイムマネジメントもおろそかにできません。その時間の管理スキルといった点でも鍛えられましたね。いろんな意味でけっこう苦労をしながら勉強して、なんとか卒業できたという感じでした(笑)。
また、限られた時間のなかで課題に取り組むわけですから、タイムマネジメントもおろそかにできません。その時間の管理スキルといった点でも鍛えられましたね。いろんな意味でけっこう苦労をしながら勉強して、なんとか卒業できたという感じでした(笑)。
― 大学院卒業後は大学の助教になられました
はい。母校(川崎医療福祉大学)で働くことになったのですが、これは大学でお世話になった先生に今後のことを相談したことがきっかけでした。私は「教育」にも興味を持っていたので、それなら教育現場を経験してみるのもいいだろうという話になって、そうさせていただくことにしたんです。仕事としては大学の先生方のフォローですね。実習指導や講義も一部担当しましたが、もっぱら力を割いていたのは学生たちの支援です。精神的な支援と言ったらいいでしょうか、途中でくじけてしまわないように励ましたり、指導を細かく行ったりしました。学生たちのメンタル的な不安を解消して、きちんと単位が取れるように支えていくような仕事でしたね。
― その後訪問看護師に。なぜ病院看護師ではなく、訪問看護師を選ばれたのでしょうか?
大学院時代に一度休学したことがあって、そのときに訪問看護ステーションで働いていたんです。訪問看護師は実務としては初めてだったんですが、まわりのスタッフが優しく支えてくれたことと、仕事自体からもとても大きな充実感を得たので「自分は訪問看護師に向いている」と思いました。訪問看護師は患者さんと一対一で深く関わることができますし、それは家族の方についても同じです。訪問看護ではいろんなケースを目にすることができます。それが私にとってはやりがいにつながりました。その経験があったので、改めてこの仕事を選んだというわけです。
復帰して改めて思いましたが、やはり私には訪問看護師という仕事が合っていたようです。利用者さんはほとんどが高齢の方で、勤務先がターミナルケアに力を入れていたこともあって、医療依存度の高い方が大半でした。仕事の難しさとしては、これはやりがいと表裏一体になるのですが、評価がシビアなんですよね。病院だと多少看護師の対応に不満があっても我慢するんですが、訪問看護の場合は契約なので、ズバズバとおっしゃる利用者さん(ご家族も含めて)も結構いらっしゃいます。「これだけのお金を払っているんだから、もっとしっかり対応してほしい」といったことですね。もちろんその逆の場合もあって、いい意味でも悪い意味でも明確に評価されます。それが面白いと思いました。
訪問看護師の全体的なレベルアップに貢献
― 先生が日本プライマリ・ケア連合学会と出会ったきっかけはなんだったのでしょう?
二度目の訪問看護師時代ですが、ある勉強会に参加したときに知り合った方から日本プライマリ・ケア連合学会のワークショップについて情報をいただいたんです。それで参加してみたら、まさに当時の私が求めていたことを学ぶことができて「これだ!」と思いました。
ちょうどそのとき私は不定愁訴の利用者さんを担当していたのですが、思うようにケアができなくて自分の知識不足を痛感していたんです。医師の判断を仰ぐにしても、ある程度の水準の知識を持っていないと連携がスムーズにいかないんですね。医学的根拠に基づいた知識をベースにやりとりをするというようなことです。
ちょうどそのとき私は不定愁訴の利用者さんを担当していたのですが、思うようにケアができなくて自分の知識不足を痛感していたんです。医師の判断を仰ぐにしても、ある程度の水準の知識を持っていないと連携がスムーズにいかないんですね。医学的根拠に基づいた知識をベースにやりとりをするというようなことです。
そういうこともあって「ちゃんと勉強しなければ」と思っていたタイミングでワークショップに参加したわけです。そこで看護師としてどんな風に学んでいけばいいのかという方向性が示されて、それからすぐに学会に入りました。2019年のことですね。
その後、認定看護師の資格も取得しました。認定看護師を申請する際には5つの事例を出さなければならないのですが、その事例に対して「優秀事例賞」もいただきました。それがきっかけで、学会の教育研修運営部門から声をかけていただき、ワークショップや勉強会などにファシリテーターとして参加させていただくようになっています。また、認定看護師を目指す方たちのために講義を行うこともあります。
その後、認定看護師の資格も取得しました。認定看護師を申請する際には5つの事例を出さなければならないのですが、その事例に対して「優秀事例賞」もいただきました。それがきっかけで、学会の教育研修運営部門から声をかけていただき、ワークショップや勉強会などにファシリテーターとして参加させていただくようになっています。また、認定看護師を目指す方たちのために講義を行うこともあります。
― 先生は今年(2024年)から川崎医療短期大学の講師になられました。
訪問看護師として現場で10年以上やってきたので、そろそろまた教育のほうに戻りたいと思っていたときに、その機会があって講師として再スタートすることにしました。主に在宅看護論領域を担当をしています。
これまでの自身の経験から訪問看護というのは「看護の原点」との思いがあります。利用者さんやご家族の方たちと長く関わっていける点が大きな魅力ですね。もちろん大変なことはありますが、それ以上に仕事のやりがいが大きいのは事実。そうした訪問看護の魅力を学生たちに伝えていきたいと思っています。訪問看護は応用力が求められ、看護師として成長をする機会もたくさんあるんですよね。だから多くの経験を積んで、訪問看護師として頑張ってもらいたいと思います。
これまでの自身の経験から訪問看護というのは「看護の原点」との思いがあります。利用者さんやご家族の方たちと長く関わっていける点が大きな魅力ですね。もちろん大変なことはありますが、それ以上に仕事のやりがいが大きいのは事実。そうした訪問看護の魅力を学生たちに伝えていきたいと思っています。訪問看護は応用力が求められ、看護師として成長をする機会もたくさんあるんですよね。だから多くの経験を積んで、訪問看護師として頑張ってもらいたいと思います。
― 今後、先生が取り組んでいきたいことはありますか?
訪問看護師として現場で働いていたときによく思ったのは、悩みごとを相談できるスーパーバイザー的な人がいてくれたら……ということでした。これはきっと私だけではないと思います。そのことに関していま思うのは、自分自身がそうした役割を担えるようになりたいということです。それなりに経験も積んできましたし、日本プライマリ・ケア連合学会の活動等を通して勉強もさせていただいているので、そういうスーパーバイザー的なところを自分のゴールにすれば訪問看護師の育成にももっと貢献できるのではないかと思います。現場の最前線で頑張っている訪問看護師のみなさんとのつながりを大切にしつつ、もちろん学生たちの指導にも力を入れながら全体的なレベルアップに結びつくようなことに取り組んでいきたいですね。
プロフィール
川崎医療短期大学 看護学科
プライマリ・ケア認定看護師
安木信子
<経歴>
岡山県出身
1999年3月31日 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 保健看護学科卒
2010年3月31日 高知女子大学大学院(現:高知県立大学大学院)看護学研究科 看護学専攻卒
1999年4月1日 東京慈恵会医科大学附属病院 看護師
(小児内科病棟、内視鏡治療外来勤務)
2006年10月1日 医療法人青木内科小児科医院 保健師
(訪問看護ステーション勤務)
2010年4月1日 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 保健看護学科 助教
2013年4月1日 医療法人自由会こうなん訪問看護ステーション 訪問看護師
2024年4月1日 川崎医療短期大学 講師
<資格>
看護師 保健師
日本プライマリ・ケア連合学会認定 プライマリ・ケア看護師
エンドオブライフ・ケア協会認定 エンドオブライフ・ケア援助士認定
日本終末期ケア協会 終末期ケア専門士認定
プライマリ・ケア認定看護師
安木信子
<経歴>
岡山県出身
1999年3月31日 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 保健看護学科卒
2010年3月31日 高知女子大学大学院(現:高知県立大学大学院)看護学研究科 看護学専攻卒
1999年4月1日 東京慈恵会医科大学附属病院 看護師
(小児内科病棟、内視鏡治療外来勤務)
2006年10月1日 医療法人青木内科小児科医院 保健師
(訪問看護ステーション勤務)
2010年4月1日 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 保健看護学科 助教
2013年4月1日 医療法人自由会こうなん訪問看護ステーション 訪問看護師
2024年4月1日 川崎医療短期大学 講師
<資格>
看護師 保健師
日本プライマリ・ケア連合学会認定 プライマリ・ケア看護師
エンドオブライフ・ケア協会認定 エンドオブライフ・ケア援助士認定
日本終末期ケア協会 終末期ケア専門士認定
取材後記
「私の原動力は劣等感ですね」。インタビューの最後に、常に学びの姿勢を失わない安木先生のそのモチベーションの源泉についてうかがったところ、意外とも言える答が返ってきた。実は先生は当初目指していた専門看護師になる夢を断念している。そのことに負い目を感じ、自分を磨ける生き方を模索するなかで、学びの姿勢を保ち続けたとのことだ。結果としてそれは訪問看護師や学会の認定看護師の育成につながっており、安木先生自身の存在感を高めることにもなっている。挫折をしても、なおも前に進み続ける。そうした姿勢も後進のみなさんにとっては学ぶべきことのひとつと言えるだろう。
最終更新:2024年06月13日 18時40分