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【地域で活躍する看護師紹介⑮】悠翔会訪問看護ステーション東京 椎名美貴さん編

プライマリ・ケア領域で活躍する看護師を知っていますか?
シリーズでお伝えする【地域で活躍する看護師紹介】。
今回は、悠翔会訪問看護ステーション東京の椎名美貴さんの活動を紹介します。

Q.どのようなプライマリ・ケアの場で働いていますか?

私は、都心部を中心に21の訪問診療を展開する医療法人悠翔会で、訪問看護をしています。
本医療法人は、18年間、都心部での在宅診療を中心に実践してきた医師中心の事業展開を基軸に、本部には訪問歯科診療・訪問リハビリ・訪問在宅栄養などの多職種連携ができる環境があります。
また、21拠点ある診療所の75%にはソーシャルワーカーも在籍しています。
終末期や退院直後の方、難病の方、褥瘡がある方、急な体調の変化が生じやすい方、社会課題をもつ方など、7割程度が医療保険での訪問対象です。
年末年始も含め土日祝も定期訪問をしています。
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    悠翔会訪問看護ステーション東京のメンバー

都心部におけるプライマリ・ケアの特徴

本法人の訪問看護ステーションは、新宿区・港区エリア(新宿・千代田・渋谷・港区・中央区)にあり、人口の自然減少(出生数と死亡数の差:2019年―333人)と社会増加(流入数と流出数の差:2019年+3008人)がおこり外国人人口割合(2019年12.4%)の大きい地域です。
また、単身世帯64.9%(2015年)、高齢独居33.4%(2015年)の比率も高くなっています。
高齢化率20.1%、高齢世帯35%を占めています(新宿区人口ビジョンR3年1月)。

おひとりで過ごす高齢者の増加は、身近に頼る先のない方が増加していることでもあります。
体調不良や生活の不安を自助・共助で乗り越えられない、または対応できないことで、軽症であっても救急車の要請が必要となり、地域の救急車での搬送件数の増加を招いています。

本地域には、中規模以上の入院医療機関と専門病院が多く、都内外から通院・入院加療をされる方も多いです。
通院先は臓器別・疾患別であり、担当医もたくさんいます。
新宿区の2024年の病院病床数は5,543床で、東京都内5位、日本全国では44位と高く(厚労省 医療施設実態調査R5年5月)、社会的な入院(様々な要因で入院をせざるを得ない状況)や軽症者の入院も多いように感じます。

私の事業所のある新宿区の在宅診療所53か所(全国平均15か所)、訪問看護ステーション66か所(東京都と在宅医療の量の面での充足されつつある地域でもあります。
在宅医療提供機関が多いことで、「替えの利くサービス」という認識も持っている方も一定数いらっしゃる印象です。
サービスの開始時には、複数の医療機関が主治医となっていたり、薬が重複して処方されていたり、治療のかじ取り役が不在であったり、救急搬送先や入院先の病院が居住場所から遠方であるといった課題が生じやすい状況にあります。
また、ADLの変化や急に介護保険、訪問医療や看護の利用が必要となったときに、病院が退院支援を行うには、地域資源が見えにくい環境でもあります。

Q.プライマリ・ケア領域でどのような看護実践をされてきたか教えてください。

私は、14年の看護師経験のうち、プライマリ・ケア領域では10年目になります。
そのほとんどを同一法人の訪問診療への同行や訪問看護ステーションで働いてきました。
訪問診療と訪問看護が同時に依頼されることが多く、医学管理の必要ながんの終末期、神経難病、重度褥瘡の管理等を担っています。
地域の拠点病院の連携室の方との顔の見える関係性を主軸にして、退院のめどが立てば、退院カンファレンスをして自宅に戻る…という流れでお受け入れしてきました。

本法人に転職してからは、精神科訪問看護算定研修、在宅褥瘡管理者(一般社団法人日本褥瘡学会 在宅患者訪問褥瘡管理指導料算定に係る「在宅褥瘡管理者」の認定資格)、難病看護師(一般社団法人日本難病看護学会 認定資格)などを学び、2018年には看護師特定行為研修を終了して、術後早期のドレーン留置のままの患者さんのお受け入れ、呼吸器導入直後の神経難病患者さんの自宅管理にも対応してきました。
このころは「重症な患者さんでも自宅で過ごせる!」という自負のようなものもありました。

しかし、様々な社会統計を見ると、自宅で最期まで過ごしたいと望む住民が8割いながらも、実際は6-7割以上の住民は病院で最期を迎えています。
さらに、入院中のがん末期の患者さんは、自宅退院の調整中に半数以上が病院で最期を迎えている事実を知って、「在宅へ戻れそうな患者さん」「自宅で過ごすことができそうな社会環境」であっても、医療・介護事業所側の持つ判断基準によって、在宅医療や看護、介護を使って暮らしを継続できる方が限定されているように感じています。

新型コロナパンデミックでの遠隔看護・訪問看護の経験から

2021~2023年は新型コロナウィルス感染症のパンデミックの中で、「地域療養神奈川モデル」という半官半民の遠隔看護・訪問看護に関わりました。
20~70歳代の患者さんの支援を通して、医療提供体制の課題や、看護師の独自性と役割・責任を実感しました。

日本の医療制度は、地域住民の判断と選択にゆだねられるフリーアクセスの医療です。
そして、医師の診断を基準にして、薬剤が処方され、看護師のケア実践がなされる構造です。
しかし、パンデミック下では、オンライン診療の解禁があり、電話での診断や処方が実施でき、薬剤も対面以外の方法で届けられることができました。

その基盤になったのは、行政・保健所の初期対応と、それに続いてどこに繋ぐのか?といったサポート体制の振り分けです。
重症化のリスクが高い患者さん、すでに重症(基礎疾患や既往歴が不安定)な患者さん、ケアの中断により生活破綻が危ぶまれる方、虐待につながる社会背景のある方に対しては、看護師が遠隔と訪問でサポートをしました。
このような支援が、パンデミックの収束につながったと感じています。

このような社会情勢と地域の現状、新型コロナウィスル感染症のパンデミックの経験から、本法人は2024年4月1日に訪問看護ステーションを開設しました。
都心部の訪問看護ステーション激戦区で、プライマリ・ケア領域の看護の意味と、在宅医療と看護の未だ満たされていない役割は何だろうか?と考えながら実践しています。
役割については、今更ではなく、今だからこそ、都心部で医療法人・診療所と訪問看護を一体的に提供し、病院から在宅への移行期の迅速で柔軟な在宅医療提供体制をワンストップで提供することと考えています。
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    「地域療養神奈川モデル」メンバーと

Q.椎名さんが考えるプライマリ・ケア看護師の役割を教えてください。

在宅医療や看護は、現在、「連携」が目的となってしまっているように感じています。
連携が主な業務になり、連携やサービスの調整に時間がかかり、退院が間に合わなかったり、自宅療養を中断せざるをえないことが起こっています。
そして、ご本人の意向は置いてけぼりであり、サービス提供者や家族が「困難だ」と思えば、施設への入居や入院に移行しやすいという懸念があります。

このような調整が必要な状況こそが、プライマリ・ケア領域であり、看護師の役割が発揮されます!!
自宅でも、施設でも、入院でも、看護ケアの本来の目的である「ご本人が望む生活を支える」ために、医療やケアの選択に必要な情報を得て、意思決定を行いながら、大切な人やこと、場所との関係性をつないでいく支援がプライマリ・ケア看護だと思います。

早期退院を目指し、入院中の完全看護・24時間の医療提供体制から、家族のみ独居などの環境に変わった時に、医療やケアを暮らしに馴染ませながら「これならできる」という状況にまで、ケア実践としても心理的にも安心できる支援をおこなうことが大切です。
地域の介護サービスや家族ケアに支援の主体を移行していくコーディネーターとタスクシフト・シェアのハブになる役割をプライマリ・ケア看護が担っています。
また、在宅で状態が増悪した際に、医師と協働しながら看護師が重点的に頻回な訪問を行うことで再入院予防に努めています。

地域の様々な健康課題を解決するためのプライマリ・ケア看護師として

認知機能低下や老々介護、孤立・引きこもり、虐待、精神障害や発達障害などの地域社会での互助と共助の力が必要な方に課題を感じることが増えています。
医療機関などにかかる前の段階の近所で気になるな~という方に、看護師も関心を持ち、地域住民と一緒に関わっていくことが必要になっていると感じます。

また、訪問する中で、患者さんを支える家族も支援を必要としているとを強く感じます。
家族も含めて患者さんを看護するという家族看護の視点をもって家族に働きかけ、家族関係の再構築や、家族を支援の輪に繋いでいくことも、プライマリ・ケア領域で働く看護師の重要な実践のひとつです。

そして、老々介護の末に妻(または夫)に先立たれて高齢で独居になった方、駐輪場で出会うなんだか困り顔のご近所の方などへできる支援についても考えるようになりました。
自転車移動中に道端で倒れている人の救護したことをきっかけに、市民後見制度研修を受講しました。
地域の課題に目を向けることや早い段階から看護師が介入することの可能性を見いだしながら、患者さんに判断力・意思能力の低下があっても、その方の意向を知る人の輪をつなぐことで、権利擁護・財産管理を含めた代理意思決定者となっていける存在を増やしたいと思っています。
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    日々の訪問スタイル:帽子とゴーグルが必須です

病いとともに生きる方の生活を支えるプライマリ・ケア看護師として

在宅医療・訪問看護を利用する方の中には、仕事や学業の継続ができない状況になってから繋がることが少なくありません。
複雑・高度化する医療は、外来や日帰りでできるようになってきていますが、治療への理解や薬剤管理、薬の副作用が出た場合の対処等、加齢や治療に伴う心身機能の低下、治療の副作用や苦痛症状などにより、普段の生活を送るのにも不安定になりやすい中で、確実に実施できる方がどのくらいいるでしょうか?

外来治療やさまざまな医療の選択肢がある段階から、プライマリ・ケア領域の看護師が関わりをもち、生活への影響や、この先の人生において何を大切にしたいのかを、ともに考えながら支援をおこなうことでその力を発揮できると感じています。

プライマリ・ケア領域で働く看護師に必要な力:情報の統合力

医療処置・診療の場面では、看護師のもつ情報の収集と統合の力が活きてくると思います。
訪問診療・外来通院では、医師は1回/月、多くても1回/週程度の診療となります。
私たち訪問看護師は、主治医の診療場面に至るまでのご本人の暮らしや前回の治療・処方の効果や作用などを、訪問看護の場面やかかわる家族・他職種から収集します。
そして、ご本人が医師の診療をどのように活かして、どのような暮らしを望んでいるのか?を医師に伝えて、医師との対話がスムーズにできるようにサポートしています。

また、診療場面に同席する(診療同行や外来)看護師の立場では、診断や治療方針が決まるまでの本人の意思決定プロセスと基盤になる価値観、感情の変化を読み取り、周りで見守る家族の反応をキャッチします。
そうすることで、この先の療養上の課題となることを把握し、適切に支援できるチームの連携を作っていくことができます。

予防的な介入と重症化する前に医療に相談してもらうポイントをご本人や家族と共有することはもちろん、看護師のアセスメントと臨床推論や判断を活用し医療を暮らしに馴染ませることで、ご本人と家族の自律を促すことができると思います。

Q. プライマリ・ケア領域で働こうと思っている仲間へのメッセージをお願いします!

2025年を迎える今、病期別、疾患別、年齢別、保険種別の医療提供では支えきれない医療の現状から、「移行期」という言葉がなくなることが、本当の連携の実現ができた時ではないかと思います。

生まれた時から亡くなる一連の人生。
唯一無二のご本人の体と人生・価値観に連続性をもって関わり続け、それらを通して出会った、家族や関係者の人生・価値観が、その地域の文化と社会の方向性を作っていきます。
私たちの関わる人の医療や看護・介護を活用した結果が、今後の医療介護政策に影響し、未来の日本の社会福祉・社会保障になっていく責任を背負っています。

超高齢・医療介護資源の偏在する地域社会の中で、私たち看護師の活かし方は「タスクシェア・シフト」のつなぎ役となって、必要なケアや役割をいったん引き受ける役割だと思います。
日々かかわりを持つ医師、介護士、セラピスト、家族、地域住民、行政の方々はもちろんですが、人以外のデジタル・IoTの活用も同時に実践してく段階にあります。
在宅で使える医療機器や検査機器は発展し、エコーや心電図、レントゲン、採血検査も当たり前に自宅でできるようになりました。
そして、患者さんや家族自身が使えるアプリケーションも増えてきて、より効果的・効率的に医療を活用できるようになっています。

また、点での介入も、遠隔モニタリングの活用しながら線にして患者さんの病状を把握し、適切なタイミングでの訪問計画を作ったり、重症化の予防ができるようになりました。
在宅で安全に医療ケアができたり、苦痛症状も十分に軽減できるからこそ、新たなスキルと知識を貪欲に楽しみながら吸収できるフィールドに、プライマリ・ケア領域の看護師はいると思っています。
私自身は、看護師・公認心理師の学びを活かして、権利擁護・財産管理の面から地域を支援する成年後見制度(新宿区市民後見人)への参加と、北陸先端科学技術大学院で知識構造化・暗黙知の可視化とデジタル・IoTについて学び、「本人の真のニーズを最優先できる暮らしを創造するケア」に取り組んでいきたいと思っています!
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    毎年6月に在宅医療を学ぶ仲間と親睦を深めています

編集後記

今回は、日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア看護師の資格をお持ちの椎名さんに、プライマリ・ケア領域で働く看護の魅力を教えていただきました。

「ナースのお仕事」では、素敵な看護師の活動を引き続き紹介していきたいと思います。

あなたもぜひプライマリ・ケア領域の看護師の仲間になりませんか?
お待ちしています!

最終更新:2025年06月23日 12時25分

看護師部会 広報活動支援部門

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