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【熱中症対策 特別寄稿】第2部:熱中症とは何か?そして、リスクの高い人たちとは

前回の振り返り

第1部では,2025年6月に義務化された熱中症対策の概要と,その背景にある死傷者数の増加について紹介しました.今回は,そもそも熱中症とは何か,そしてどのような人や環境がリスクが高いのかを整理します.

そもそも熱中症とは

高温多湿な環境下において,体内の水分と塩分のバランスが崩れたり,体内の調整機能が破綻するなどして発症する障害を総称して「熱中症」といいます.

熱中症の症状と重症度分類は以下(図1)のとおりです.

熱中症ガイドライン2024では,これまでⅢ度(2015)としてきた重症群の中に,さらに注意を要する最重症群があり,この最重症群を「Ⅳ度」として同定し,集学的治療を早急に開始することを提唱することとしています.また,表面体温だけでも迅速に対応するきっかけとなるようなqⅣ度も併せて提唱しています.
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    図1:熱中症診療ガイドライン2024より

どのような人が熱中症になりやすいのか

職場における熱中症は,暑熱環境で身体活動強度の高い中高年男性に多発します.

2024 年の死傷者数 1,257 人について,業種別にみると,製造業が 235 人,建設業が 228 人の順で多くなっています.死亡者数については,31 人のうち建設業が 10 人と最も多く発生しており,次いで,製造業が5人となっています(厚生労働省発表資料より).ところが2020年から2024年の集計では,農業や林業など一次産業の従事者は,業種別死傷者数こそ比較的少ないものの,農業では死傷者数総数に対する死亡者数割合は,最も死傷者数の多い建設業5.6%に比べ9.2%と高く,発症すると重症化しやすいことがうかがえます.一般に,国内の農業は小規模事業が多く産業医へのアクセスは困難です.このような患者さんに対する予防的アプローチこそ,プライマリ・ケア医の腕の見せ所です.
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    図2:厚生労働省「2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」より
年齢別にみると,50 歳代以上が死傷者数の約 56%を,死亡者数の約 67%を占めています(図3).一般に高齢者は,身体機能の低下等の影響により,熱中症を発症するリスクが高いことから,死亡災害に至る割合が高くなっていることが考えられます.

また,死亡災害31件のうち,糖尿病,高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有している事が明らかな事例は 21 件でした.
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    図3:厚生労働省「2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」より

どのような状況が危険なのか

熱中症は,急に蒸し暑くなった日に多発します.それは暑熱順化(慣れ)が生じにくいためです.発汗が7日程度続かないと順化が生じにくいとされています.そのため,7日以上かけて暑熱環境での身体的負荷を増やし,作業時間を調整し次第に長くすることが必要です.

このような背景を踏まえ,外来での診察では,患者の職種・年齢・既往歴などに注意を払いながら,個別の助言や予防指導を行うことが求められます.プライマリ・ケア医の気づきが,重大な事態を未然に防ぐ鍵となります.


文責:予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム 山本真輝
(豊田地域医療センター 総合診療科/トヨタ自動車株式会社 産業医)

参考文献

以下の参考文献は主に事業者や産業医向けの資料ですが,外来等の日常診療場面でもぜひ活用してください.特に厚生労働省は独自のリーフレットを作成しており,印刷して手渡すなども効果的かもしれません.

●      職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日付け基発0420第3号)

●      令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱

●      熱中症診療ガイドライン2024

●      厚生労働省「働く人のいますぐ使える熱中症ガイド」

●      労働衛生のしおり 令和6年度

●      産業医の職務Q&A 第11版

最終更新:2025年06月16日 00時00分

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

記事の投稿者

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

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