ホームニュースプラネタリーヘルス気候変動と感染症 ― プラネタリーヘルスの視点から考える、私たちの健康 ―

ニュース

プラネタリーヘルス

気候変動と感染症 ― プラネタリーヘルスの視点から考える、私たちの健康 ―

2025年6月の学術大会では、「プラネタリーヘルス展示ブース」を設置し、地球環境の変化と健康とのつながりについて紹介いたしました。今回ご紹介するのは、その展示資料のひとつ「気候変動と感染症」です。

気候変動はなぜ感染症に影響するのか


気候変動は、猛暑や豪雨だけでなく、感染症の発生や広がり方にも影響を及ぼします。

気温上昇や降水パターンの変化は、蚊やダニなどの媒介生物、あるいはネズミや家畜などの自然宿主の生息環境を変化させ、人への感染リスクを高めます。

 

また、感染症のリスクは、単に「病原体が存在するかどうか」だけで決まるものではありません。【図1】
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-1662-1.jpg


1. 病原体の体内への侵入

2. 媒介生物や自然宿主の存在

3. 病原体が侵入しやすい社会環境

4. 人の健康状態

という複数の要素が相互に関係しています。

 

このように、感染症は単に病原体だけの問題ではなく、環境・生態系・生活環境・人の健康状態が重なって成り立つことが分かります。

気候変動は、こうした各要素に影響しながら、感染症の成立しやすさそのものを変えていく可能性があります。これは、人の健康を地球環境や生態系と切り離さずに考えるプラネタリーヘルスの考え方に通じています。

温暖化でリスクが高まる感染症


温暖化と関連して増加が懸念される感染症の例として、次のようなものが紹介されています。【図2】
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-1662-4.jpg

蚊が媒介する日本脳炎、マラリア、デング熱、ジカ熱、ウエストナイル熱、リフトバレー熱、ダニが媒介するダニ媒介脳炎、ライム病、げっ歯類に関連するハンタウイルス症候群、レプトスピラ症など。さらに、動物からの直接感染に加え、水系汚染による下痢症(コレラ、ビブリオ等)、土壌汚染による炭疽、肉や魚を介する感染症など、環境変化に伴ってリスクが高まりうる感染症があります。

このように、気候変動の影響は一部の特殊な感染症だけではなく、水・土壌・動物・食品を介する幅広い感染症に及ぶ可能性があります。

家庭でできる対策


私たちが家庭で実践できる対策は、たとえば、蚊の発生源となるわずかな水たまりを減らすこと、植木鉢の受け皿、空き缶、放置されたビニールシートの折り目、古タイヤなどに水をためないこと等があります。
さらに、長袖・長ズボンの着用、虫よけ薬の使用、蚊取り線香の活用など、蚊などのベクターに刺されないための基本的な予防策も大事です。

また、これに加えて、身近な暮らしの中で環境負荷を減らす行動を心がけ、気候変動対策にも取り組むことが大切です。【図3】
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-1662-7.jpg

今すぐできること



今すぐできることは感染症予防の基本と予防接種です。小児期から成人までの定期接種に加え、個々のリスクに応じた任意接種、災害支援に行く際の破傷風ワクチン接種歴の確認など。また、旬の野菜や魚介類など、その土地で採れた食材を選ぶことを通じて、生態系の多様性を守り、環境負荷を減らすという視点も大切です。

このような行動は、感染症対策と環境配慮を別々の課題としてではなく、一連の課題としてとらえることにつながり、個人の感染症予防だけでなく、環境への負荷を減らし、より健康的な地域社会を支えることにもつながります。

おわりに

  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-1662-10.jpg


感染症の問題は、医療だけで完結するものではありません。気候、住環境、生態系、生活様式、社会インフラなど、さまざまな要素が関係しています。
だからこそ、気候変動を環境問題としてだけでなく、私たちの健康に直結する課題として考えることが重要です。


(中山 久仁子  医療法人メファ仁愛会 マイファミリークリニック蒲郡)


参考文献

1.       マイヤーズSS,フラムキンH 編.プラネタリーヘルス 私たちと地球の未来のために.丸善出版;2022.

2.       Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC). Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability. Working Group II Contribution to the Sixth Assessment Report. Geneva: IPCC; 2022.

3.       Thomson MC, Stanberry LR. Climate Change and Vectorborne Diseases. N Engl J Med. 2022;387:1969-1978. doi:10.1056/NEJMra2200092.

4.       Ogden NH. Climate change and vector-borne diseases of public health significance. FEMS Microbiol Lett. 2017;364(19):fnx186. doi:10.1093/femsle/fnx186.

5.       Mora C, McKenzie T, Gaw IM, et al. Over half of known human pathogenic diseases can be aggravated by climate change. Nat Clim Chang. 2022;12(9):869-875. doi:10.1038/s41558-022-01426-1.

最終更新:2026年04月08日 08時31分

プラネタリーヘルス委員会

記事の投稿者

プラネタリーヘルス委員会

タイトルとURLをコピーする