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第15回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.5<口演発表の部 優秀発表賞> 筑波大学医学群医学類

2024年6月7日(金)〜9日(日)アクトシティ浜松で開催された第15回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会学生セッション。口演発表24エントリー、ポスター発表47エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「口演発表の部」で優秀発表賞を獲得した筑波大学医学群医学類の本原彩那さんと中川佑里子さん、そして指導医の前野貴美先生からお話をうかがいました。

口演発表の部 優秀発表賞

⼤学病院総合診療科初診患者における抑うつと⾃殺念慮の有病率の検討

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##受賞内容
口演発表の部 優秀発表賞
 
##演題名
⼤学病院総合診療科初診患者における抑うつと⾃殺念慮の有病率の検討

##大学
筑波大学医学群医学類

##発表者名
本原彩那さん(筑波大学医学群医学類5年)
中川佑里子さん(筑波大学医学群医学類3年)

##指導者名
前野貴美先生(筑波大学医学医療系地域医療教育学/筑波大学附属病院総合診療科)
孫瑜先生(筑波大学医学医療系地域医療教育学/筑波大学附属病院総合診療科)
後藤亮平先生(筑波大学医学医療系地域医療教育学)
高屋敷明由美先生(筑波大学医学医療系地域医療教育学/筑波大学附属病院総合診療科)
久野遥加先生(筑波大学医学医療系地域医療教育学/筑波大学附属病院総合診療科)
前野哲博先生(筑波大学医学医療系地域医療教育学/筑波大学附属病院総合診療科)
うつ病は世界的に疾病負担が大きな要因となっている疾患と位置付けられている。先行研究においてプライマリ・ケア外来のうつ病または抑うつ症状の有病率は17パーセントと報告されているが、大学病院総合診療科外来患者における抑うつ及び自殺念慮の有病率の報告はほとんどない。そこで、大学病院総合診療科初診患者における抑うつや自殺念慮の有病率及び関連特性を明らかにすることにした。
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うつ病は進行した結果、自殺という結末を迎えることもあるので、 うつ病や自殺の危険を見逃さないことがとても大切になってきます。先行研究によると、プライマリ・ケア外来におけるうつ病あるいは抑うつ症状の有病率は17パーセントとされているのですが、大学病院総合診療科の外来患者に関しては、そうした有病率の報告はほとんど見られません。 
大学病院総合診療科は紹介予約制ですから、前医の段階で診断に至らなかった患者さんが受診することになり、抑うつや自殺念慮の有病率は高くなる可能性が考えられます。そのため、そうした患者さんたちの有病率や特性を調べることは診療現場において意義のあることだと考えたのが、この研究の出発点です。

分析に関しては「PHQ-9」を活用

調査に関しては2022年の1月から12月までの期間に、筑波大学附属病院総合診療科を初診で受けた受診した全患者さんを対象として、受診前に記入していただいた「PHQ-9(Patient Health Questionnaire)」を分析していくという方法を取りました。PHQ-9とはプライマリ・ケアにおける成人患者の抑うつ症状のスクリーニングのために開発された尺度で、 9つの質問項目から構成されています。それぞれの項目は、精神疾患の国際的な診断基準である「DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」のうつ病の症状が反映されています。PHQ-9の質問項目は以下の通りです。
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抑うつ・自殺念慮ともども有病率が高いという結果に

記入内容を踏まえて、PHQ-9で10点以上のものを「抑うつあり」、PHQ-9で自殺念慮が1点以上のものを「自殺念慮あり」とし、これらをアウトカム指標として分析していきました。その結果、大学病院総合診療科初診患者における抑うつの有病率は約40パーセントであることがわかりました。これは、先行研究のプライマリ・ケア外来での有病率17パーセントに比べると高い値を示しています。この結果に関しては先にも触れたように、前医では診断に至らなかった患者さんが数多く受診していることが影響していると考えられます。
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また、自殺念慮に関しては約20パーセントという高い有病率が示されました。自殺念慮は男性と比べて女性に多いこともわかりました。これは先行研究の内容とも一致します。こうした結果を踏まえ、紹介患者が受診する大学病院総合診療科では、受診の背景にある抑うつや自殺念慮の存在を配慮する必要があるというのが私たちの出した結論です。
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― そもそもうつ病を取り扱おうと思った理由から教えていただけるでしょうか。

本原: 私は精神科医になりたいとの思いから医学部を目指しました。精神的に困っている人たちを助けたいという動機があったのですが、日本の精神科について自分なりに調べていく中で、疑問に思うことも出てきました。 その一つが、精神科を受診する患者さんは重症化している方が多いということです。うつ病は重症化すると自殺につながることも少なくないので、そうなる前に何か手を打てることはないのだろうかと思いました。重症化に至ってない患者さんをいち早く見つけるということです。
そういう話を指導医の前野先生に伝えたら、筑波大学附属病院の総合診療科では、初診の外来患者さん全員にPHQ-9に記入してもらっているということを教えていただき、今回の研究につながったという経緯があります。そして、研究を進めているうちに中川さんが入ってきてくれたという流れです。 

中川:私が研究室に参加した時点では、 すでに3種類ほどの研究が始まっていて、その中から興味のあるものに関わればいいと言われました。私自身もうつ病に関心があったので、本原さんのお手伝いをさせていただくことにしました。

― 研究を進めていく中で苦労した点はなんでした

本原:対象となる患者さんの数は180名だったのですが、 そのPHQ-9に書かれたデータに関して、どのように分類していけばいいのかといったことに悩みました。性別や年齢別といった分け方の他に診療科別あるいは主訴別に見ていくことも必要なのかといったことですね。また、研究自体あまり知識がない中で進めていったので、模索しながらという感じになりました。あとは、先行研究との整合性をどう図るかといった点にも苦労した記憶があります。

中川:先行研究に関しては本原さんから共有していただいて、一緒に研究室の時間を使って読んでいきました。結構大量の論文を読みましたね。英語の論文が多かったので、日本語に訳しながら精読していったという感じです。
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    本原さん、中川さんが力を合わせ、前野先生にアドバイスを受けながら研究を進めていった

― 今回の結果に対してどのような感想を持ちましたか?

本原:抑うつの有病率が約40パーセントと、かなり高かったことには驚きました。また、自殺念慮に関する結果も高いという印象です。大学病院に紹介されてくる患者さんは、やはりそれなりにうつ病の方が多いという事実は否定できないと思います。 
また、うつ病のスクリーニングの重要性を実感しましたし、診察においても患者さんにダイレクトに「死にたいと思ったことはありますか?」と聞くことで自殺予防につなげられるのではとも思いました。

中川:今回扱ったデータは、抑うつがありそうな患者さんだけを対象としたものではなく、 紹介で来られた患者さん全員からPHQ-9に記入していただいたものです。その診療データを分析していくことで、約40パーセントの抑うつの有病率とか自殺念慮約20パーセントという事実が見えてきました。その意味では、データから見えてくる新しい発見というものに私自身は興味を惹かれました。 適切なリサーチクエスチョンを立てることの大切さを今回は学ばせていただいたと思っています。
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― 前野先生にうかがいます。今回ご指導されるにあたって、どのようなことを意識されましたか?

今回の研究は研究室演習といって、必修科目ではなく自由に選択できる科目で、研究に興味のある学生がいろんな診療科の研究に加わるという枠組みの中で行われたものです。本原さんは3年生の時から研究室演習で活躍していて、自身のテーマも持っていたので、私の方から特に指導をしなくても自分の力でどんどん前に進んでいってくれたという印象ですね。相談を受けたらそれに答えるというくらいだったでしょうか(笑)。中川さんもしっかりとサポートにまわってくれて、見ていて安心感がありました。

― 特に評価されるポイントはどこでしょうか。

やはりもともと自分でやりたいと思っていたテーマをしっかり追い求めて形にした点は素晴らしいなと思います。 形にするためには先行研究をひもといて「ここまでは言及されているけど、ここからはまだ分かっていない」というところを明らかにする必要があるのですが、2人とも論文をきっちりと読みこなしていて、その辺りもクリアできていました。その点も評価したいですね。中川さんは当時2年生でしたが、そうだとは思えないくらいに英語の長い論文を読んで研究室で発表してくれたりもして、それも素晴らしいと思いました。

― これからの2人に期待することはなんでしょう?

2人ともとても積極的に自分のしたいことに取り組んでいく姿勢を持っているといるので、今後もそうした姿勢を失わないようにしてほしいですね。それは本人たちのためになるだけではなく、周りにもいい影響を与えます。また、将来にも繋がっていくと信じています。学生時代にいろんな経験をして自身の関心を深めながら成長していってほしいですね。私たちもそのお手伝いができればと思っています。
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    受賞後、本原さん(中央)、中川さん(左)前野先生と喜びの記念撮影

― 本原さんと中川さんは将来どのような医師になりたいと考えていますか?

本原:先ほど、もともとは精神科医になりたくて医学部に進んだと言いましたが、今は総合診療科医 寄りになっています。うつ病の患者さんを診ていきたい気持ちは変わらないのですが、その他にもいろんな疾患に対応できる医師になりたいというのが今の私の気持ちです。将来的には訪問診療にもチャレンジしたいとの思いもあります。 

中川:私は医学部に入る前から、患者さんご自身だけではなく、そのご家族であったり社会的背景まで含めて診ることができる医師になりたいと漠然とですが思っていました。最近、そうした働き方をしている先生方が多いことに気づいたのですが、その方々は皆さん総合診療医で、一層興味を抱いているところです。 
また、今はプレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら若いカップルが自身の健康や生活に向き合うこと)に取り組んでいる先生のお手伝いをしていますが、これはジェネラルな視点を身に付けたいためです。そんな風に自分の中のいろんな可能性を追求していきたいと思っています。

最終更新:2024年11月11日 17時50分

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