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【熱中症対策 特別寄稿】第1部:義務化された職場の熱中症対策とその背景

はじめに

2025年6月から,暑熱環境で作業を行う職場における熱中症対策が義務化されたことを,みなさんはご存知でしょうか?働く世代の最初の相談先となり得るプライマリ・ケアには,産業保健の視座が求められると私たちは考えています.外来など日常の診療場面において,職場の熱中症対策に関する情報提供の参考となることを目指して,寄稿させていただきます.

2025年6月,職場における熱中症対策が義務化された

2017年から, 厚生労働省は関係省庁及び関係団体等との連携の下,事業場での熱中症予防対策の徹底を図ることを目的に,毎年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を展開してきました.期間を5月1日から9月30日までとし,4月を「準備期間」,7月を「重点取組期間」と位置付けて,各々の期間で事業者が実施すべき項目を定めています.

 上記キャンペーンに加えて,2025年4月に労働安全衛生法の省令改正があり,職場における熱中症対策の義務化が6月1日に施行されました.対象となる作業は,「暑さ指数(WBGT)28度以上または気温31度以上の環境」で,「連続1時間以上か1日4時間以上の作業」です.

 事業者に義務化された具体的な対策内容は以下の3つです.

①体制整備:熱中症の自覚症状や他覚所見の早期発見のための体制整備

②手順作成:重症化を防ぐための応急処置,搬送などの手順の作成

③情報周知:①②を作業従事者に周知すること

 「キャンペーン」から「義務化」へ,職場の熱中症対策における状況は深刻化していることが窺えます.

義務化の背景には,熱中症による死傷者数の増加がある

夏季を中心に熱中症の発生が相次いでいます.職場においても熱中症が多数発生しており,さらには死亡災害となる事例も生じています.

職場における熱中症による死傷者数(死亡者数と休業4日以上の業務上疾病者数を加えた数)の推移をご覧ください(図参照).

2017年までは年間の死傷者数は400-500人台でしたが,2018年はそれまでに経験のない酷暑に見舞われ,過去10年間で最多の死傷者数1,178人となりました.それ以降も死傷者数が多い状況が続いています.このような背景及び制度変更に際し、医療現場ではプライマリ・ケアの視点からの情報提供が重要です。外来での一言が、患者とその職場の安全を守る第一歩になります.


文責:予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム 山本真輝
(豊田地域医療センター 総合診療科/トヨタ自動車株式会社 産業医)
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-1323-4.png
    図:厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)」より

参考文献

以下の参考文献は主に事業者や産業医向けの資料ですが,外来等の日常診療場面でもぜひ活用してください.特に厚生労働省は独自のリーフレットを作成しており,印刷して手渡すなども効果的かもしれません.

●      職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日付け基発0420第3号)

●      令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱

●      熱中症診療ガイドライン2024

●      厚生労働省「働く人のいますぐ使える熱中症ガイド」

●      労働衛生のしおり 令和6年度

●      産業医の職務Q&A 第11版

最終更新:2025年06月09日 00時00分

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

記事の投稿者

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

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