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vol.45/ 「患者さんの幸せを総括的に考えられるホスピタリストになりたい」【専攻医】毛利公亮先生

今回ご登場いただく毛利公亮先生は、病棟総合医(ホスピタリスト)を目指している専攻医です。地元・愛知県の名古屋徳洲会総合病院での初期研修を経て、現在は総合診療医に必要な幅広い知見を身につけるために藤田医科大学 総合診療プラグラムの専攻医研修で研鑽を積まれています。毛利先生が考える総合診療の魅力や今後の目標などをインタビューさせていただきました。
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高校生のときに出会ったホスピスで感銘を受けた「その人らしく生きる医療」

― 毛利先生が医師を志すようになった経緯を、お聞かせください。

高校2年生のときに、当時通っていた塾の貼り紙を見て興味を持った「1日ドクター体験」に参加したことがきっかけです。僕は進路を迷っていたのですが周りに医師を目指していた友人がいて、医療現場を見てみたいという好奇心から一緒に参加をしました。そのときの現場が緩和ケア病棟で、初めてホスピスで働く医師や看護師の方々と間近に接し、「患者さんがその人らしく最期まで生きることをサポートしたい」という言葉と姿勢に感銘を受け、“僕も医者になりたい!"と志すようになりました。

― 総合診療へ進むことを決めたのは、医学部へ進学されてから?

最初に総合診療という言葉に出会ったのは、高校3年生のときに見た『GM〜踊れドクター』というテレビドラマです。総合診療科の医師が主人公で、患者さんの病歴や問診などから病名を解明していく臨床推論や診断学の要素が強いストーリーでした。そのときに総合診療って面白そうだなと漠然と感じた覚えがあります。ただ、進学した医大の大学病院には当時まだ総合診療科がありませんでした。循環器内科や脳外科などの専門医を志す同期や先輩が圧倒的に多く、それもありかなと考えた時期もありますが、大学5年生のときにプライマリ・ケア連合学会が主催する夏期セミナーに参加して、総合診療医になりたいと改めて決意しました。
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    総合診療に出会うきっかけとなった毛利先生大学5年生の時の「夏セミ」。

― 夏期セミナーで決定的な出来事があったのですか?

『Meet the expert 』という家庭医療の専門家と語り合うプログラムで、岡山の家庭医である松下明先生に質問をする機会をいただきました。まだ学生だった僕は、先生に対して「どんな医者になりたいですか?」という怖いモノ知らずな質問をしたんですね(苦笑)。そのとき、松下先生が答えてくださった「医者というよりも“地域にいる少し医療に詳しいオジサン"になりたいんだよ」という言葉に衝撃を受けました。最初に医師を志したホスピスの先生の言葉とも重なり、点と点が結ばれて1本道になるように、僕がなりたいのは総合診療医だ!と目指すべき道筋がはっきりと見えた感覚でした。

― 総合診療へ進むことに、迷いや葛藤はありませんでしたか?

僕の場合は、なかったですね。2018年の新専門医制度で新たに加わった領域が総合診療で、新しい分野だからこそ逆に可能性を感じましたし、やりがいがあるはずという前向きな捉え方をしました。プライマリ・ケア連合学会の夏期セミナーなどを通じて、様ざまな総合診療科の先生と出会い、お話しもさせてもらえる機会があったことで不安や葛藤を自然に打ち消すことができたのだと感謝しています。

なりたい将来の医師像が初期研修で明確化

― 初期研修は名古屋徳洲会総合病院ですね。どういう経緯で?

初期研修先で重視したのが、内科外来という立ち位置で、しっかり患者さんと向き合える研修プログラムがある病院でした。地元の愛知県周辺と、大学に近い大阪府周辺で研修先を探し、名古屋徳洲会総合病院に決めました。総合内科外来を2年間担当できるプログラムを10数年前から実施している点、さらに脳外科や救急科など24の専門診療科から自由に選択して長期研修が受けられる点が魅力でした。患者さんのファーストタッチに多角的なアプローチで関わらせてもらえる環境で、どんな患者さんにも対応できる総合診療医になるための足腰をしっかり鍛えたいと思っていたので、初期研修で多くの学びや気づきを得ることができました。
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    指導医からアドバイスをいただく初期研修医時代
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    同期の皆さんとカンファレンス

― 印象に残っている出来事はありますか?

初期研修1年目に接した、45歳のくも膜下出血で救急搬送された患者さんが今も心に残っています。
奥さまのお話しでは、もともと高血圧の持病があり健診でも指摘されていたのに治療ができていなかったそうです。倒れているのが発見されたときには、既に時間が経過していて結局、お亡くなりになりました。もう少し早いタイミングで、例えば健診で引っかかったときに総合診療外来にかかっていれば・・・違う結果だったのかも知れないと悔やまれました。プライマリ・ケアの視点で医師として患者さんと向き合う重要性を、改めて感じる出来事になりました。

― その後、専攻医研修は藤田医科大学総合診療プログラムを選ばれていますね。

初期研修が終わる頃には、将来は名古屋徳洲会総合病院の総合診療科で総合診療医としてチームを組んでやっていきたい!と、なりたい医師像のイメージが明確になっていました。そのまま病院で専攻医研修を受けて医師として成長を重ねる選択肢もあったのですが、指導医の先生から同じ愛知県内にある藤田総診(藤田医科大学総合診療プログラム)との柔軟な連携も可能だと背中を押していただき、総合診療に必要な幅広い知見を学ぶことを目的に藤田総診の専攻医プログラムに参加させていただくことにしました。

専攻医研修で身につけた総合診療医に必要な広い視点

― 『藤田総診』では、どのような学びを?

最初に「藤田医科大学 岡崎医療センター」で病院総合診療、さらに「豊田地域医療センター」で家庭医療、そして現在は「藤田医科大学ばんたね病院」でERの研修中です。異なる研修先で総合診療について体系立てて学べること、患者さんを横断的かつ総括的に診るスキルを身につられる点が大きな魅力だと感じています。

― 新たな気づきはありましたか?

はい。最初の岡崎医療センターで得たのは、同じ愛知県でも病院の機能が異なると診る患者さんも変わるという学びです。岡崎医療センターは大学病院の系列病院なので紹介で来院される患者さんが多く、診断困難な症例も多い。指導医の先生にご指導いただきながら、診断力や臨床推論のスキルを磨くことができました。また、豊田地域医療センターでは、退院された患者さんの生活状況やご家族などの背景をリアルに感じながら具体的なケアの視点を学ぶことができました。今後、病院の総合診療医としてやっていく中で、患者さんの主治医として入院管理や服薬調整に活かせると感じています。そして現在、ばんたね病院のER研修では、救急で搬送される患者さんは心臓や脳などの緊急性の高い病気だけではなく、独居や貧困などの社会的要因や心理的な要因とも密接につながっていて、そこにプライマリ・ケアが介入する意義があると気づくことができました。
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    診察中の毛利先生

― 具体的に教えていただけますか?

川の流れに例えると、病院に救急搬送される患者さんは川の下流で溺れてしまった(救急医療が必要になった)状態で、実は上流に溺れる(病気の要因となる)様ざまな因子があります。持病、貧困、独居などの要因が複雑に絡み合った結果、川下に流されていることに気づけず溺れてしまうのです。総合診療医は病気を診るだけではなく、ヘルスメンテナンスや公衆衛生など複合的な視点から、患者さんがそもそも溺れないようにする(病気の要因を取り除く)視点や考え方が大切なのだと感じました。一度、溺れてしまった人は再び溺れやすい、つまり再入院のリスクが高いことも分かったので、入院された患者さんの退院後の包括的なケアができるホスピタリスト(病棟総合医)になりたいと考えるようになりました。

― 目指す総合診療のビジョンが、より鮮明になったのですね。

そうですね。藤田総診で総合診療プログラムと向き合い、専攻医仲間や指導医の先生とディスカッションを積み重ねるなかで、具体的に言語化できるようになった実感があります。 僕自身は患者さんが求めるニーズを拾い上げ、対応していくことが総合診療の面白さだと感じています。患者さんの価値観やご家族のご意向なども含め、患者さんらしい生き方を模索しながら寄り添う医療なので、正解がない難しさはありますが、答えを出すのが得意なAIでは判断できない総合診療の価値がそこにあると思っています。

地域の幸せをチーム体制で支えるホスピタリストを目指して

― プライマリ・ケア連合学会での活動について、教えてください。

2025年2月にプライマリ・ケア連合学会と病院総合診療学会の合同大会(第20回若手医師のための家庭医療学冬期セミナー/第30回日本病院総合診療医学会学術総会)が開催されます。その全体講演の企画リーダーを担当させてもらっています。総合診療では未病の不定愁訴や複数の疾患が絡み合って複雑な症例になっている方を診ることも多く、“不確実"な状況と向き合い続ける側面があると感じています。 “不確実性"をテーマに医療だけではなく、経済学や臨床心理学など多角的な視点からお話しいただける4人の先生にご登壇いただく予定です。総合診療に進むべきか悩んでいる医大生や、総合診療に進んでから立ち止まっている若手医師にとって、解決方法の糸口が見つけられる場になればと考えています。ぜひ、ご参加いただきたいです!
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    昨年、スタッフとして参加したプライマリ・ケア連合学会「冬セミ」。

― 毛利先生の近い将来の抱負を、お聞かせください。

来春、名古屋徳洲会総合病院の総合診療科へ戻ります。藤田総診で経験した学びを活かし、入院患者さんの主治医として治療するだけではなく、患者さんが退院後に再び病気にならず幸せに暮らしていけるよう考えられるホスピタリストを目指して邁進します。さらに、同じ志を持つ総合診療医やコメディカルが増えれば、幸せな人たちがもっと増えると思うので総合診療のチーム作りをしたいと考えています。そして、徳洲会グループの病院が全国に70施設以上あるので、ホスピタリストの輪を全国へ広げて地域に浸透させていきたいです。
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プロフィール

藤田医科大学総合診療プログラム
専攻医2年目 毛利公亮(もうり・きみあき)

藤田医科大学総合診療プログラム
https://fujita-soushin.jp 

【経歴】
大阪大学 医学部医学科 卒業
名古屋徳洲会総合病院 初期研修
藤田医科大学総合診療プログラム 専攻研修

【所属学会】
日本プライマリ・ケア連合学会
病院総合診療医学会

取材後記

総合診療医としての将来のビジョンが驚くほど明確で、何事に対しても前向きに取り組まれていて、迷いやブレがない。毛利先生の曇りのない真っ直ぐな眼差しと姿勢が印象に残るインタビューでした。来春、名古屋徳洲会総合病院の総合診療科に戻られてから、目標に掲げたホスピタリストの実践とチーム作りを着実に有言実行されていくことでしょう。毛利先生が全体講演の企画を担当されたプライマリ・ケア連合学会と病院総合診療学会の合同大会は、2025年2月22日(土)〜24日(月祝)に広島国際会議場で開催予定です。オンデマンド配信もありますので、医大生や若手医師の皆さん、ふるってご参加ください。

第20回若手医師のための家庭医療学冬期セミナー 公式ページ
2025年2月22日(土)〜24日(月祝)広島国際会議場
https://www.primarycare-japan.com/assoc/seminar/20250223w-index/

最終更新:2024年12月16日 00時00分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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