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健康と社会を考える/社会的バイタルサインを使って患者さんの現在、過去、未来をみよう①

はじめに

日本プライマリ・ケア連合学会は2018年6月に「健康格差に対する見解と行動指針」を発表しました。そのなかには会員への推奨として以下の文言があります。

①予防活動・診療について:本人や家族、周囲の方々や組織と、健康の社会的決定要因についての認識を共有し、健康に影響する生活環境を整えるように関係する人や組織に働きかける
②教育について:学生実習や研修生教育、多職種カンファレンスなどさまざまな教育機会において、健康格差の存在および人々の社会背景に目を向けることの重要さを伝える

今回と次回の連載ではこの推奨を実践するための一助として、健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)を診療や教育の場に落とし込むための枠組みとして私たちが活用している社会的バイタルサイン(social vital signs:SVS)について紹介します。

社会的バイタルサインの成り立ち

社会的バイタルサイン(以下SVS)は北海道勤労者医療協会の堀毛清史先生が2012年に「人間らしく生きている証」として提唱した概念で、「人間は社会的な存在であり、その状況に関する情報・兆候」を意味します。具体例として食生活・住居・ライフライン・社会的基盤・人間関係があげられていました。着想のきっかけとして、堀毛先生がかかりつけ患者さんの救急搬送に付き添ったときに搬送先で患者さんの生活に関する質問にまったく答えられず猛省したというエピソードがあったと伺っています。
私たちは講演などを通してSVSの概念を知り、趣旨に賛同して多職種でチームを結成し(Team SAIL:Scope to upstream and Action with Interprofessional Investigating and Learning)、第8回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会以降ワークショップやインタラクティブセッションの開催や診療での活用に取り組んできました。

SVSはHEALTH+Pで捉えアクションシートに落とし込む

SVSの項目はTeam SAILで網羅性と普及の点から検討し、

①人間関係:Human network and relationships
②就業と収入:Employment and income
③趣味や生きがい:Activities that make one’s life worth living(Advanced-ADL)
④リテラシーと教育環境:Literacy and Learning environment
⑤衣食住:Taking adequate food, shelter and clothing
⑥保健・福祉・医療・介護サービス:Health care systems
の6項目(頭文字でHEALTH)としました。

そのうえで診療や教育で利用するためにSVSの各項目についてWhat(現在の問題点)、Why(問題点の上流にある要因)、How(問題点に対する方策)とPatient preference/values(本人の意向や価値観)を書き込むアクションシートを作成しました(表1)。
使い方はアクションシートに情報を書き込みながら、Whatで現状を整理し、Whyに目を向け、Howを考えるというものです。このような構造のアクションシートを作成した目的は通常の事例検討ではWhatとHowだけを扱うことになりやすいため、Whyを扱うことでSDHの知識や興味がない人にも問題の上流に視点を向けてもらい陰性感情のコントロールやHowを考える視野の拡がりに気づいてもらうことにあります。
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SVSを活用したワークショップの紹介

次にこれまで行ってきた社会的バイタルサインとアクションシートの教育実践を紹介します。

前述したように私たちは第8回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会からSVSとアクションシートを活用したワークショップやインタラクティブセッションを開催してきました。ワークショップではSDHとSVSについてレクチャーを行ったあとで、実際の事例をもとにした事例提示を行いその情報をもとにアクションシートの「What」、「Why」、「Patient preference/values」を埋めて「How」を考えるというワークを行います。ワークショップの時間ではすべての空欄を埋めることはむずかしいため、事例によってとくにポイントになる項目をHEALTHのなかから1〜2項目選びワークを行ってもらいます。

第10回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会インタラクティブセッションで紹介した事例のまとめ(図1)と事例について記入したアクションシート(表2)をご覧ください。
これまでの取り組みは“Journal of General and Family Medicine"にLetterとして報告し、資料はTeam SAILが運営するウェブページに掲載していますのでさらに詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
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おわりに

今回は社会的バイタルサイン(SVS)の解説とワークショップでの実践を紹介しました。2014年の“New England Journal of Medicine"にSDHと社会歴の重要性を改めて強調する論文が掲載され、国内では『医学教育モデル・コア・カリキュラム平成28年度改訂版』でSDHが初めて学修目標に入るなどSDHの重要性の認識が高まっていることを実感できる一方で、診療や教育での実践に落とし込む枠組みはまだまだ少ないという現状があります。SVSがその一助となるようにこれからも取り組んでいきます。次回は診療での実践を紹介しますのでぜひご覧ください。

プロフィール

大矢 亮
耳原総合病院救急総合診療科

略歴
2004年長崎大学医学部卒業し耳原総合病院で初期研修開始。2006年に名古屋総合診療部(当時)で総合診療と医学教育に触れ、以降総合診療と研修医教育を生業としてきた。ディープな堺で地域医療を実践する中でヘルスプロモーションやSDHに興味を持つようになり、2015年日本HPH(Health Promoting Hospitals and Health services)ネットワーク運営委員を背景し2018年にはプライマリ・ケア連合学会健康の社会的決定要因検討委員会に加えていただいた。多くの刺激の中で学びを深め実践への落とし込みを企んでいる。
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最終更新:2023年04月27日 11時56分

実践誌編集委員会

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