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プライマリ・ケア Field LIVE!

Vol.01/「患者さんの‟どう生きたいか“に寄り添う家庭医とは」医師 朴大昊(ぱくてほ)先生

兵庫県南部に位置する加古川市。ここに家庭医療専門医がいるクリニックとして、2021年5月に開院した医療法人アスクラス家庭医療の会「加古川ファミリークリニック」。院長の朴大昊(ぱく てほ)先生は、過去に石垣島から高速船で1時間、日本最南端にある診療所「沖縄県立八重山病院附属波照間診療所」で離島医療にも携わられたドクターだ。今回、まだまだ広く知られていない家庭医療専門医の領域や、地域医療で担う役割など、朴先生に詳しく話を伺ってみました。

患者さんが歩んだ人生や価値観が最大のエビデンス

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- 朴先生が家庭医を目指されたきっかけは?

もともと特に医者になりたいとか、家庭医を目指すぞ!と思っていたわけではなかったんですよ。
中学生の頃から漠然と、国際的な人道援助やあまりにも恵まれない環境に置かれている人たちを何とかできないものかと興味があって。

学生時代はスイス・ジュネーブのWHO本部と、アフリカのNGOをインターンシップ先に選びましたが、そのときに医療とひとくくりに言っても、世界レベルで国や地域の医療制度や仕組みを考えるマクロな視点と、あるひとつの村や集団、家族レベルで医療を施すミクロその後、研修先を選ぶときに沖縄の離島の話があって、患者さんと対峙しながらひとつの集団=島の健康を考えるという働き方が面白そう!と思い、それが家庭医のコースだったのでそのまま入ることになりました。

- 沖縄離島での研修はいかがでしたか?

島にひとりだけの医者になるので、逃げ場がないという環境であるのは間違いないのです。
島あるあるじゃないですけど、例えば脱臼の整復ができない医者が来たら一大事で、当たり前ですがオールマイティな診療が求められます。でも、仮に患者さんが急変したとしても、その方がどんな人でどんな家族構成で、残りの人生をどう生きたいか、どう最期を迎えたいかを知っていれば、施す医療や治療は決まっているので、どうしようかと迷ったり怖いと思ったことはなかったですね。

あとは、ご年配の患者さんの中には、本島に移って治療しませんか?と提案しても、家へのこだわりや地元への愛着心がとても強くて、島から出たくない、絶対島で死にたいとおっしゃるケースも多くあって。家庭医として島で暮らす方々の生活に触れ、文化・伝統、価値観の中で患者さんを診れたという経験はとても貴重なものになりました。

- 研修期間を通じて印象に残った出来事はありますか?

いっぱいありますが、沖縄での研修後に着任した鳥取で指導医と一緒にある在宅患者さんに往診したことが今でも特に印象に残っています。そこは末期がんの奥さんと目の見えない旦那さんの二人暮らしのご家庭で、目も当てられないほど家の中が荒れ果てていたんです。看護師さんが「もうこれは限界ですね」ってつぶやいたときに、指導医が「何が限界なの?」っておっしゃって…
 
家で最期を迎えたい、ずっと夫婦で暮らしたいって言っているふたりにとって、
 家の中がぐちゃぐちゃだから引き離すのがベターな選択なの?
 それでふたりが良くなるの? って。
 
家庭医とは?を説明するならば、このことはとても象徴的で、世の中の当たり前や医学的な正論をそのまま患者さんに当てはめてしまうのではなく、患者さんの人生や生き方にとって何が大切かを理解し、医学的な知識を用いてアプローチをするのが家庭医の基本的な姿勢だと語れる出来事だったと思います。

- プライマリ・ケアの現場は、非常に哲学的な要素を含みますね。

プライマリ・ケアの現場での考え方は、医学的にベターなことがその患者さんの人生にとってベターなことだとは限らないということです。家庭医の役割は、医学的なエビデンスを知ったうえで、目の前の患者さんが大切にしていること、希望する生き方を考えたうえでよりベストな医療を模索することにあります。

そもそも、シンプルな高血圧の患者さんっていないと思うんです。社会背景や生活背景、その患者さんの価値観などいろんなものが組み合わさった結果の高血圧で、その患者さんが高血圧に対してどう考えるのかによってもアプローチが変わってきます。

そういった意味でも、家庭医の診療はひとりの患者さんに対する時間とパワーが必要ですし、数値に表すことができないものが多くあります。

- 家庭医には人間力みたいなスキルも求められますね。

診察しているときに「死にたい」っておっしゃる患者さんもいらっしゃいますが、本当に死にたいと思っている方はほとんどいません。家庭医の診察ではそんな患者さんの「死ぬほど辛い」という気持ちや状況を理解する必要がります。そこには色んな要素が絡み合っていて、どんな日常を送っているのか、これまで大切にしてきたことは何か、病気やケガにより何が失われて途方に暮れているのか、本当はどうしたいのか… 患者さんから発せられる言葉がすべてではない、そういった意味では、洞察力や気持ちを引き出すコミュニケーション力はあればあるほどいいと思います。

- 家庭医をされていて辛い、嫌だと思ったことは?

そうですね…笑 色んな患者さんの想いをシェアしているので、心労は溜まりやすいかもしれないです。でも、嫌だと思ったことはないですね。むしろ、患者さんの想いをシェアしていたいので、それがやりがいだとも言えます。むしろ私の場合、沖縄から鳥取に移ったときに、知らない患者さんが救急搬送されるととてもドキドキしましたし、ある意味ストレスだったかもしれないです。私にとって患者さんの人となりや価値観、ご家族などを知らずに診察・治療するということは、ほかの専門医でいうところのCTなど検査機械がない環境で診察・治療するのと同じことのような気がします。

地域のお医者さんとして2021年5月に「ファミリークリニック加古川」を開業

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- ファミリークリニックとして開業された理由は?

仲間を集めて理想とする家庭医療が行える場所を、できれば民間で自由な環境・働き方で作りたいと思っていました。私の地元は兵庫県・宝塚市で、そこでの開業も考えましたが、どうしてもビルの一角で限られた場所しかなく、どうしようかと考えていた時にここで開業する機会に恵まれて。もともと内科の先生が家庭医的なスタンスで診療されていた場所で、3つの診察室があり駐車場も広くて、保険診療以外のこともできるようなスペースがあったことも魅力に感じてこの場所で開業することを決めました。
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- 開業されてみて、理想と現実みたいなところはありますか?

現状、まだまだ勉強中ですが、やはり地域によって医療に対する課題が大きく違うので、まずはそれを探り、どういった役割が担える・求められているのかが分かってきた感じです。地方都市になればなるほど、医療体制としての強み・弱みがはっきりしていて、家庭医はその隙間を埋める役割を求められがちなのですが、地域の課題でもある医療現場の弱みを穴埋めしていく中で見えてくることがたくさんあります。

また、患者さんと対峙していくうちに、『あそこの病院は色んなことを診てくれる』と認知してもらえるようになり、子どもから高齢者までさまざまな症状を抱えた方たちが当院に足を運んでくださるようにもなりました。やっと足場が固まってきたので、これからは「医療法人アスクラス家庭医療の会」の家庭医療としてやってみたかったことにどんどんチャレンジしていこうと思っています。

- 朴先生にとって地域における家庭医とは?

車のエンジニアで例えるなら、循環器内科はエンジンのプロフェッショナルで、消化器内科はブレーキのプロフェッショナル。その中で家庭医の役割はオールマイティに車をリペアできるエンジニアと言えるのではないかと思います。車が目的地まで安全にできるだけ楽しく進めることが一番の目的であり、時にデコボコ道を平らにすることや、いい景色が見られるように木を植えることが役割になる場合もあると思います。そういった意味で、家庭医とは医師という知識やスキルを使って、地域の人がより暮らしやすく幸せな社会を作る人みたいなイメージです。

これからの社会に必要不可欠な診療科目

- プライマリ・ケア連合学会ではどのような活動を?

沖縄にいたころは物理的な問題もあって、なかなか学会に参加することができませんでしたが、鳥取に移ってからはそれまで閉じ込められていた家庭医というものへの思いが実際にはどうなのか見てみたいという衝動に駆られて、全国のクリニックを見学したり勉強会に参加するようになりました。それがきっかけで様ざまな活動をされている先生たちと知り合うことができましたし、沖縄で経験したことの答え合わせをしながら、自分の幅を広げることができました。また、家庭医の現場では、地域によってその土地の文化や価値観、風習にも大きく関わるので、事例やノウハウの共有の場としても重要や役割を担っていると思います。

- 今後、日本プライマリ・ケア連合学会を通して、目指されたいことは?

総合診療医・家庭医は、まだまだ世の中に広く認知されていない分野でもあるので、プライマリ・ケアとしてどんな未来を描いていきたいのか、どんな社会を理想とするのかを発信し、患者さんやこれから医師を目指す人も含めた医療従事者、他の学会にも理解を深めてもらう努力が必要だと感じています。特に日本がこれから直面する超高齢化社会、在宅医療へのシフト、家族が抱える介護問題などはすでにわかっている問題であり、今の医療体制や診療科目の枠組みだけではまかなえない多くの課題があります。医療を通じて社会全体が幸せになる世の中を実現するためにも、他の学会とも議論しながら連携できる仕組みを作っていきたいですね。

プロフィール

医療法人アスクラス家庭医療の会
ファミリークリニック加古川
理事長・院長 朴大昊(ぱく てほ)
~プロフィール~
2004年~ 鳥取大学医学部医学科
2010年~ 沖縄県立中部病院
2013年~ 沖縄県立八重山病院附属波照間診療所
2015年~ 鳥取大学医学部地域医療学講座 助教
2019年~ 大山町国民健康保険大山診療所
2021年~ 医療法人アスクラス家庭医療の会 設立
2021年5月ファミリークリニック加古川を兵庫県加古川市に開院

日本プライマリ・ケア連合学会 会員
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取材後記~これからの時代を健やかに生きる一筋の光~

家庭医療専門医について朴先生にお話を聞くにつれ感じたことは、「自分らしく死ねる時代がくるかもしれない」という喜びだった。人は誰しも必ず歳を重ね老い死を迎える。一生シングルで過ごす人や子どもを持たない人など生き方が多様化しているにも関わらず、これからの日本は老いや最期の迎え方をパターン化せざるを得ない局面を迎えている。そんなちょっと先の未来に漠然とした不安や恐怖を感じている人も多いのではないだろうか。でも、本当に自分の意志や価値観をもって老い最期を迎えられる未来が来るのなら…きっともっと今を明るく健やかに生きることができる。
家庭医療専門医とは、閉塞感が漂う日本社会全体に差し込む一筋の光なのだと感じた。

最終更新:2022年03月01日 22時21分

「もっとプライマリ・ケア」 編集担当

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「もっとプライマリ・ケア」 編集担当

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