ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!vol.14/若さいっぱいの爽やかな意気込みで、真に納得と安心を得られる総合診療を目指す!【医師】阪本宗大先生

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vol.14/若さいっぱいの爽やかな意気込みで、真に納得と安心を得られる総合診療を目指す!【医師】阪本宗大先生

医学生時代のホスピス施設での実習をきっかけに、患者さんの人生に寄り添う医療を意識し始めたという阪本宗大先生。その後、プライマリ・ケアのことを知ることで自身の方向性が定まり、総合診療医を目指すことに。現在、専攻医として多忙な日々を過ごす阪本先生からこれまでの歩みとこれからの夢について語っていただきました。
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「医学部に行きなさい!」と担任の先生が一喝!?

— 先生が医師を目指した理由から教えて下さい

小学生4年生のときに足を痛めたことがきっかけでした。私は小学校に入ったタイミングで剣道を始めたのですが、剣道には「踏み込み」という独特の足さばきがあります。これがうまくできないと足に故障が起きやすくなり、実際に私も痛みを感じるようになりました。それで母に連れられて整形外科に行ったのですが、そこで受けたマッサージにビックリしたんです。それまで感じていた痛みがさーっと引いていって「さっきまであんなに痛かったのに……お医者さんって凄い!」と。いま考えればマッサージをしてくれたのは医師ではなく理学療法士だったと思いますが(笑)、ともあれその体験が鮮烈で、医師に憧れを抱いたのがきっかけと言えます。
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    医師への想いを抱いた頃の阪本さん

― その後は「夢」はブレないままでしたか?

一度だけブレたことがあります(笑)。実は、整形外科の帰りに母に「お医者さんって凄いんだね。僕は将来、お医者さんになりたい」と言ったんですよ。そうしたら「じゃあ医学部に行ける中学・高校を目指さないとね」と、そこから塾通いが始まりました。以来、ずっと勉強に励んできたのですが、高校生のときに疲れてしまって「受験科目の少ない文系に鞍替えしようかな」と。
それで進路相談のときに担任の先生に「弁護士もいいかなと思うので文系への変更を考えています」と言ったら「何言ってんだ、ダメだよ」と一蹴。
「君は医学部を目指して頑張ってきたんだろ。だったら夢を貫きなさい」。
確かにその通りだと思い直して、そこからはブレずにここまで来ました。

― 特に目指した診療科目はありましたか?

救急の医師ですね。これは単純に医療ドラマの影響です。当時は坂口憲二さんが主役の「医龍—Team Medical Dragon—」や江口洋介さん主演の「救命病棟24時」を見ていたので「おお、手術する医師や救急医ってカッコいいな!」と。私は両親を含めて親族に医療関係者がいなくて、身近なところで具体的なイメージを描ける対象がいなかったんです。だからドラマに理想を求めたんでしょうね。

ホスピス施設での経験で進むべき方向が見えてきた

― そんな先生がなぜ 総合診療医 に?

大学4年生のときの実習がターニングポイントでしたね。私はホスピスの施設に実習に行ったのですが、ここで患者さんとじっくり話をする機会をいただきました。ホスピス施設ですから患者さんは死を間近にしているわけです。高齢の方が多く、言ってみれば私にとっては人生の大先輩。そういう方々から、病気のことや病気に対して思っていること、どのような人生を歩んできたのかといったことまで教えていただきました。その体験がきっかけで、終末期医療に興味を持つようになったわけです。そして患者さんが人生の最期を穏やかに過ごすために医師として何ができるかを考えていきたいと思うようになったんですね。

― 患者さんの人生に寄り添うような医療がしたかった?

そうなんです。大学ではバイオロジカルな観点から人体を学んでいきますが、私は特に何かの臓器に強く関心を抱くとか解剖に興味を持つことはありませんでした。医師として必要なことなので学びはするものの、そちらの方面に進みたいとは思わなかったんです。そんな風にもやもやしているときでしたから、ホスピスの現場にふれたことは霧が晴れるような感じでしたね。進むべき方向性が見えてきたような。
ただ、そうは言いながらも、一方で疑問があったのも事実です。その疑問とは「ホスピス施設で亡くなることを、みなさん本当に望んでいるのだろうか?」ということです。私自身は「亡くなるときは自宅で」と思っていましたし、家族や友人たちに聞いてもそうした声が多かった。もちろん患者さん一人ひとりにはそれぞれの事情があるのも承知していますが、もっと家庭にフォーカスした医療サポートも必要なのではないかと、そんなことを思うようになりました。このときはまだ「総合診療医」とか「家庭医」とか「プライマリ・ケア」という言葉は知らなかったんですけど。

― どのタイミングで総合診療のことを知ったのでしょう?

ちょうど同じ時期に大学で総合診療の授業が始まって「これは自分の考えていることに近いのでは?」と思いました。その後、大学5年生のときに日本プライマリ・ケア連合学会の地方会(第29回日本プライマリ・ケア連合学会近畿地方会 於:奈良県社会福祉総合センター)が奈良で開催されたんですね。主催は奈良県立医科大学医師会で、知っている先生方も関わっていました。それで「阪本君、興味があるなら来てみたら?会場も大学から近いし」とお誘いをいただいて、自転車を飛ばして行ったんです。ここで初めて「家庭医(総合診療医)」という言葉を知って「これ、僕がやりたいことそのままじゃないか!」と驚愕しました。この学会が取り組んでいることは、自分がしたいと思っていたこと、家庭医こそ自分が進むべき道だ、と天啓を受けた気持ちでした。

西尾健治先生の診察スタイルに憧れて

― 日本プライマリ・ケア連合学会に入ったのは?

2018年ですね。この年に三重県の津市で学会の学術大会が開かれました(第9回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 於:三重県総合文化センター/三重県総合博物館)。三重と奈良はお隣同士なので参加することにしたんです。実は奈良の地方会のときに別の大学の同じ学年の人と仲良くなっていて、彼も参加するということで「じゃあ現地で会おうよ」ということになって。そこで二人して学会に入りました。同じ思いを持つ人と出会えたことも学会に入る動機になったと言えますね。
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    学術大会で出会った同期たちと

― ちょうどその時期、先生は初期研修医ですね

そうですね。初期研修では南奈良総合医療センターと奈良医大附属病院に1年ずつお世話になりました。南奈良総合医療センターでは天野雅之先生からご指導を受けて、改めて総合診療医としての道を歩んでいこうと決意しました。
学会に入ったのは研修医2年目のころですね。その後、専攻医としての研修先は奈良医大を選びました。理由は、西尾健治先生(総合医療学講座教授/奈良県立医科大学附属病院副院長/寄附講座地域医療支援・教育学講座教授)の診察スタイルに憧れたからです。

― 詳しく教えていただけますか?

一般的な診察では「鑑別診断」といって、患者さんの訴えを聞いたり検査をしながら病気を特定していくという段取りを踏みます。そして特定ができたら治療に移るわけですが、なかには診断名がつかないケースもあるんですね。この場合「検査もしましたが、異常は見られないので大丈夫ですよ」と患者さんに告げて診察は終わります。そのことで「ああ良かった、異常がないのなら安心だ」と思う患者さんもいれば「え? そんなこと言われても辛いんですけど…」と戸惑う患者さんもいるわけです。

― 患者さんは病名を知りたいのではなく、苦しみをなくしたいわけですからね

まさにその通りで、西尾先生はそうした向き合い方をされるんです。例えば指が痺れるという患者さんがいたとします。その指をさわってみると、他の指よりも冷たい。となれば「血行が悪くなっている」と考えられます。病名をつけるほどではない症状かもしれませんが、患者さんは「なぜこういうことが起きて、どうすれば治るのか」を知りたいわけです。それに対して「異常はないから、そこまで考えなくていいですよ」では足りないですよね。この症状の方では冷たい指と痺れは一致していることが多いので、診察をしながら冷たい指を触り「ここは痺れているでしょう?ここは大丈夫でしょう?」と確認し、それが当たっていると患者さんは「そう!そうなんです!え、なんでわかるんですか?」とキツネに摘まれた表情をされます。その上で「この痺れは血行が悪くて起こるんです。冷たい場所は痺れているでしょう。ほらこうして温めると痺れがマシになるでしょう」と病名はないですが病態を説明しながら診察と結びつけていく。こうすることで患者さんは心から納得でき、安心できるんです。そして、「血行が悪いためだと考えられるので、手を温めるようにして下さい」「水分補給を意識しましょう」「運動をして血行をよくしましょう」といったアドバイスをすることで将来患者さんに同じ症状が出ないように予防していく。問診や診察を通して患者さんがどんな生活を送っているのかを探っていき、そこに原因を求める。そして生活改善も含めた話をする。この患者さんの過去・現在・未来を含めた診療を行う西尾先生の診療こそが総合診療ではないかと感じました。

― 診察にじっくり時間をかけるということですね

そうですね、そこが大学病院の特色とも言えます。大学病院は開業医やプライマリ・ケア医からバトンタッチされたかたちで患者さんを診ますからスタッフも多いですし、そうした体制も整えているんです。一人の患者さんに30分かけることもありますよ。患者さんにしてみれば「どのクリニックに行っても異常なしと言われたけど、この辛さはなんとかしてほしい」とすがるような思いで来られるわけですから、西尾先生の診察スタイルにとても安心するわけですね。そのスタイルを私は学び取りたいと思っています。
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    西尾健治先生(左)と一緒に

総合診療医として経験を積みながら前に進んで行きたい

― 今年の3月までは専攻医として宇陀市立病院で診察を?

はい。地域医療部に所属し、総合診療医として週に4日診察にあたっていました。主には訪問診療と移動診療車での診察です。移動診療車というのは献血バスや検診バスをイメージしていただければわかりやすいと思いますが、ああいう大型車両に診察室やX線撮影機、超音波撮影装置、血液・尿検査機器、心電図検査などを備えたものです。「走る診療所」ですね(笑)。この診療車に乗って医療の空白地へ行き、地域の患者さんを診察します。一台の車にここまでの診療所機能を備えた診療車は日本ではめずらしく、地域の方からも喜ばれています。
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― 今後の取り組みとして手がけていきたいことは?

総合診療医の認知度は上がっているとは言うものの、まだまだこれからといった面もあると思っています。私は現在専攻医ですが、今後の専攻医のみなさんが安心して総合診療医を目指せるようになるためには、現場で活躍する総合診療医がもっと増えていくことと他科の医師に認められることが必要であると思います。そこのところで微力ながら貢献していきたいと思っています。また、今年の4月からはクリニックに異動し診療をする予定で、より多くの経験を積める環境に身を投じることになりました。地域の患者さんから信頼される総合診療医となれるように頑張っていきたいですね。
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    2023年から阪本先生が勤務する「へいせいたかとりクリニック」

プロフィール

2017年 奈良県立医科大学卒業
2019年 奈良県立医科大学/南奈良総合医療センターで初期研修修了
奈良県立医科大学総合診療専門医後期研修プログラムを開始
奈良県立医科大学附属病院総合診療科、大阪府八尾市立病院小児科、青森県東通村診療所で研修
2022年 宇陀市立病院地域医療部に着任
2023年 へいせいたかとりクリニックに着任

資格
日本医師会認定産業医
医師少数区域経験認定医師

へいせいたかとりクリニックHP
https://www.heisei-h.or.jp/heiseitakatori/

取材後記

阪本先生にお会いした印象を一言で表すなら「フレッシュ」。ハキハキと明るい話し方に加え、キラキラと輝く瞳からは若き医師としての爽やかな意気込みが伝わってきた。今回の取材では先生が医師を志したきっかけから、医学生時代に日本プライマリ・ケア連合学会と関わるようになったいきさつ、医大卒業後の初期研修医時代、恩師・西尾健治先生へのリスペクト、そして現在の専攻医としての業務などについてさまざまにうかがった。理路整然とした話しぶりのおかげでスムーズに取材が進んだことを付記しておきたい。「多くの専攻医が安心して総合診療医を目指せるように頑張っていきたい」という阪本先生の今後の活躍を強く願う。

最終更新:2023年03月27日 16時12分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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