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Current topics - プライマリ・ケア実践誌

健康と社会を考える/社会福祉の援助対象者の健康支援を考える① −医学モデルと生活モデルによる複眼的な健康支援−

はじめに

私は医師10年目&社会福祉士1年目です。経済的な困窮や社会的な孤立といった生活困窮状態を背景に健康を損ねてしまった患者さんの診療経験をきっかけに、生活困窮者の健康支援の方法を研究しようと大学院に進学しました。そこで保健、介護、福祉などの人々の健康で豊かな生活に貢献している医療以外の専門職の存在のことをほとんど理解していないことに気づかされました。そこで、大学院で公衆衛生や保健の基礎を学ぶ傍ら、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を取得しました。生活困窮者に対する援助方法(ソーシャルワーク)の基礎を学ぶために社会福祉専門学校へダブルスクールをしました。社会福祉士を養成するカリキュラムのなかでさまざまな困りごとを抱える人々の援助を経験し、社会福祉士の資格を取得しました。診療現場で感じた疑問をきっかけに、大学院と社会福祉専門学校を通じた学びが、生活困窮者の健康支援の診療や研究に役立っています。本稿ではその学びから、プライマリ・ケアで求められる実践を考えたいと思います。

社会福祉の援助対象としての「生活困窮」とは

生活に困窮しているときに健康を維持することは容易ではありません。近年、生活困窮状態のような、健康や健康にかかわる行動に影響を及ぼす社会的な要因(social determinants of health:SDH)を医療従事者が把握し、配慮のうえで対応することの重要性が指摘されるようになってきています。

生活に困窮している人は、食料、衣服、金銭などといった健康な生活のために必要な物質が不足していることがあります。しかし、それだけが生活困窮のすべてではありません。そのような人々は物質的な困窮により社会活動への参加がむずかしくなり、さまざまな権利を行使する力や自らの意見を発する力がない、パワーレスの状態に陥っています。声をあげにくいことからボイスレスの状態とも表現されます。そんななか、「自らの責任で生活が苦しくなっているのでは?」、「努力が足りないのでは?」と本人が解釈できてしまうような、周囲からの(無意識的な)言葉を聞いてしまうと、「どうせ自分なんて……」と自己評価を下げるようなスティグマを負ってしまいます。すると、パワーレスやボイスレスといった状態はさらに強化され、ますます社会関係から排除されてしまいます。貧困や生活困窮は近年このような動的・多次元的な概念とされています。

医学モデルと生活モデルによる視点と支援

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最終更新:2023年05月10日 00時00分

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