ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!vol.09/「長い時間をかけて信頼関係を築き、人と人、人と地域を繋げながら医療を超えた幅広い活躍を実践」【医師・専攻医】飯塚玄明さん

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プライマリ・ケア Field LIVE!

vol.09/「長い時間をかけて信頼関係を築き、人と人、人と地域を繋げながら医療を超えた幅広い活躍を実践」【医師・専攻医】飯塚玄明さん

自分の将来の道を狭めたくないー-そんな想いでプライマリ・ケアを志望した飯塚先生。初期研修と後期研修で家庭医療・総合診療を中心に学ぶなか、「地域との繋がり」をテーマに様々な施設・団体と連携を図り、ママカフェや就労支援などにも幅広く携わっています。長い年月をかけてネットワークを築き、地域や人との関係性を築く先生の仕事に対する姿勢や取り組み、今後の展望についてお話を伺いました。
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専門医よりもゼネラリストを目指したい

― 飯塚先生は、大学の工学部を卒業後に、医学部へ編入されたそうですね

東京大学の工学部で4年間「化学」を学び、その後、医学部に編入しました。もともと父親が消化器内科の開業医をしていましたが、やりたいことを狭めたくないと思い、継ぐことは考えていませんでした。大学に進学してから真剣に自分の将来を考え始めて医師を目指そうと。人よりも、そのタイミングが遅かったんです。

― なぜ、プライマリ・ケアを選んだのですか?

最初はプライマリ・ケアについて、よくわかっていませんでした。もともと化学を専攻していたので、直感的に基礎研究をイメージして研究室に通いましたが、自分には向いていないと思うように。そのとき、大学で総合診療の大きなセミナーが開催され、周りの医学生も多く参加していたので足を運んだことがきっかけです。以来、関心を持つようになり、5年生の夏からは,学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナーに参加したことで,その道を目指そうと決意しました。父親の影響を受け、消化器内科も考えましたが、自分の道を狭めるような気がして。専門特化すするよりもゼネラリスト。総合診療を行いながらプラスで専門知識を学んでいきたいと思いました。

患者さん個人の生活を尊重することが大切

― どちらの病院で初期研修を行いましたか?

私は医療と社会の繋がりに関心があり、学生時代に炊き出しのボランティアに参加したこともあります。そんな理由から、日本で唯一ホームレス専用の病棟を持つ「東京都済生会中央病院」を選びました。当時、都内から30人程の患者さんを受け入れていましたね。
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― そこでの気づきや学んだことは?

ホームレスの方は,日ごろから病院に通ったり、決められたとおりに薬を服薬する習慣のない方がほとんどです。治療のために入院をした方がいいと思って勧めても「入院したくない」と、なかなか理解してもらえませんでした。私たちの当たり前が相手には通用しない壁に直面するなか、医師がすべてを決めるのではない。まずはその人の生活が第一であり、生活の次に医療があることを肌で感じました。

― とはいえ、重篤な患者さんも多いのでは?

そうですね。半数くらいの人は、体が動けなくなり、近隣の方の通報で搬送されてきました。けれども元気になると「もう帰れるから」と自ら病院を去っていく人も少なくありません。以前の生活に戻っても、患者さんが元気になってくれたらそれでいいと感じました。

― 特に印象に残った出来事はありましたか?

初期研修は勉強の場。何でも自由に任せてくれる病棟で、若手の医師が治療法や方針を考え、ベテラン医師と一緒にチームで取り組んでいました。例えば、昼にみんなでラジオ体操をしておしゃべりをしたり、コミュニケーションを通じて一体感が生まれましたね。のちにアンケートで「昼の楽しい時間を作ってくれてありがとう」というコメントを見たときにやりがいを覚えました。
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時間をかけて、患者さんと顔の見える関係を築く

― 後期研修では、どのような経験をされてきましたか

東京都江東区の城東病院で家庭医療・病院総合診療専門研修プログラムを受け、亀田ファミリークリニック館山(千葉県館山市)と北茨城市民病院付属家庭医医療センターの勤務を経て、現在は多摩ファミリークリニック(神奈川県川崎市)に着任。主に外来から訪問診療、乳幼児健診の患者さんを診ています。また、多摩ファミリークリニックは、お子さんから高齢者まで家族全員の健康をサポートしますが、医療以外の活動にも熱心で、自分の目指したいことを率先されている印象を受けて選びました。なお、下半期は川崎市立多摩病院にて、病院での家庭医療の実践を学んでいます。
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― 家庭医療を実践する難しさを感じることはありますか?

病気の幅広い知識を学ぶことはもちろん、患者さん本人だけでなく、家族にも目配りをする必要があり、やることはたくさんあります。当初はとても難しいと思いましたが、今はまったく負担には感じていません。経験を重ねていくうちに、自分がすべてを把握して取り組む必要はないということも学びました。患者さんを知っているのは、自分だけではないので、周りの人たちと協力し合いながら、重要なポイントを見極めて患者さんと関わっていけばいいと。肩の力を抜いたら随分と楽になりました。

― では、家庭医療のやりがいとは?

1年近く患者さんと関わっていく中で、その人らしさを発揮していると感じる瞬間があります。ある5人のお子さんを育てるお母さんに、初めてお会いしたときはメンタルに不調があり、その影響を子どもたちも受けて不安定な状態でした。けれども少しずつ落ち着いてきて、今ではテキパキと家事や育児に取り組むように。自分にはできない母親の強さ、その人の底力を垣間見ることができました。

― 長い時間をかけることが重要なんですね

そうですね。1回の診療は10分、15分ですが、それを継続していくことが大切です。同じ地域に長く勤務していることは、メリットのひとつ。私はこれまで各地で経験を重ねてきましたが、しばらくは多摩区に腰を据え、顔の見える関係性を活かして総合診療に取り組みたいと考えています。
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様々な施設と連携して、人や地域を繋げていきたい

― 多摩ファミリークリニックでは、どんな地域活動に取り組まれていますか?

自由な風土があり、いろんなことに取り組めるチャレンジの宝庫です(笑)。代表的な活動と言えば、『集まれ!新米ママ』というママカフェを月1回主催していること。コロナ過の今はオンラインで、多摩区在住の第一子の赤ちゃんとママを対象に育児講座やヨガ、育児相談会などを行っています。私も一児の父として、パパ目線で話をさせてもらいました。医師の経験だけでなく、家族を含めた自分の生活や経験のすべてを活かしています。

― ママカフェの一番の目的は?

人と人、人と地域を繋げることです。初めての出産を経験し、赤ちゃんとふたりきりの生活に不安を感じているママたちが集まり、交流を図ることで安心したり、リフレッシュができる。そんな場をつくり、サポートしていけたらいいと考えています。

― そのほかに取り組んでいきたいことは?

特に関心を持っているのは、地域と繋がっていくこと。近隣には地域包括支援センターや就労支援施設、NPO法人などがたくさんあるので、こまめに連絡を取っています。例えば、仕事探しに困っている患者さんについて就労支援施設に相談して、ご紹介したこともありました。

― 就労支援にも携わっているとは、驚きです

あくまでも私個人として、医師と患者の信頼関係の中での取り組みです。上から一方的に言われるよりも日常会話を通じて勧めた方が「ちょっと話を聞いてみようか」という気持ちになると思うんです。クリニックだけではできないことも専門家のみなさんと連携して、幅広く支援していきたいですね。

日本プライマリ・ケア連合学会の専攻医部会を通じて全国の医師と交流を図る

― 学会の専攻医部会の活動にも取り組まれているそうですね

総合診療と新・家庭医療専門医制度がスタートして5年以上が経ちますが、専攻医からは情報や支援を求める意見がアンケート調査結果から報告されています。専攻医部会は、情報共有やネットワークづくりを目的に設立されたプライマリ・ケア連合学会の公式部門のひとつ。専攻医20人の幹事会が中心となり、全国の約400人の専攻医を対象にweb講演会・専攻医交流会の開催、ポートフォリオ作成支援といった情報提供などを行っています――2022年に専攻医部会の代表を務めたとお聞きしましたが

― 2022年に専攻医部会の代表を務めたとお聞きしましたが

専門医から相談や悩みを聞き、学会の先生方にその情報を伝える橋渡しの役割を担いました。ちょうど6期目を迎え、その土壌のもとで専門性や知識をインプットでき、多くの先生方にお世話になりながら成長することができました。また、自分一人だけが病院の中で総合診療の専攻医だったり、都道府県に数人しかいない地域もあるため、この部会はとても重要な役割を持っています。私自身も月1~2回、オンラインで交流を図り、各地域で活躍している専攻医と出会えてとても楽しかったですね。
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― 最後に、学生や若い医師にメッセージをお願いします

家庭医療・総合診療の道に進むべきか、迷っている方は多いかもしれません。けれども私自身は、患者さんや看護師をはじめ、地域包括支援センターや行政の様々な職種の方と交流を図るなか、今自分が必要とされていることを実感しているので、迷うことはありません。また、総合診療・家庭医療と言うと「患者さんに寄り添う」イメージがありますが、医療の学問のひとつ。専門的に学びながら実践をしていけることは大きな魅力です。

私は、この道を選んだことに自信と誇りを感じています。

プロフィール

多摩ファミリークリニック
医師 飯塚玄明(いいづか・げんめい)
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~プロフィール~
2017年 筑波大学医学群医学類卒
    東京都済生会中央病院で初期研修を終了後
2019年 聖母病院家庭医療・病院総合診療専門研修プログラムを開始
同年  千葉大学大学院博士課程に進学
亀田ファミリークリニック館山、北茨城市民病院付属家庭医医療センター勤務
2022年 多摩ファミリークリニックに着任

多摩ファミリークリニックのHP
https://www.tamafc.jp/

取材後記

地域の人たちと積極的に交流を図り、あらゆる相談にも耳を傾ける飯塚先生は、行政や支援施設、NPO団体ともネットワークを築き、育児や就労など多岐にわたる課題の解決にも携わる。このような医療という枠を超えた活動から仕事に対する情熱、そして地域への深い愛情を感じ取ることができた。さらに家庭医療・総合診療とは、医師としての専門性だけでなく、これまでの人生経験や人柄を活かし、可能性を無限に広げられる職業であることを実感した。

最終更新:2024年03月21日 11時23分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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