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第18回若手医師のための家庭医療冬期セミナー 【WS22 世界は誰かの仕事でできている 産業医が教える働く人のみかた】Q&A 

第18回若手医師のための家庭医療冬期セミナー
WS22 世界は誰かの仕事でできている 産業医が教える働く人のみかた

講師(アイウエオ順):
安藤労働衛生コンサルタント事務所                   安藤 明美
岡山大学総合内科・総合診療科                       石田 智治
OHサポート株式会社                             今井 鉄平
山梨市立牧丘病院                               岡本 雄太郎
宇陀市立病院地域医療部/奈良県立医科大学総合医療学        阪本 宗大
アクトグレースサポート株式会社                        田中 千恵美
医療法人社団富田医院                           富田 さつき

 
ご参加いただいた皆さま、大変ありがとうございました。
このワークショップの事後アンケートで皆さまからいただきましたご感想とご質問を掲載させていただきます。皆さまからいただきましたご質問に関しましては、講師が以下に回答をさせていただいております。今後のご活動にお役立ていただければと思います。皆さま、今後とも、産業保健チームをどうぞよろしくお願い申し上げます。
(サムネイルは専攻医の石田先生、岡本先生、阪本先生の3人が作ってくださいました。)

【ご感想】
1.就労可能性の判断がいつも曖昧で診療していましたが、少し判断のきっかけがつかめた。
介入方法を立場にわけて提示していただけると良いかと思います。産業医、かかりつけ医(産業医がいる場合/いない場合)など。
2.事例ベースで学ぶことができてよかったです。グループワークがなかったのは、参加に対して心理的負担が無くて個人的にはよかったです。臨床医としてよく遭遇するケースを取り上げてくださったので、実臨床にすぐにいかせそうな内容だったため。
3.あるある症例ベースだったので理解しやすかったです。
4.具体的な内容で、イメージしやすく勉強になりました。
5.プライマリ・ケア医の目の前の患者・人間をみる視点と、(産業医の?)会社全体をみる視点の違いがやはりあるのかなと感じました。産業医をやったことがないのであまり分からないですが・・・。
6.日常臨床で出会いそうな4ケースだったのが良かったです。

 
【ご質問】
Q1.仕事が原因で心身に影響が出ていそうでも本人が就業制限を希望しない場合に、状況をかえられるような手立てはありますか。

A1-1. 就業制限には、従業員個人の健康確保という目的の他、会社の安全配慮義務の履行という目的もあり、場合によっては本人の同意が得られなくても就業制限を実施せざるを得ないこともあります。主には安全衛生法に基づく、定期健康診断事後措置の場面などです。一方で、法令に基づかない場面(例:メンタルヘルス不調者への対応)では、本人の同意を得ることが原則となります。もちろん、法令に基づく場面でも、極力本人の同意を得る努力はすべきかと思います。後者でどうしても同意が得られない場合ですが、少し時間をおくということも大事になります。
 一度の面談で無理に就業制限の判断を行わず、次の面談の約束をして、その間は様子をみるということも必要かもしれません。その間に症状の変化があり、本人の困りごとが大きくなることで、本人の気持ちも変化してくることもあります。その機をとらえて、就業制限の判断(場合によっては休業を勧めるなども)につなげるためにも、放置はせずに継続的に関わっていくことが大事になります。(今井)

A1-2.メンタル不調等から、心身や日常生活、業務に影響が出ている場合には、「心配していること」を伝え、まずは受診勧奨をしましょう。受診および治療により、心情等が安定してきますと、心境も変化し、ご自身の体調不良を振り返ったり、俯瞰視できるようになり、就業制限を受け入れてもらえるようになることもあります。なかなか受診を受け入れてもらいないような場合は、今井先生のおっしゃるような定期的な関わりを継続し、本人のタイミングをみながら、受診や就業制限等を提案することが大切になってきます。(安藤)

 
Q2. インスリンを打っていると雇ってもらえなくなるという患者さんがおられましたが、そういった企業は多いのでしょうか。

A2. 採用に関して産業医が関わる場面は少なく、正確なところはわかりません。以下、産業医個人の見解になってしまうことご承知おきください。運輸業・建設業など一部の業種においては気にするところもあるかもしれませんが、意識消失発作を繰り返すなどよほどのことがなければ、インスリン治療を行っているだけで就業上の配慮が必要になるものでもありません。むしろ、糖尿病のコントロールが得られていない状態の方が、配慮が必要となる可能性が高いです。また、人員不足が深刻化している企業も少なくなく、インスリン治療中であることだけを理由に不採用にできるほど、企業側にもそのような余裕はないのが実情かもしれません。
 今回のケースにおいては、患者側の誤解、もしくは治療を受けない口実にしている可能性も否めません。「きちんと治療をしていない方が採用してもらえなかったり、採用されても就業制限を受ける可能性があること」を説明し、適切な治療への同意を得ていくことが大事かと思います。(今井)
 

Q3. コロナ後遺症が長期に渡って仕事辞めることになった事例、慢性疲労症候群で働くことができず休職中で症状改善の見通しが立たない方などへのサポートなどで主治医の立場からできることは何かあるでしょうか?

A3-1.これらの事例の場合、自分がどの立場の主治医なのか?によってアプローチの方法にもいくつかの可能性が考えられると思います。まず、自分が、その疾患の主治医だった場合です。コロナ後遺症が長期にわたった場合や慢性疲労症候群で働くことができなくなった場合、仕事を辞める前に「すぐに辞めないようにアドバイスをする」ことがまず第一に主治医として大切な役割であると考えます。その上で産業医や信頼できる上司と連携を取ることも重要です。産業医のいない社員が50人未満の中小企業の場合は、信頼できる上司にまず相談し、必要であれば、地域産業保健センターに連絡し相談に乗ってもらうシステムがあるという情報を教えることも大切です。また休職するにあたって利用できる制度などの情報を会社側に求めていくことも必要ですし時には行政書士などの力を借りる必要性がありますので、そのような情報を本人に伝えて行くことも重要だと思います。MSWがいる医療機関であれば、「医療機関の窓口に、MSWがいない医療機関であれば産業保健総合支援センターに相談することで(本人・医療機関・事業所から相談できます)障害年金保険や労災保険などの申請やリワークシステムの利用に繋げることも可能です(2023年4月時点)。
 次にコロナ後遺症や慢性疲労症候群の主治医ではなく、かかりつけの家庭医としての立場の関わりである場合です。先ず主治医と協力して「すぐに仕事を辞めないように」アドバイスをすることが重要です。そして本人と主治医、それから産業医や上司などを繋ぐ役割も担っていると思いますし、精神的な支えとなることも、時には家族も含めて関わることも大切な役割のひとつだと思います。産業保健に関わっている家庭医であれば、上記のような地域産業保健センターや産業保健総合支援センターを通じて利用できる社会保障制度などの情報を求めることなどを本人に伝えることも可能ですし、職場復帰や両立支援などのアドバイスもできると思います。(富田)

 A3-2.まず、どのような場合でも主治医として関わる場合には、あくまで患者さんの病状の回復を第一に考えて、関わっていくことが大切です。主治医としてできることには限界があることも理解し、雇用保険に関する手続き、利用できる休職制度等は、会社の担当者の方に相談するようにご本人に伝えましょう。休職期間を経ても、十分な回復が見込めず、残念ながら退職となってしまった場合でも、かかりつけ医としての関係性が続くように務めましょう。(安藤)

 
Q4. 両立支援の例では働き続けられる方法を模索する手段を提示いただきましたが、リモートなどでも働き続けるのが大変な方達にはどのような関わり・支援ができるでしょうか?

A4-1. 両立支援の例で、何がなんでも就労を続けるということが最善ではないのかもしれません。極端な例になりますが、在宅勤務ですら就労が難しいというケースだと、そもそも就労ができる状況にはないのかもしれません。一時的にそのような状況に陥っているのであれば、体調が回復し就労ができる状態になるまで休業を勧めることも必要になってくると思われます。また、永続的にそのような状況に陥っているのであれば(回復が期待しがたい状況にあるのであれば)、そもそもの働き方を見直していく必要があるのかもしれません。短時間勤務や業務内容の変更、場合によっては転職や障害者雇用への変更なども検討の余地が出てくるものと思われます。(今井)

 A4-2.働き続けることが大変になっている要因や程度にもよると思いますので、一概には言えないのですが、私病の治療と仕事の両立支援を目的とした職場環境調整では、本人の同意の上で主治医の意見を聞き、現場の上司や人事の方と職場において可能な限りの配慮について検討していくことになると思います。今井先生のおっしゃるように、「リモートですら働けない状況」でしたら、「本当に就労ができる状態まで回復しているのか?」という点は、大切なポイントとなります。産業医として関わる場合には、主治医との連携により、主治医として関わる場合には、業務内容等に関して会社で可能な安全配慮等を本人に確認いただきながら、慎重に判断していくことが大切と言えます。(安藤)

 
Q5.働いている人の中の、「診療所に行くほどの症状でもないし、健康診断に引っかかるほどでもないんだけど、こんなことちょっと相談してみたいんだよねぇ」みたいな案件や、「メンタルの不調な気がするんだけど本当にメンタルなのか分からないし人に相談する勇気もない・・・」みたいな方を、どう拾ってwell-beingにしていくかに興味があります。それって「職場のコミュニティナース」的な活動が有効なのか、現行の制度上でも何かできることができるのか、産業医の視点に限らずご意見ありますでしょうか。

Q5-1.「診療所に行くほどの症状でもないし、健康診断に引っかかるほどでもないんだけど、こんなことちょっと相談してみたいんだよねぇ」

A5-1.看護職などのコメディカルスタッフを是非活用することも選択肢のひとつになるかと思います。
実際に相談することができる窓口の可能性として、働いているということではありますが、その方が国民健康保険ということも少数ですが想定できます。その場合は、市町村役場の保健師などの看護職に相談するという方法があります。お住いの保健センターや役所などなるかと思います。
 多くの場合は中小企業ですと全国健康保険協会(協会けんぽ)が想定されます。以前は、被保険者であれば、直接協会けんぽに問い合わせれば、そこに所属する保健師や管理栄養士が対応してくれる支部が多かったと思います。ただ、最近は特定保健指導に特化している支部も多いので、事前に電話で確かめたほうがいいと思います。数は少ないですが、開業保健師という形で中小企業を支援している形も少しずつ増えています。相談してみたいという方の会社がこのような開業保健師などと契約をしていれば、気軽な相談ができて、適宜、その保健師が医師につないでいくことになると思います。(田中)

Q5-2.「メンタルの不調な気がするんだけど本当にメンタルなのか分からないし人に相談する勇気もない・・・」

A5-2.先ほどの⑤―1のルートに加えて、メンタルかもしれないということであれば、働いている方もそうでない方も問わず、近くの保健所に相談することが可能です。精神の経験を積んだ保健師が保健所には配置されています。もちろん、もっと気軽にということであれば、市町村保健師もその対象です。メンタルでも身近な相談窓口は市町村となっています。心療内科等を受診するのは敷居が高いけど、メンタル不調がかなり深刻ということであれば、最寄りの精神保健センターに相談することもいいかと思います。さらに経験を積んだ保健師や精神保健福祉士さらには精神科の医師の相談を受けることも可能です。(田中)

最終更新:2023年04月25日 00時32分

予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

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予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チーム

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