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vol.43/「処方箋を持たない人も集える薬局を目指して」【薬剤師】星利佳さん

今回、お話しを伺ったのは山形県の新庄・最上地域で『(有)メディカ ほし薬局』を経営する星 利佳さん。プライマリ・ケア認定薬剤師をはじめ、ケアマネージャーや認定がんシニアナビゲーターなど、驚くほど多彩な認定資格を持ち、地域住民の健康を支えさまざまな医療・介護スタッフと連携を深めるハブのような役割を担っています。星さんに地域における薬局、薬剤師としてありたい姿や目指すことを聞かせていただきました。
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訪問診療で芽生えた薬剤師としての役割

― 星さんが薬剤師になられた経緯を教えてください

実は学生のころは、ジャズシンガー(!)を目指していたこともあるんですよ。でも、地元で病院薬剤師をしていた父の薦めもあり、とりあえず大学は出ておこうと。親元を離れて宮城県の薬科大学に入り、薬剤師の道へ進む決意をしたのは国家試験に合格してからです。
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    ジャズシンガーを目指していた学生の頃
卒業後は仙台市の薬局に就職し、その後国立病院の薬剤部で病院薬剤師を経験しました。結婚と出産を機に、子育てと両立しながら働きやすい環境を求めて保険薬局に転職。そんな中、父が体調を崩したこともあって地元の山形へ戻り、門前薬局で働き始めました。

― そのころ訪問診療との出会いがあったそうですね?

私が在籍していた薬局のある周辺病院の医師が訪問診療した後に、ご家族が処方箋を持って来局されることが多かったのですが、ご家族の方とお薬の話しをしても「薬を取りに来ただけで、よくわからない」と言われることが度々ありました。お薬を処方された患者さんご本人が今どういう状態なのか分からず、薬歴も書けない。そこで、私から先生にお願いして訪問診療に同行させてもらい、お薬を届けながら患者さんの様子や服薬状況などを自分で確認してみようと思うようになりました。
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とはいえ、当時の私はまだ20代後半で経験と知識が浅く、最初は患者さんと対峙しても薬剤師として何をすればいいか分からず、戸惑ってばかりでした。そこで、同行させていただいている先生が受け持つ約80人の患者さんの訪問診療はもちろん、看護師やヘルパーさんの訪問時にも同行し、日々の患者さんの表情や動き、匂い、手足を触った感触など、五感をフル活用して観察しました。やがて、「あれ?患者さんの表情が今日はいつもより元気がない」「貧血を起こしているかも」などと感じ取れるようになり、お茶請けに出してもらったお漬物の塩加減から、患者さんとご家族の食生活を想像したりするようになりました。

― その経験がベースとなり、薬局の開業を?

患者さんを在宅で見守っていくには、医師や看護師、ヘルパーなどの多職種連携が不可欠です。そのチームの中で薬剤師が患者さんとの日常会話や何気ない変化を感じ取り、各専門家へ必要な情報伝達とパスを渡せるハブの機能を果たせたら、チーム全体の医療の質が上がるのではないかと考えるようになりました。そのころ、訪問診療でお世話になっていた先生が独立開業される際に、「星さん、自分で薬局を経営してみたら?」と背中を押してくださったこともあり、現在の『有限会社メディカ ほし薬局』を開局しました。

プライマリ・ケアの視点を地域の医療にフィードバック

― 開業後、どのような活動をされたのか聞かせてください

薬局の開業したのが1998年で、2000年の介護保険制度スタートに先駆けたタイミングで、院外処方が始まる時期とも重なっていました。これは何かできることが増えるチャンスかもと思い、まずはケアマネージャーの資格を取得しました。自分でケアプランを作ったりしながら、訪問診療における薬剤師の介在価値を高める動きや、地域のケアマネの方と一緒に研修を受けたり、訪問診療の担当者会議に出席するうちに、地域の様ざまな医療従事者の方と親しくなりました。訪問診療チームに薬剤師が加わることで、医療の質が上がると思ってもらえるまでにだいたい10年くらいかかったでしょうか。

― 日本プライマリ・ケア連合学会に参加されたのも、その頃ですか?

偶然手にした経済誌に「取りたい資格」として上位にランキングされていたのが認定薬剤師で、詳しく知りたいと思い、学会の研修会に参加しました。研修を受けるたびに、「知らない」「初めて耳にする」「私に足りない」と思うことがたくさん見つかり、認知症のこと、糖尿病のこと、がん患者さんのことなど、総合的な視点を身につけたくて様ざまな認定資格を取りました。研修は、座学ではないワークショップとロールプレイングの連続で頭がフル回転。ヘトヘトになるまで疲れるのに、なぜかまた研修を受けたくなる(笑)。研修を受けるたび、その視点はなかった!という発見があり、「明日から自分が変われる」というマインドに。大いに刺激を受けました。

患者を取り残さないための多職種の役割が重なり合うオーバーラップ連携

― 現在、『ほし薬局』には薬剤師だけでなく、管理栄養士も在籍を?

はい。例えば、カリウム制限がある患者さんに対して、カリウムが多く含まれる食品リストを渡すことは薬剤師でも可能です。でも、毎日の食事でカリウムを控えるための献立の工夫や調理のコツは、管理栄養士のフィールド。何を食べたらダメなのかではなく、どうすれば食べられるか、どの程度だったら食べていいのか。薬剤師の視点から患者さんにとって今一番大切な情報は何なのかを探り出し、適切なタイミングで適切な専門家へパスを渡すことが大切だと感じています。

― 薬局が、お薬を受け取るだけではない“よろず相談所”のような場所なのですね

そうあって欲しいですね。先日も、私が不在の時に薬局へいらした60代の患者さんが「今日は星さん居ないの?」とおっしゃったそうで、その方の普段と違う表情に気づいたスタッフが私にパスをつないでくれました。すぐにお電話すると「実は今日がんの告知を受けてきた」と。まっすぐ家に帰ると家族の前で泣きそうだから、ワンクッション置きたくて私に会いに来てくれたとのこと。「今から戻るので薬局にきてください」とお伝えし、1時間くらいお話ししさせていただきました。始めは泣きながらご自身のお気持ちを吐露されていたのが、帰る頃には「あ〜、すっきりした!」と普段の明るい表情に。化学療法が始まってからは管理栄養士もケアに加わり、痩せるどころか体重が増えてお医者さんに驚かれたそうです。
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― 連携強化のためのミーティングも工夫をされているようですね?

特に大切にしているのが、様ざまな医療従事者で見守っていた患者さんのお看取り後、関わった全員で行う振り返りのデスカンファレンスです。「あのとき、実はこう感じていた」などのこぼれ話から、チームとしての共通の認識が生まれ、それぞれの役割への理解も深まる効果があります。その積み重ねが「この情報は〇〇さんに伝えておこう」「この問題は〇〇さんに相談してみよう」と、抜け漏れのない多職種の役割が重なり合う連携に繋がっていると思います。最初は訪問診療チームだけでひっそりと行なっていましたが、現在は患者さんが入院していた病院の医師や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーも参加してくれるように。それぞれの役割の深い部分やスタンスを感じ取ることで信頼関係が深くなり、多職種連携という言葉を超えた仲間意識も生まれました。
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    患者さんのお看取り後に行う「デスカンファレンス」関わった全員で振り返る

処方箋を持たない人も気軽に覗ける、薬局+コミュニティづくり

― 現在、日本プライマリ・ケア連合学会や地域で多くの役割を担っておられますね?

地域では新庄・最上地区の薬剤師会の会長として、薬局同士はライバルではないこと、共に協働して薬剤師の地位を高めていくことが大切であることを後進の薬剤師に伝えるために活動しています。日本プライマリ・ケア連合学会では理事として、東北ブロックの副支部長、山形ブロックの副支部長、地域包括ケア・多職種協働委員会委員長、高齢者医療・在宅医療委員会副委員長、薬剤師部会幹事 学生・若手育成担当を兼任しています。様ざまな職種の方と関われることが楽しくて、特にプライマリ・ケアの先生たちは、少し生意気なことを喋っても「その視点、面白いね」「貴重な意見だねぇ」「もっと話して」と一生懸命、耳を傾けてくださる。聞き上手な先生が本当に多くて、どの活動も楽しんでやらせてもらっています。

―薬局で新たな取り組みもされているそうですね?

2023年10月に、自分が本当にやりたい薬局として新店舗を新庄市内にオープンしました。様ざまな人が集まって輪になり、地域を照らす場所になれたらとの想いを込めて『ほしてらす』と名付けました。薬局内に、調剤の待ち時間を利用して患者さんとお話しできる「おしゃべりとしょしつ」という個室スタイルの相談室を作り、まず薬剤師と会話をし、その間に調剤が進み、お話しが終わる頃にお薬をお渡しする「先投薬(先確認)」の取り組みを行っています。相談室に自由に閲覧できる健康や病気に関する専門書なども置いて情報提供も兼ねています。また、地域の方が自由に立ち寄って、休憩やお喋りなどに使っていただけるオープンスペースとして「だれもらうんじ」も作りました。
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    新庄市内にオープンした薬局 『ほしてらす』
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    地域全体で見守り合えるようなコミュニティづくりを創り出したい
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    だれでもとしょしつ
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    だれでもらうんじ

― 星さんが目指している、薬局の理想の姿を教えてください。

いい意味で薬局らしくない、処方箋を持っていない人も集まりやすい薬局です。そのきっかけ作りとして、体操教室や近隣農家の朝採れ野菜を販売する産直野菜市を定期的に開催するようになりました。楽しいイベントを通して、地域の見知らぬ人と出会ったり、新しいつながりが生まれる場になればと考えています。小さい子どもからお年寄りまで地域全体で見守り合えるようなコミュニティづくりを、この薬局から創り出せたら幸せですね。
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プロフィール

有限会社メディカほし薬局
開設者・薬剤師 星 利佳(ほし・りか)
https://medica-info.jp
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【経歴】
1991年4月 (有)サワダ アルファ薬局(宮城県仙台市)
1992年6月 国立仙台病院 薬剤部(宮城県仙台市)
1994年3月 大槻薬局(宮城県大河原町)
1996年4月 萬屋薬局かみのやま店(山形県上山市)
1998年2月~ (有)メディカ ほし薬局(山形県白鷹町)
2007年5月20日 開設者名 星 盛次から星 利佳に変更

【資格】
プライマリ・ケア認定薬剤師
介護支援専門員
認知症ケア専門士
NST専門療法士
糖尿病療養指導士(山形県)
認定がんシニアナビゲーター
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)
福祉住環境コーディネーター
サプリメントアドバイザー
終末期ケア専門士

【所属学会・役割】
日本プライマリ・ケア連合学会 理事
(同)東北ブロック支部副支部長
(同)山形県支部副支部長
(同)地域包括ケア・多職種協働委員会委員長
(同)高齢者医療・在宅医療委員会副委員長
(同)薬剤師部会幹事 学生・若手育成担当
一般社団法人 新庄最上薬剤師会会長
一般社団法人 山形県薬剤師会常務理事
J-HOP東北ブロック幹事
日本介護支援専門員協会 最上地区支部理事
山形県糖尿病療養指導士会世話人
山形県医療連携吸入指導研究会世話人

取材後記

薬局を営む薬剤師としてだけでなく、驚くほど多くの認定資格を取得し、数えきれないほど地域と学会の役割も果たしている星さん。そのバイタリティーの源は「やりたいことを好きなようにやっているから」と、にっこり。星さんの率いる薬局が地域と医療・介護をつなぐ架け橋として重要な役割を担っていることがインタビューを通して感じられた。
星さんのぬくもりあふれる笑顔と想いが輝く、新たな薬局+コミュニティ『ほしてらす』に、地域の明るい未来の姿を垣間見た思いがした。

最終更新:2024年11月12日 18時49分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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