ホームスキルアップCurrent topics - プライマリ・ケア実践誌見逃せない救急・見逃さない救急「それって本当に胃腸炎?!」

スキルアップ

Current topics - プライマリ・ケア実践誌

見逃せない救急・見逃さない救急「それって本当に胃腸炎?!」

Point

胃腸炎と診断するための三つのポイントを理解し,見逃しを防ごう!

Case

独歩受診した3人の患者を例に考えていきましょう。

◎ Case 01

22 歳女性。起床時に嘔気を認め、その後嘔吐した。数回嘔吐し胃液様の吐物しか認められなくなったが、嘔気が治まらず、心配した母親とともに来院。妊娠の可能性は、現在生理中で、前回の月経も正常、数ヵ月性交渉もないことから否定的と判断し、「胃腸炎?」と思ったが……
意識清明 血圧:100/58 mmHg 脈拍:110 回/ 分 呼吸:24 回/ 分 体温:36.0℃ 瞳孔:3/3 +/+
既往歴:虫垂炎術後(15 歳)

◎ Case 02

80 歳女性。自宅で掃除をしている際に嘔気を認めた。その後嘔吐を認めたため近医内科を受診。診察待ちをしている際にも一度嘔吐を認めた。上腹部の軽度の痛みも認め、「胃腸炎?」と思ったが……
意識清明 血圧:110/88 mmHg 脈拍:88 回/ 分 呼吸:20 回/ 分 体温:35.4℃ 瞳孔:3/3 +/+
既往歴:高血圧、2 型糖尿病、骨粗鬆症

◎ Case 03

44 歳女性。自宅でご主人と昼食後に嘔吐した。その後も繰り返し嘔吐したため近医受診。ご主人も軽度の嘔気症状はあるが嘔吐はしていない。二人ともレバニラ炒め、ご飯、味噌汁と同様のものを食べている。嘔吐後は症状が軽快傾向にあったために、「胃腸炎?」と考え整腸剤処方し帰宅としたが……
意識清明 血圧:130/68 mmHg 脈拍:110 回/ 分 呼吸:20 回/ 分 体温:36.8℃ 瞳孔:2.5/2.5 +/+
既往歴:特記事項なし

Introduction

 “胃腸炎"は非常に頻度の高い疾患であるとともに、誤診の原因の代表格です。
胃腸炎だと思ったら虫垂炎、胃腸炎だと思ったら異所性妊娠、胃腸炎だと思ったら小脳梗塞、胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスなどなど、いいだしたらきりがありません。胃腸炎と誤診してしまう疾患は見逃せない疾患であることが多く、目の前の患者に"胃腸炎"と診断するときには細心の注意が必要なのです。
鑑別は多岐にわたりますが、実は意識するべきことは非常にシンプルです。
三つのポイントを頭に入れておきましょう。

胃腸炎が満たすべき3症状と順番

胃腸炎と一言でいっても、原因はウイルス、細菌、寄生虫、薬物、毒物など多岐にわたります。原因に対して対応が異なることもあるため、“胃腸炎"と病名をつけることよりも、原因を同定し対応をいちいち考えることが大切です。
 一般的な胃腸炎の経過は、嘔気・嘔吐を認め、その後腹部の右や左、正中などの間歇的な痛みを認めます。その後水様性の下痢を認めるといった経過が典型的でしょう。すなわち、①嘔気・嘔吐、②腹痛(間歇痛)、③下痢の三つの症状が、①→②→③と上から下の順に認めるのです。非典型例も多々存在しますが、まずはこの原則を押さえておくことは大切です。

 胃腸炎としばしば誤診される虫垂炎は、心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛→発熱→白血球上昇という経過を辿るのが典型例であり、上から下という原則を押さえておくだけで誤診の多くは防げます。

 救急外来など初診の患者が多く、また急性期に来院することが多い場においては、胃腸炎であったとしても、その時点では3 症状がそろっていないことが多いものです。その際、嘔気・嘔吐のみの場合には、胃腸炎と診断することはできない、してはいけないと心得ておくのがよいでしょう。また、腹痛を伴う場合には、必ず嘔吐と腹痛どちらが先に認められたのかを確認し、下から上の場合には胃腸炎以外から考えるべきでしょう。
Case 01 は、その時点で嘔気・嘔吐の症状のみであったため、胃腸炎の可能性は考えながらも、まずはそれ以外の原因から考えることとし、病歴をきちんと聞くこととしました。母親には席を外してもらい経過を確認すると、来院前日の夜に彼氏と口論となり、むしゃくしゃして、就職活動の際に購入し余っていたカフェインのタブレットを1 箱分を飲んだことがわかりました。原因はカフェイン中毒だったのです。
 カフェイン中毒の主な症状は表1 のとおりで、若年者では近年増加しています。薬局やネットで簡単に誰でも購入できる時代です。エナジードリンクでも動悸や嘔気は認めることはありますが、タブレットは通常1 錠あたり100 mg(海外のものは200 mg のものもあり)のカフェインが含有されているのに対して、RedBull Ⓡは1 本(250 mL)あたり80 mg、Monster Ⓡは1 本(355 mL)あたり140 mg 程度です。
タブレットは簡単に過量のカフェインを摂取できるため、中毒量に達しやすく、なかには致死量の5 g 以上を内服する症例も発生しています。
本邦のカフェイン中毒の平均発症年齢は25 歳前後であり、10 ~ 30 代の繰り返す嘔気・嘔吐や動悸症状では、カフェインの影響も考え疑って問診することをお勧めします。
 もちろん、女性の場合には妊娠の可能性は常に意識し、否定できなければ妊娠検査は行うべきです。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-135-1.jpg

◎嘔気・嘔吐の鑑別 1)

 原因は多岐にわたるため、+ αの症状に注目すると鑑別しやすくなります。患者さんは最もつらい症状のみを訴えることが少なくありません。
随伴症状を必ず確認し、それがどの順で認められたのかを意識して対応しましょう。嘔吐+頭痛であれば髄膜炎や小脳出血、嘔吐+めまいであればBPPV(良性発作性頭位めまい症)や小脳梗塞、嘔吐+胸痛であれば急性冠症候群、嘔吐+腹痛であれば腸閉塞や胆管炎、尿路結石、糖尿病ケトアシドーシスなどなど、鑑別がしやすくなるでしょう。
 また、患者背景を意識することも大切です。腎機能障害患者が嘔気・嘔吐を認める場合には、高K 血症も鑑別にあげる必要があります。

◎高齢者の繰り返す嘔気・嘔吐

 成人に対して高齢者では、いくつか気をつけるべき疾患がここには含まれます。
①急性冠症候群、②小脳出血・梗塞、③胆管炎、④腸閉塞、イレウス、⑤薬剤は常に考え対応するようにしています。通常であれば、①は胸痛、②はめまいや頭痛、歩行困難、③・④は腹痛などの症状を訴え来院することが多いですが、高齢者でははっきりしないことも少なくありません。
繰り返す嘔吐というキーワードから早期に対応することが必要です。また、高齢者ではいかなる症状においても薬剤性は考えるべきであり、内服薬は処方薬以外にも正確に拾いあげ考慮することが重要です。
 Casa 02 は急性心筋梗塞でした。心電図をとったらSTEMI だったのです。
高齢者、女性、糖尿病は無痛性心筋梗塞の三大要素であり、このような患者群では、痛みがないからといって心筋梗塞を否定してはいけません2)。
呼吸困難、失神・亜失神、めまい、脱力、冷や汗、そして本症例のような嘔気・嘔吐を認める場合には、一度は疑い心電図をとる癖をもちましょう。徐脈やテント状T 波、wideQRS などを認めれば高K 血症にも気づくことができるでしょう。高齢者がオエオエと気持ち悪そうにしていたら、休んでもらいながら1 枚心電図を評価しながら問診するとよいでしょう。詳細はこちら3)。

食事摂取と症状出現のタイムラグ

 嘔気・嘔吐の症状が胃腸炎だった場合には、症状は食事摂取後どの程度遅れて生じるものでしょうか。一般的に表2 が目安であり、最も早い黄色ブドウ球菌であっても30 分以上はかかります。みなさんも経験があるとは思いますが、実際に食べた物によって胃腸炎様症状が認められるときには、食事してしばらくしてから、なんとなく気持ち悪い、その後お腹がゴロゴロ、その数時間後に下痢、というのが一般的な流れでしょう。食べてすぐ、さらには食べている最中から嘔気・嘔吐を自覚する場合には、ずばり“中毒"を考え対応する必要があります。

 和歌山のカレー事件をご存じでしょうか。夏祭りでカレーを食べた70 名弱の一般市民が、食べた30 分以内に嘔気・嘔吐を認めたのです。摂取したモノが原因とすれば、症状の出現が早すぎるため毒物を考え精査するわけです。それによって原因がカレーそのものではなくヒ素であることが判明したのです。

 その場で原因毒物がわからなくても、単なる胃腸炎では合わないということに違和感をもって対応すればよいでしょう。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-135-2.jpg
 Case 03 は、病歴をくわしく聞くと、食べている最中から気分が悪くなり嘔吐を認めたことが判明しました。原因はアルカロイド中毒、ニラとスイセンを誤食したのです。スイセン、バイケイソウ、チョウセンアサガオなどを、それぞれニラやギョウジャニンニク、ゴボウなどと誤食する例があとを絶ちません。地域差があり頻度は高くありませんが、日本全国どこでも遭遇する可能性があり、忘れたころに経験します。

食べてすぐ、食べている最中に症状を認める場合には、「中毒かも?」と考え対応しましょう4)。

胃腸炎と診断するための満たすべき3つの条件

  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-135-5.jpg

参考文献

1)坂本壮.「先生,ひどく嘔吐しています」.レジデント.2018;11(2):96-102.
2)Canto JG, Shlipak MG, Rogers WJ, et al. Prevalence, clinical characteristics, and mortality among patients with myocardial infarction presenting without chest pain. JAMA. 2000; 283(24): 3223-3229.
3)坂本壮.内科救急のオキテ.医学書院,2017,p6-13.
4)坂本壮.誤食により中毒を起こしやすい植物性自然毒.Intensivist.2017;9(3):765-768.

キーメッセージ

〇 嘔吐,腹痛,下痢の3症状あり

〇 上から下(嘔吐→腹痛→下痢)の順に症状を認める

〇 摂取してからの時間経過が合致

プロフィール

坂本 壮
総合病院国保旭中央病院 救急救命科医長/ 臨床研修センター副センター長

略歴
2008 年順天堂大学医学部卒業.
2010 年順天堂大学練馬病院救急・集中治療科入局.
2015 年から2年間西伊豆健育会病院内科.
2019 年4 月から現職.
救急科専門医,集中治療専門医,総合内科専門医
著書:救急外来ただいま診断中(中外医学社,2015),内科救急のオキテ(医学書院,2017),救急外来 診療の原則集 あたりまえのことをあたりまえに(シーニュ,2017),jmed 61「意識障害」(日本医事新報社,2019),主要症状からマスターする すぐに動ける!急変対応のキホン(総合医学社,2019),J-COSMO 編集主幹(中外医学社,2019 ~)
 
 
多くの患者が訪れるER を,研修医と共に対応しています.毎日多くのドラマがあり学ぶことが山ほどあ
り,研修医からの鋭い質問にあたふたしながら過ごしています.また,年間数十ヵ所の研修病院から声を
かけていただき,基本的事項の重要性を伝えています.やるべきことを徹底し,あたりまえのことをあた
りまえに行うことができるよう日々努力したいと思っています.
休みの日は家族との時間を,そしてミュージカル鑑賞や筋トレなどを楽しみ気分転換しています.
諸々の依頼はこちらへ + sounet2@gmail.com.
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-135-8.jpg

最終更新:2023年04月27日 11時55分

実践誌編集委員会

記事の投稿者

実践誌編集委員会

タイトルとURLをコピーする