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第15回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.4 <ポスター発表の部 優秀発表賞> 自治医科大学医学部
2024年6月7日(金)〜9日(日)アクトシティ浜松で開催された第15回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会学生セッション。口演発表24エントリー、ポスター発表47エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「ポスター発表の部」で優秀発表賞を獲得した自治医科大学医学部の吉川さん、住さん、渡瀬さん、そして指導にあたった石川先生と白石先生からお話をうかがいました。
ポスター発表の部 優秀発表賞
『医療的ケア児の家族支援ボランティアに参加して ~意識変化と気づき~』
##受賞内容
ポスター発表の部 優秀発表賞
##演題名
医療的ケア児の家族支援ボランティアに参加して ~意識変化と気づき~
##大学
自治医科大学医学部
##発表者名
吉川紫さん(自治医科大学医学部医学部4年)
遠藤優希さん(自治医科大学医学部医学科4年)
住茜音さん(自治医科大学医学部医学部4年)
中村友香さん(自治医科大学医学部医学科4年)
渡瀬愛実さん(自治医科大学医学部医学部4年)
##指導者名
石川由紀子先生(自治医科大学)
白石裕子先生(自治医科大学)
松村正巳先生(自治医科大学)
髙橋昭彦先生(ひばりクリニック、栃木県医療的ケア児等支援センターくくるん)
ポスター発表の部 優秀発表賞
##演題名
医療的ケア児の家族支援ボランティアに参加して ~意識変化と気づき~
##大学
自治医科大学医学部
##発表者名
吉川紫さん(自治医科大学医学部医学部4年)
遠藤優希さん(自治医科大学医学部医学科4年)
住茜音さん(自治医科大学医学部医学部4年)
中村友香さん(自治医科大学医学部医学科4年)
渡瀬愛実さん(自治医科大学医学部医学部4年)
##指導者名
石川由紀子先生(自治医科大学)
白石裕子先生(自治医科大学)
松村正巳先生(自治医科大学)
髙橋昭彦先生(ひばりクリニック、栃木県医療的ケア児等支援センターくくるん)
喀痰吸引や経管栄養、人工呼吸管理など日常的に医療的ケアが必要な「医療的ケア児」は、全国に約2万人いると推定されている。医療的ケア児には、どうしても親御さんがかかりきりになりがちなため、そのきょうだいは寂しさや不安、怒りといった感情を抱え込んでいるケースも少なくない。そういったこれらの医療的ケア児の兄弟姉妹が主役となり、互いに交流する場を提供する取り組みは「きょうだい支援」と呼ばれる。 医療的ケア児やそのきょうだい支援に関しては、さまざまなボランティア活動が行われている。本研究では、医学部の学生たちがこうしたボランティア活動に参加することで、彼らの意識や理解がどのように変化したかを調査した。
― 家族交流会にボランティアとして参加
栃木県宇都宮市に「栃木県医療的ケア児等支援センターくくるん」という機関があります。ここは医療的ケアが必要なお子さんやその家族の方たちから気軽に相談してもらおうとの思いで設立された支援センターです。このくくるんでは、医療的ケアが必要な子どもたちとそのご家族が一息つけるような「家族交流会」というイベントを行っているのですが、私たちはここに学生ボランティアとして参加しました。私たちを含めた計13名のボランティア参加者を対象としてイベント前後にアンケートを実施し、医療的ケア児やきょうだい支援に関する意識・理解がどのように変化したのかを調べてみることにしました。アンケートの内容としては次の通りです。
<事前アンケートにて>
Q1. ボランティアに参加した動機
Q2. ボランティアに期待すること(どのようなことを学びたい、経験したいなど)
<事後アンケートにて>
Q3. 医療的ケア児のご家族への支援に対する考えの変化また感じたこと
<事前・事後アンケートにて>
Q4. 医療的ケア児について知っていますか?
Q5. 医療的ケア児のご家族が抱える問題について知っていますか?
Q6. 医療的ケア児のご家族を支援する取り組みについて知っていますか?
Q1. ボランティアに参加した動機
Q2. ボランティアに期待すること(どのようなことを学びたい、経験したいなど)
<事後アンケートにて>
Q3. 医療的ケア児のご家族への支援に対する考えの変化また感じたこと
<事前・事後アンケートにて>
Q4. 医療的ケア児について知っていますか?
Q5. 医療的ケア児のご家族が抱える問題について知っていますか?
Q6. 医療的ケア児のご家族を支援する取り組みについて知っていますか?
― イベントを経験したことで意識の変化が
アンケートの結果ですが、Q1、Q2に関しては医療的ケア児やそのご家族について理解を深めたいという意見が多かったです。さらにQ3では「求められている支援は医療的なものではなく、楽しい思い出を共に作ることなのだと感じた」という声や「ご両親やきょうだいが頼れる場を作ることがご本人のためにも大切なのではないか、医療的ケア児が困難を乗り越え、日々生活を送るためには家族の支援は欠かせないのでご家族も含めた支援が重要なのではないか」といった声が聞かれました。
Q4、Q5、Q6ではボランティア前後で同じ質問をし、回答を比較しました。全ての質問でボランティア後に知っている、詳しく説明できると答えた人が増えました。
Q4、Q5、Q6ではボランティア前後で同じ質問をし、回答を比較しました。全ての質問でボランティア後に知っている、詳しく説明できると答えた人が増えました。
今回の調査で言えることは、ボランティアなどを通して医療的ケアとその取り巻く環境への理解が深まり、またきょうだい支援の大切さがわかったということです。しかし、それと同時にきょうだい支援のことを知らない人が当事者でさえもまだいらっしゃる現状にも気がつきました。実際の現場を知るためにも、今回のようにボランティアに参加するなど、できそうなことから行動することが支援の輪を広げる一助になると思います。今後もこうした取り組みに積極的に参加し、また多くの人に関心を持ってもらうことにより医療的ケア児、ご家族、きょうだいの誰一人取り残されない社会を実現したいです。
― そもそも、なぜ家族交流会に参加しようと思ったのですか?
吉川さん:今回のテーマを知るきっかけとなったのは指導に当たってくださった石川先生と白石先生が大学で開いている「家庭医療セミナー」です。このセミナーでは毎回、地域で活躍されている先生方のお話が聞けるのですが、ある時、髙橋昭彦先生のお話を聞く機会がありました。髙橋先生は医療的ケア児を取り巻く環境を良くしようと長年尽力されていて、そのお話の中できょうだい支援のことにもふれられていたのです。
医療的ケア児にはどうしても親御さんがかかりきりになりがちなので、そのきょうだいは寂しい気持ちを抱くことが少なくないとのことでした。寂しさもそうですが、不安や怒りといった感情も様々に抱え込んでいます。本当は親に甘えたいのに「お父さんもお母さんも大変なんだから、そんなことは言えない。自分がしっかりしなきゃ」と甘えたい気持ちを抑え込んでしまうんですね。そういった事情を知って、私たちは自分たちが何かできないかと思うようになりました。そのタイミングで石川先生・白石先生から「くくるん」の家族交流会のことを教えていただき、ボランティアとして参加したというのが経緯です。
医療的ケア児にはどうしても親御さんがかかりきりになりがちなので、そのきょうだいは寂しい気持ちを抱くことが少なくないとのことでした。寂しさもそうですが、不安や怒りといった感情も様々に抱え込んでいます。本当は親に甘えたいのに「お父さんもお母さんも大変なんだから、そんなことは言えない。自分がしっかりしなきゃ」と甘えたい気持ちを抑え込んでしまうんですね。そういった事情を知って、私たちは自分たちが何かできないかと思うようになりました。そのタイミングで石川先生・白石先生から「くくるん」の家族交流会のことを教えていただき、ボランティアとして参加したというのが経緯です。
― 家族交流会ではどのようなことをしたのでしょう?
住さん:家族交流会はスポーツを通して医療的ケア児とそのご家族(親・兄弟)の交流を図るものです。そこで使われるスポーツなんですが「卓球バレー」と「ボッチャ」でした。卓球バレーは卓球台をコートに見立ててバレーボールのルールを使って行うスポーツです。ボッチャは自分のチームと相手のチームがそれぞれ6個のボールを使ってジャックボールと呼ばれるボールにいかに近くまで投げられるかを競うスポーツです。卓球バレーもボッチャも障がいがあるなしに関わらず誰もが楽しめるスポーツなのですが、私たちはその存在をそれまで知りませんでした。でも実際にやってみたらすごく楽しくて、気づけばみんなと一緒にワイワイとプレーしていました(笑)。
渡瀬さん:医療的ケア児の子供たちもきょうだいの子たちも、そして親御さんたちもみんなニコニコして遊んでいました。私はボランティアということで最初は気を張っていた部分もあったのですが、いつの間にか夢中になって楽しんでいました。でも、それで良かったようです。高橋先生からイベントが始まる前に言われた「今日はいいお兄さん、お姉さんとして一緒に楽しんで思い出を作ってもらいたい」という言葉の意味が分かったように思いました。「ボランティアだから参加者の皆さんを支えなくちゃいけない」と気を張るのではなく、ともにスポーツをすることで自然に会話が生まれ、笑顔が生まれる、そういう交流を生み出す一員になることが重要だと実感しました。そんな支援の形があるということを知った点も収穫だったと言えます。
渡瀬さん:医療的ケア児の子供たちもきょうだいの子たちも、そして親御さんたちもみんなニコニコして遊んでいました。私はボランティアということで最初は気を張っていた部分もあったのですが、いつの間にか夢中になって楽しんでいました。でも、それで良かったようです。高橋先生からイベントが始まる前に言われた「今日はいいお兄さん、お姉さんとして一緒に楽しんで思い出を作ってもらいたい」という言葉の意味が分かったように思いました。「ボランティアだから参加者の皆さんを支えなくちゃいけない」と気を張るのではなく、ともにスポーツをすることで自然に会話が生まれ、笑顔が生まれる、そういう交流を生み出す一員になることが重要だと実感しました。そんな支援の形があるということを知った点も収穫だったと言えます。
― ポスターを制作する上で苦労したことは何でしょう?
吉川さん:自分たちが伝えたいことをいかにわかりやすく表現するかということですね。言いたいことや伝えたいことはたくさんあったので、それを整理しながら第三者にしっかり伝わるようにまとめ上げていく際に、石川先生と白石先生からご指導をいただきました。制作に関してはメンバーが5人なので、それぞれに役割分担をして、アイディアも互いに出し合いました。意見交換を活発にできるメンバーだったので、その点では苦労しませんでしたね。
石川先生 白石先生 にお聞きしました
― 吉川さんたちから相談を受けた時はどう思われましたか?
白石先生:お話の中に出てきた家庭医療セミナーは3年ほど前から開催していて、昨年も受講した学生が学術大会で発表をしています。私たちとしてはセミナーの成果をそのような形にすることが大切だと思っていて、いつも学生たちには「(学術大会の発表に)挑戦してみない?」と言っていたので、相談を受けた時はうれしかったですね。
また、吉川さんたちの意欲的な姿勢にも感心しました。髙橋昭彦先生の取り組みを多くの人に知ってほしいという熱意が伝わってきましたし、髙橋先生ご自身もとても喜んでおられました。私たちとしても、そんなふうに髙橋先生と学生の皆さんをつなげることができたことをうれしく思っています。
また、吉川さんたちの意欲的な姿勢にも感心しました。髙橋昭彦先生の取り組みを多くの人に知ってほしいという熱意が伝わってきましたし、髙橋先生ご自身もとても喜んでおられました。私たちとしても、そんなふうに髙橋先生と学生の皆さんをつなげることができたことをうれしく思っています。
― ポスター制作においてはどのような指導をされたのでしょうか?
白石先生:基本的なところでは誤字脱字がないようにということや、見た目の美しさを意識するようにということは伝えました。メインとしては、言いたいことがたくさんある中でも「目的は何か」「実際にやったことは何か」「わかったことは何か」を明確にして「私たちはこう考えている」ということを順序だてて整理した上で、適切にレイアウトしていくようにということですね。割と細かく修正すべきところを指摘したのですが、彼女たちは嫌な顔一つ見せず、一生懸命に取り組んでくれました。
― 今後、吉川さんたちに期待することは何でしょう?
石川先生:自治医大の卒業生は総合診療に限らず、へき地医療に携わります。9年間の義務年限の中で社会的課題も見えてくるでしょうが、その解決のための取り組みに関して、今回のボランティア経験は活きてくるはずです。別のボランティアにも参加するとも聞いていますし、いろんなことを経験しながら将来につなげてほしいと思います。
白石先生:家族交流会のボランティアに関して「最初は気が張っていたけど、途中からは一緒に夢中になって楽しんでいた」という話がありました。それは素敵な体験だったと思いますし、今後にも役立つことだと言えます。皆さんそれぞれしっかりした考えの持ち主ですから、地域のために頑張っていってほしいと願っています。
白石先生:家族交流会のボランティアに関して「最初は気が張っていたけど、途中からは一緒に夢中になって楽しんでいた」という話がありました。それは素敵な体験だったと思いますし、今後にも役立つことだと言えます。皆さんそれぞれしっかりした考えの持ち主ですから、地域のために頑張っていってほしいと願っています。
― 皆さんは将来どういった医師になりたいと思っていますか?
吉川さん:今回の医療的ケア児のきょうだい支援がそうですが、医療サイドに立つことで見えてくる社会的課題はまだまだあると思います。そういった課題に対して何かしら形をもって応えることができる医師になりたいと思います。
住さん:私は自分が胸を張れる医師になりたいと思っています。そのためには今できることはすべて経験しておこうという気持ちです。今回のように実際に自分の肌で感じないとわからないことがたくさんあるので、今できることを懸命に行うことが胸を張れる医師に通じると思っています。
渡瀬さん:今回セミナーやボランティアを通して医療的ケア児やそのきょうだい支援のことを知りましたが、一般的にはまだまだ知られていないことだと思います。こうした地域やそこに住む方々が抱えている問題に気づき、その解決に向けて何らかの形で関わっていける医師になりたいですね。
住さん:私は自分が胸を張れる医師になりたいと思っています。そのためには今できることはすべて経験しておこうという気持ちです。今回のように実際に自分の肌で感じないとわからないことがたくさんあるので、今できることを懸命に行うことが胸を張れる医師に通じると思っています。
渡瀬さん:今回セミナーやボランティアを通して医療的ケア児やそのきょうだい支援のことを知りましたが、一般的にはまだまだ知られていないことだと思います。こうした地域やそこに住む方々が抱えている問題に気づき、その解決に向けて何らかの形で関わっていける医師になりたいですね。
最終更新:2024年11月05日 19時09分