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【熱中症対策 特別寄稿】第3部:診察室で伝えるべきことと、現場でできる具体策

前回の振り返り

第2部では,熱中症の定義や重症度分類,そして高リスク群について解説しました.今回は,診察室での伝え方や現場での対策についてご紹介します.

プレクーリングを活用しよう

作業前に深部体温を下げることで,作業中の体温上昇を遅らせる「プレクーリング」が有効とされています.プレクーリングには体外冷却法と体内冷却法があります.体外冷却法の代表的なものは冷却服の着用や冷風の使用などですが,筋代謝活性が低下してしまうというデメリットがあります.他方,体内冷却法であるアイススラリーや冷水の摂取は,筋代謝活性を維持し,皮膚等の温度感覚器が正常活動を行えるというメリットがあります.

 アイススラリーとは,細かい氷の粒子が液体に分散した状態の飲料で,流動性が高いことから通常の氷よりも体の内部を効率よく冷やすといわれています.

参考文献:
Tabuchi S, et al, Efficacy of ice slurry and carbohydrate–electrolyte solutions for Firefighters. J Occup Health. 2021;63(1) :e12263.
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-1325-1.jpg
    厚生労働省Youtubeチャンネル【職場における熱中症予防】6.プレクーリング https://www.youtube.com/watch?v=BPJIpCnHqHc より(最終閲覧:2025/06/03)

作業中止基準を知ろう

「職場における熱中症予防基本対策要綱」が示す熱中症予防対策の作業中止基準は以下の通りです.

●      心拍数が数分間継続して180/分から年齢を引いた値を超える場合

●      作業強度のピーク1分後の心拍数が120を超える場合

●      体重が作業前から1.5%超減少した場合

●      急激で激しい疲労感,悪心,めまい,意識消失等の症状が発現した場合

 これらの作業中止基準は,現場での安全確保に直結する重要な指標です.日常診療の中で労働環境や作業強度について問診し,これらの基準を患者と共有することは,熱中症予防の一助となります.

緊急時の対応を伝えよう

職場では以下のような対応が求められます.

●      風通しの良い日陰に移動させ,経口補水液を摂取する

●      体表面を水で濡らして,冷風を送ることで蒸散冷却を図る

●      意識がない,自力で飲料水を摂取できない,症状が改善しないといった場合は,直ちに救急搬送する.被災者を一人にしない.

 患者が緊急時の正しい対応を理解しているか,職場の仲間と共有できているかを診察時に確認することは,実際の現場での適切な行動につながります.

外来での患者指導のポイント

●      2025年6月から職場の熱中症対策が義務化された.その背景には死傷者数の増加がある.

●      ①製造業や建設業といった職場,②50歳以上の年齢,③糖尿病,高血圧症などの既往 は,熱中症による死傷者発生の高リスクである.

●      喉の渇きの有無に関わらず,作業前後・作業中の定期的な水分・塩分摂取を行う.特にアイススラリーは有効である.

●      尿の回数が少ないまたは尿の色が普段より濃い状態は,水分が不足している可能性がある.

●      熱中症は,急に蒸し暑くなった日に多発する.

●      朝食の未摂取,睡眠不足,多量の飲酒,体調不良等が熱中症の発症に影響を与える恐れがある.

●      暑熱環境下における作業強度のピーク1分後も動悸が治らない場合,作業中止を検討する.

●      農業従事者は熱中症が重症化する傾向があり,日常の作業において熱中症対策を啓発し具体的に伝えていくことが大切.

診察室での伝え方の工夫

以下に,シーンごとの声かけ例を提示させていただきます.

シーン①:高血圧・糖尿病がある患者

「この時期は熱中症が重症化しやすいので、仕事中の水分補給と休憩を意識してくださいね」

シーン②:建設・製造業勤務を確認した場合

「職場の暑さ指数が28℃超える日は特に注意してください。症状があれば早めに休むのが大事です」

シーン③:疲労・めまいなどを訴える患者

「それ、熱中症の初期症状かもしれません。この時期は室内でも油断禁物です」

シーン④:家族が高齢・持病持ち

「ご家族にも熱中症対策を共有してあげてください。冷房の使用や水分摂取の習慣も重要です」

参考文献

以下の参考文献は主に事業者や産業医向けの資料ですが,外来等の日常診療場面でもぜひ活用してください.特に厚生労働省は独自のリーフレットを作成しており,印刷して手渡すなども効果的かもしれません.

●      職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日付け基発0420第3号)

●      令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱

●      熱中症診療ガイドライン2024

●      厚生労働省「働く人のいますぐ使える熱中症ガイド」

●      労働衛生のしおり 令和6年度

●      産業医の職務Q&A 第11版

●      厚生労働省Youtubeチャンネル【職場における熱中症予防】6.プレクーリングhttps://www.youtube.com/watch?v=BPJIpCnHqHc (最終閲覧:2025/06/03)

●      Tabuchi S, et al, Efficacy of ice slurry and carbohydrate–electrolyte solutions for Firefighters. J Occup Health. 2021;63(1) :e12263.

おわりに

いかがでしたでしょうか?「働く世代のかかりつけ医」として,熱中症による死傷者を減らせるようにぜひ取り組んでいただきたいと思います.


文責:予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム 山本真輝
(豊田地域医療センター 総合診療科/トヨタ自動車株式会社 産業医)

最終更新:2025年06月23日 00時00分

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