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vol.47/ 地域のために 「薬局ができる役割」 は想像以上に多く、楽しい! 【薬剤師】中島美紀先生

今回インタビューしたのは、大分県別府市で「キムラ薬局」を経営する中島美紀先生です。「大人になるまで薬剤師にはなりたくなかった」と振り返る中島先生が、薬剤師となり驚くほど多彩な認定資格を取得した経緯や、特に力を注いでいるという、がん患者と家族のための活動を通じて地域における薬局の在り方に迫ってみたいと思います。
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回り道をして30歳で薬剤師としてデビュー

― 中島先生が薬剤師になるまでのキャリアについてお聞かせください。

実は、大人になるまで薬剤師にはなりたくないと思っていました。母が薬剤師として地元(大分県別府市)で薬局を経営していて、当時まだ紙で管理されていた膨大な量の月締め請求業務のために夜遅くまで作業をしたり、営業時間外も患者さんのために薬局を開けて対応する姿を見て、「大変な仕事」というイメージが強かったんです。まだ若かった私は都会への憧れもあり、薬学とは関係のない東京の大学へ進学しました。

― 30歳で薬剤師へ転身されたそうですが、理由は?

東京から地元に戻って実家の薬局で事務の仕事をしていたのですが、薬剤師の人数が足りなくて大変なのに事務だと手伝える範囲が限られ、もどかしさを感じるようになったんです。ちょうど、薬学部が4年制から6年制に移行するタイミングで「薬剤師に挑戦できるラストチャンスだ」と思い、福岡大学の薬学部へ再入学しました。その後、薬剤師免許を取得して実家の薬局(有限会社 キムラ薬局)に入社し、父の介護などで母が薬剤師を続けることが難しくなった2016年に管理薬剤師として経営を引き継ぎました。

― 薬剤師として患者さんと接しながら、気づいたことはありますか?

キムラ薬局は中規模病院の門前薬局で、複数の診療科を受診されている患者さんが多く来られます。そのため、1つの診療科ではなく様ざまな科を受診されている患者さんも多く、病院で処方された薬をそのままお渡しするだけでは不十分だと感じるようになりました。例えば、処方する薬の副作用が痺れだとしたら、どの診療科でどういった治療が行われているのかが分からないと、何が原因で、どこに痺れが出やすいかといった適切なフォローができません。薬のことだけではなく、もっと病気や治療のことを勉強して、薬剤師として本質的なところから患者さんの役に立ちたいという気持ちが芽生えていきました。
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    ご実家であるキムラ薬局
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薬局として力を入れている、がん患者と家族のための活動

― 取得されている認定資格と所属学会の多さに驚きました。

私は薬剤師としてのスタートが遅く、他の薬局や病院での勤務経験もないので、知識や経験不足を補うために必死でした。最初は母の勧めで製薬会社や地域の薬剤師会の研修会に参加し、講師の先生などを通じて興味を持った認定資格に挑戦したり、様ざまな学会にも参加するようになりました。日本プライマリ・ケア連合学会もその一つで、薬剤師として訪問診療に積極的に関わっていきたいとの思いから会員になり、プライマリ・ケア認定薬剤師の資格も取得しました。

― 特に力を入れている活動を教えてください。

2016年から「がん医療ネットワークシニアナビゲーター(以下:がんナビ)」の活動に取り組んでいます。日本癌治療学会の認定資格で、現在、私を含めた薬剤師4人と事務スタッフ数名が「がんナビ」の資格を取得しています。この取り組みを始めた理由は、がんの治療は長丁場になることが多く、治療中に患者さんの気持ちが揺れ動いたり、変化しやすいため、そうしたプロセスに寄り添いたいと思ったからです。今受けている治療がどの段階なのか、本当にこの治療でいいのかを客観視することが難しく、インターネット上に誤った情報もあふれているため、患者さんやご家族が必要以上に不安を感じてしまうことも多いんですね。不安な気持ちや情報を整理し、正しい情報を分かりやすくお伝えできる場所として、薬局を活用していただきたいと思いながら活動をしています。

― 患者さんとご家族の心のケアに重点を置いているのですね。

はい。がんの治療方針が決まってから「本当にこれで良かったのかな」と不安を感じた患者さんのインフォームド・コンセントのほか、がん患者さんが治療を受けながら働き続けられるよう就労支援をしたり、納得のいく治療方法を選択するためにセカンドオピニオンの情報提供や紹介をすることもあります。

― 薬局として「専門医療機関連携薬局(がん)」にも認定されていますね。

「がんナビ」の活動がきっかけで「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」の資格を私が取得し、2021年8月に「専門医療機関連携薬局」の認定をいただきました。専門医療機関連携薬局は地域薬学ケア専門薬剤師(がん)が在籍する薬局に与えられる認定で、患者さんの入退院や在宅治療などの状況に応じて、がんの専門的な薬学管理を多職種と連携して行うことができます。

― がん治療に必要な連携の中継役を薬局が担っているのですか?

その通りです。例えば、最初に治療はしないと決めていたけれど、後で治療をやってみたいという気持ちに変化するケースがあります。そういう場合に心のケアだけでなく、専門医療機関連携薬局として患者さんの了解を得た上で、がん診療連携拠点病院の医師やメディカルソーシャルワーカー(がん相談支援専門員)と情報共有し、患者さんが納得する方向へ治療の道筋を整えるお手伝いをしています。また、患者さんがお引っ越しをした場合は転居先の近くにある、がんに詳しい薬剤師さんがいる薬局や病院へ繋ぐこともできます。この点においては、様ざまな学会に入って得られたネットワークを大いに活かせていると感じています。
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― ほかに、独自の取り組みも?

キムラ薬局の本店内に、がん診療連携拠点病院から共有していただいた資料や書籍を誰でも手に取って読むことができる資料室「ガーベラ」を併設しています。半個室スタイルで、人に聞かれたくない相談にも乗ることもできます。また、がん患者さんやご家族が集まって意見交換や交流ができる「がんサロン」が別府市内に複数あるので、いつ、どこで、どんな活動を行っているのか情報をまとめて薬局内に掲示しています。「がんサロン」には行政運営のサロンや訪問看護ステーション運営のサロンなどがあり、その存在自体を患者さんやご家族がご存知ないことも多いので、薬局として情報と相談のハブステーションの役割を担い、紹介や同行も積極的に行うようにしています。

地域のために薬局ができることを追求

― 訪問診療への関わりについて教えてください。

医師の訪問診療に薬剤師として同行したり、往診後に薬をお届けして患者さんの服薬をフォローしたりしています。がん患者さんが初めてオピオイドを使用される際は服薬指導を注意深く行い、長期治療されている患者さんの場合は看護師さんと相談しながら、副作用や病状に応じた処方量の調整を医師に提言する場合もあります。特に近年は、老人福祉施設の訪問診療に薬剤師として関わる場面が増えたように感じています。認知機能がしっかりしている方はご自宅で在宅医療を望まれるケースが多いのですが、認知機能が低下するとご自身でお薬の管理することが難しくなるため施設や病院へ移ることが多くなります。病院、在宅、施設へと移行される方もいらっしゃるので、そうした場合にも可能な限り薬剤師として対応し、患者さんに長く寄り添い続けたいと思っています。
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― 日本プライマリ・ケア連合学会での活動は?

「高齢者医療・在宅医療委員会」と「利益相反委員会」に所属しています。高齢者医療・在宅医療委員会は2024年に委員会に入ったばっかりですが、メンバー全員で意見を出し合ってコンピテンシー作りを進めています。利益相反委員会は、学会の活動の中でCOI(利益相反)に抵触する場合があるので、委員会としての判断を理事会などに提言するのが主な活動です。医師、看護師、薬剤師などの職種を超えたメンバーが集まって委員会活動をできるのが日本プライマリ・ケア連合学会ならではの魅力で、それぞれの職種を理解し、知識を深めるきっかけにもなり、とても勉強になっています。

― 現在の課題や近い将来の目標をお聞かせください。

地域の課題として感じているのが、後進の育成です。他の薬局の若い薬剤師や、モチベーションの高い地域の若手の医療従事者に、地域で患者さんをサポートするために薬局ができること、薬剤師として関われることがたくさんあることを、一緒に活動しながら伝えていきたいです。現在、薬学生の実習も積極的に受け入れていて、先ほどお話しした「がんサロン」にも実習生を連れて行って、いろんな話しを患者さんと分かち合いながら、人として、薬剤師として何ができるか考えてもらうきっかけにしてもらっています。

― 薬局だからできること、想像以上にたくさんありますね。

私自身もいろんな活動を通じて、良い意味で薬局はスキマ産業的だなぁと感じています(笑)。現在、キムラ薬局としては別府市内に3店舗(本店・亀川店・トキハ別府店)があり、本店と亀川店は厚生労働省の「健康サポート薬局」にも認定されています。地域の「かかりつけ薬剤師」として、市販薬や健康食品の相談や栄養相談などに対応できるので、処方箋を持っていなくても薬局に相談に行っていいんだ!と身近に感じてもらえるよう、SNSを通じた情報発信にも今後もっと力を入れていきたいと思っています。

プロフィール

有限会社キムラ薬局 
薬剤師 中島美紀(なかしま・みき)

http://www.kimura-pharm.jp

【経歴】
2001年3月 東京都立大学法学部法律学科中退
2011年3月 福岡大学薬学部医療薬学科卒業
2011年4月 有限会社 キムラ薬局 入社
2016年7月 同社本店の管理薬剤師となる

【資格】 
プライマリ・ケア認定薬剤師
がん治療ネットワークシニアナビゲーター
スポーツファーマシスト
老年薬学会認定薬剤師
簡易懸濁法認定薬剤師
大分県がん薬物療法認定薬剤師
麻薬教育認定薬剤師
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)認定

【所属学会】
日本医療薬学会
日本プライマリ・ケア連合学会
日本老年薬学会
日本癌治療学会
日本緩和医療薬学会
日本緩和医療学会
日本臨床腫瘍薬学会

取材後記

ユーモアと笑顔を交え、インタビューに応えてくださった中島先生。「親しみやすく、ノリがいい」というのが第一印象で、中島美紀先生が営むキムラ薬局を訪れた患者さんや家族は、前向きな気持ちになって家に帰っていくのだろうと想像することができました。薬剤師として苦労を重ねた母親に最初は反発しつつも、今では中島美紀先生ご自身が地域のために労力と時間を惜しまない薬剤師となり、しかも楽しんで活動に取り組んでいる姿が本当に素敵だと感じました。

最終更新:2025年01月22日 07時38分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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