ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!vol.35 /「プライマリ・ケアの学びを現場で活かすことで、患者さんからの大きな信頼を獲得」【薬剤師】牟田吉寛先生
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vol.35 /「プライマリ・ケアの学びを現場で活かすことで、患者さんからの大きな信頼を獲得」【薬剤師】牟田吉寛先生
長崎市の「みかん薬局」の管理薬剤師として日々患者さんに接している牟田吉寛先生。2016年にはプライマリ・ケア認定薬剤師の資格を取得しました。プライマリ・ケアから得た学びを現場に反映させることで多くの患者さんから信頼を得る一方、後進の育成にも尽力されています。そんな牟田先生からこれまでの歩みや薬剤師としての思いなどをさまざまにうかがいました。
「薬剤師としての責任感」を実習で学ぶ
― まずは先生が薬剤師になろうと思ったきっかけから教えていただけますか?
これは単純な話で、親が2人とも薬剤師だったからです(笑)。私は北海道で生まれたのですが、そのあとすぐ長崎に移りました。その長崎の実家は大正時代から続く薬局を経営していて、私は長男ということもあって後を継ぐつもりでいました。でも、私が大学に入る直前に閉局してしまったんですね。それで私も大学卒業後は一般的な調剤薬局に勤務することにしました。薬剤師としてどのような働き方をしたいかということは、最初はあまり具体的なイメージを抱いていなかったんです。両親の仕事ぶりから地域密着型というイメージはなんとなく持っていたんですけど、具体性はともなわなかったんですね。
それが明確になったのが病院実習を受けた時です。実習先の「手稲渓仁会病院」で大いに刺激を受けました。
私を担当してくださった薬剤師の方が非常に強い責任感を持っていて、例えば検査値をもとに医師に処方提案をしたりということをしていました。薬剤師としてそういうことができるなら、この仕事は面白いだろうなと思いました。それがもう20年くらい前の話ですから、当時の刺激は大きかったですね。
それが明確になったのが病院実習を受けた時です。実習先の「手稲渓仁会病院」で大いに刺激を受けました。
私を担当してくださった薬剤師の方が非常に強い責任感を持っていて、例えば検査値をもとに医師に処方提案をしたりということをしていました。薬剤師としてそういうことができるなら、この仕事は面白いだろうなと思いました。それがもう20年くらい前の話ですから、当時の刺激は大きかったですね。
― 卒業後は地元の長崎に戻られました。
はい。大学は北海道だったんですが、長崎に戻って普通に新人の薬剤師として調剤薬局に入りました。ここで働く一方で、夜間だけやっている急患専用の薬局にも勉強のために行ったりしていましたね。全然知らない薬剤師の方たちと現場を動かしていくわけですが、経験が浅いうちはわからないことだらけなので、もう必死でした。そうした先輩薬剤師の方々の仕事ぶりを懸命にメモしたり(笑)。その意味ではけっこう「生きた勉強」をさせていただいたと思っています。
また、本来勤務していた調剤薬局ですが、3年目くらいから同じ系列の病院に出向という形で勤務するようになりました。「上戸町病院」というところですが、ここでいわゆる病院薬剤師となったわけです。ここでもいろいろと勉強させていただきましたが、一番大きかったのは「疾患自体について知識を持っておくことの大切さ」に気づけたことですね。薬剤師の勉強というと、どうしても新しい薬に関して知識のアップデートをするという風になりがちなんですが、それだけでは薬の話しかできない薬剤師になるんですよね。それだと目の前にいる患者さんにしっかり対応できなくなると私は思っています。
また、本来勤務していた調剤薬局ですが、3年目くらいから同じ系列の病院に出向という形で勤務するようになりました。「上戸町病院」というところですが、ここでいわゆる病院薬剤師となったわけです。ここでもいろいろと勉強させていただきましたが、一番大きかったのは「疾患自体について知識を持っておくことの大切さ」に気づけたことですね。薬剤師の勉強というと、どうしても新しい薬に関して知識のアップデートをするという風になりがちなんですが、それだけでは薬の話しかできない薬剤師になるんですよね。それだと目の前にいる患者さんにしっかり対応できなくなると私は思っています。
「この人たちの仲間になりたい」との思いから学会へ
― そういう考えもあって、プライマリ・ケア認定薬剤師の資格を取られたのでしょうか?
それももちろんありますが、病院のほうでも「これからはプライマリ・ケアに力を入れていく」という方針を立てたことも理由としてはあげられますね。また、仲の良かった内科の先生がプライマリ・ケアの指導医で、もともと興味を持っていたということもありました。それで認定薬剤師の資格を取得したわけです。2016年のことですね。
余談になりますが、私が日本プライマリ・ケア連合学会に入ったのは認定薬剤師になったあとのことなんですね。つまり、学会員ではないのに資格を取れたわけです。他の学会ではまず会員にならないとこうした認定資格は取れないので、日本プライマリ・ケア連合学会は鷹揚なところだなと思いました(笑)。
余談になりますが、私が日本プライマリ・ケア連合学会に入ったのは認定薬剤師になったあとのことなんですね。つまり、学会員ではないのに資格を取れたわけです。他の学会ではまず会員にならないとこうした認定資格は取れないので、日本プライマリ・ケア連合学会は鷹揚なところだなと思いました(笑)。
― プライマリ・ケア認定薬剤師になるためのセミナーで印象に残っていることはありますか?
南郷栄秀先生の「EBM:Evidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)」に関するセミナーで、これがけっこう衝撃的でした。というのも私は自分でもそれなりに勉強しているという自負がありまして、プライマリ・ケア認定薬剤師に関しても「ぱぱっと取ってくるか」という感じだったんです(笑)。でも実際に受講してみて「これは生半可な態度じゃついていけないぞ」と思うようになり、それからかなり本腰を入れて勉強するようになりました。
一つには医師の方たちと一緒に受講したことが大きかったといえます。日本プライマリ・ケア連合学会ではこうしたセミナーに関して「医師も薬剤師も一緒に学んだほうがいい」というスタンスをとってるみたいなんですね。だから「医師の人たちってこんな深いところまで勉強しているのか」との驚きがありました。医師へのリスペクトが上がったと言えば苦笑いされそうですが(笑)、しっかり勉強しないとこの人たちに追いつけないと思いましたね。なにしろ論文をたくさん読まれています。
一つには医師の方たちと一緒に受講したことが大きかったといえます。日本プライマリ・ケア連合学会ではこうしたセミナーに関して「医師も薬剤師も一緒に学んだほうがいい」というスタンスをとってるみたいなんですね。だから「医師の人たちってこんな深いところまで勉強しているのか」との驚きがありました。医師へのリスペクトが上がったと言えば苦笑いされそうですが(笑)、しっかり勉強しないとこの人たちに追いつけないと思いましたね。なにしろ論文をたくさん読まれています。
そもそも薬剤師は勉強するにしても実践的なことが中心になって、論文を読むことはほとんどないんですね。少なくとも私の知る限りではそうでした。EBMを学んで学問上の考えを現場に落とし込み、そしてそれにとらわれることなく対応していくやり方にインパクトを受けました。医師の視点を知ることで世界観が広がったと言っていいでしょうね。
日本プライマリ・ケア連合学会に所属されている先生方や講習を自ら受けに来る先生方は、意欲のレベルがやはり違うんですよね。私が本気で勉強に取り組んだのは「この人たちの仲間になりたい」との思いが湧いてきたからでした。
日本プライマリ・ケア連合学会に所属されている先生方や講習を自ら受けに来る先生方は、意欲のレベルがやはり違うんですよね。私が本気で勉強に取り組んだのは「この人たちの仲間になりたい」との思いが湧いてきたからでした。
根拠を示して説明すると患者さんも安心
― プライマリ・ケアを通じて学んだことを現場でどう活かしてらっしゃいますか?
一番大きいのは患者さんへの説明がより科学的になるということですね。エビデンスに基づいて薬のことを伝えることができるようになりました。例えば、医師がどのような意図で薬の処方を出したのかがわかるので「この薬はこれこれこういう理由で飲み続けることが大切です」と言えるようになるわけです。
患者さんのなかには「どうしていつまでもこの薬を飲み続けなければならないんだろう?もう良くなっているのに」と思う方もいらっしゃいます。ときには「薬をいっぱい出して儲けようと思ってるんじゃない?」とか(笑)。それに対してきちんと根拠を示して説明すると患者さんも「ああ、そうなんですか」納得して服用してくれるんですね。
患者さんのなかには「どうしていつまでもこの薬を飲み続けなければならないんだろう?もう良くなっているのに」と思う方もいらっしゃいます。ときには「薬をいっぱい出して儲けようと思ってるんじゃない?」とか(笑)。それに対してきちんと根拠を示して説明すると患者さんも「ああ、そうなんですか」納得して服用してくれるんですね。
また、私はお薬を出した患者さんが再度来られたときには「体調はどうですか?」といった曖昧な質問はしないことにしています。処方した薬を服用して副作用はなかったか、きちんと服用しているかどうかといったことを確認します。これは薬剤師的なアプローチと言えますね。そもそも「体調はどうですか?」と聞かれても、患者さんはどう答えていいか戸惑うと思うんですよね(笑)。
― 先生は後進の育成にも注力されていらっしゃいますね。
主に女性の薬剤師を対象に勉強会を実施しています。これはいまの会社に転職してくる際に経営者から頼まれたことなんです。「女性は家事や育児のこともあって、外部の勉強会に行きづらい状況がある。だから社内で勉強会を行いたい。それに力を貸してほしい」ということで、現在も続けています。
彼女たちに話を聞くと、やはり服薬指導の面で困ることが多いとのことでした。それで勉強会では先ほども言ったような、エビデンスに基づいてしっかりと説明ができるようになる知識なりスキルなりを伝えることをメインにしています。それに加えて、患者さんのお話をしっかりと聞くことですね。とは言え、聞いても意味のない質問をするのではなく、患者さんの状態を把握するために薬剤師という立場から目的を持って質問をすることを意識するよう働きかけていますね。
彼女たちに話を聞くと、やはり服薬指導の面で困ることが多いとのことでした。それで勉強会では先ほども言ったような、エビデンスに基づいてしっかりと説明ができるようになる知識なりスキルなりを伝えることをメインにしています。それに加えて、患者さんのお話をしっかりと聞くことですね。とは言え、聞いても意味のない質問をするのではなく、患者さんの状態を把握するために薬剤師という立場から目的を持って質問をすることを意識するよう働きかけていますね。
― 今後取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
一つには患者さんの医療リテラシーをあげていきたいとの思いがあります。日本の患者さんは言われるままに医療を受けているイメージがどうしても強いので、そこはもう少し自分で考えて判断する力を持った方がいいのかなと思っています。例えば自身の疾患についてもっとよく知るようにしたり、薬の正しい使い方を知ったりということですね。これはプライマリ・ケアに関わるようになってからより強く思うようになりましたね。
また、最近私は日本プライマリ・ケア連合学会長崎支部の世話人になったのですが、長崎県では薬剤師としては初めてなんだそうです。そういうこともあり、プライマリ・ケアに関わる薬剤師を増やしていきたいとの思いも持っています。同時に、若い薬剤師の育成にもいま以上に力を入れていきたいですね。やりたいことがたくさんあって日々忙しく過ごしていますが、そのほうが私の性格に合っているようです。
プロフィール
みかん薬局 (長崎県長崎市)
【薬剤師】牟田吉寛先生
(経歴)
北海道歌志内市出身 / 北海道薬科大学(現北海道科学大学)卒
2008年 長崎健康企画 たんぽぽ薬局 勤務
2014年 健友会 上戸町病院 勤務(2016年より主査)
2018年 株式会社ONEDERS アイビー薬局 勤務
2020年 株式会社SANATIO 取締役 / みかん薬局 管理薬剤師
(資格)
プライマリ・ケア認定薬剤師
認定実務実習指導薬剤師
(所属学会・団体等)
日本プライマリ・ケア連合学会
日本薬剤師会
長崎県薬剤師会 医薬分業対策委員会・地域保健委員会
長崎市薬剤師会 生涯学習委員会・災害特別委員会
【薬剤師】牟田吉寛先生
(経歴)
北海道歌志内市出身 / 北海道薬科大学(現北海道科学大学)卒
2008年 長崎健康企画 たんぽぽ薬局 勤務
2014年 健友会 上戸町病院 勤務(2016年より主査)
2018年 株式会社ONEDERS アイビー薬局 勤務
2020年 株式会社SANATIO 取締役 / みかん薬局 管理薬剤師
(資格)
プライマリ・ケア認定薬剤師
認定実務実習指導薬剤師
(所属学会・団体等)
日本プライマリ・ケア連合学会
日本薬剤師会
長崎県薬剤師会 医薬分業対策委員会・地域保健委員会
長崎市薬剤師会 生涯学習委員会・災害特別委員会
取材後記取材後記
牟田先生が勤務する薬局では先生を指名して来局する患者さんが10人以上いるという。それだけ薬剤師として高い信頼を得ていることの何よりの証左だと言えるだろう。ただ、牟田先生としてはそうした現状に甘んじる気持ちはないとのことだ。「人間いつ何があるかわかりませんからね。私がいなくなっても同じ水準の対応ができる体制を整えておくのは当然だと思っています」。若い薬剤師の育成に力を注ぐのは、そういった意図もある。インタビューからも伝わったはずだが、牟田先生は勉強熱心なタイプ。その勉強から得た知識・スキルを「自分だけが持っていても仕方ない」と惜しみなく後進の育成に活用しているわけである。それはベテラン薬剤師のあるべき姿の一つと言えるだろう。今後の牟田先生の活躍に大いに期待したいところだ。
最終更新:2024年06月03日 15時10分