ホームスキルアップCurrent topics - プライマリ・ケア実践誌「ぐったりしているけど検査で異常なし」高齢者の受診で何を考える?/Vol.2 No.1(3)

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「ぐったりしているけど検査で異常なし」高齢者の受診で何を考える?/Vol.2 No.1(3)

ケース

74 歳女性が,来院2 日前からの発熱,悪心,嘔吐を主訴に救急外来を受診した.既往に30 年来のアレルギー性鼻炎と萎縮性胃炎があり定期服薬はあったが,ADL(Activities of Daily Living)に問題はなかった.この数日は,咳や微熱があり,水分摂取はできていたものの,経口摂取量も低下したため,食後に内服していた薬も飲まなくなっていた.家でぐったりしているのを家族が見つけ,救急搬送となった.来院時,意識はGCS(Glasgow Coma Scale)でE4V4M6,JCS(Japan Coma Scale)でⅠ-1 と今ひとつはっきりしない感じであった.バイタルサインに大きな異常はなく,身体所見,神経学的異常を認めなかった.血液検査データでも大きな異常はなかった.
(実際のケースをアレンジしたものです)

問題1

意識障害の原因として,現時点で最も可能性が低いと思われるものはどれか.
1. 脳梗塞
2. 脳炎
3. 敗血症
4. 髄膜炎
5. 副腎不全

はじめに

 高齢者が,多様な主訴で来院した場合,何から鑑別をあげてどのように検査・治療を考えるべきか,いつも悩ましいこととなる.ここでは,一般的な検査で異常がないときの病歴聴取の重要性を中心に議論を進めたい.

ケースの詳細

●患者:74 歳女性.
●主訴:発熱,悪心・嘔吐.
●既往歴:アレルギー性鼻炎,萎縮性胃炎 家族歴:特記事項はない.
●社会歴:喫煙歴なし アルコール摂取なし 夫と二人暮らし(娘が近くに在住)
●現病歴:脳梗塞後の夫を妻一人で介護しており,普段より肉体的負担が大きかった.最近は夫のおむつ交換や創部の処置などで疲弊していた.この数日は,咳や微熱があり,水分摂取はできていたものの,経口摂取量も低下したため,食後に内服していた薬は胃に悪い影響があるのではないかと飲まなくなっていた.
来院2 日前より咳はよくなってきたものの,悪心もみられるようになった.来院前日の朝から全身倦怠感がさらに強くなり,来院当日の夜中の2 時ごろ,1回嘔吐したあと,意識がもうろうとした感じがした.朝に様子を見にきた娘がぐったりした本人を発見し当院救急へ搬送となった.頭痛や下痢,排尿回数の増加・排尿時痛は認めなかった.
●身体所見:血圧123/87 mmHg,脈拍90 回/ 分(整),体温37.3℃,呼吸数16 回/ 分,酸素飽和度95%(室内気).髄膜刺激症状(項部硬直・ケルニッヒ徴候)を認めなかった.心音や呼吸音にも異常はなかった.腹部に圧痛はなく,肋骨脊椎角と各椎体に叩打痛を認めなかった.皮膚や関節にも異常はなかった.身長156 cm,体重48 kg であった.
●神経学的所見:GCS でE4V4M6,JCS でⅠ -1,その他の脳神経・運動系・感覚系に異常を指摘できなかった.
●検査所見:
● 血液検査: 白血球6,800/UL, 赤血球351 万/UL,Hb13.1mg/dL,Ht40.4%,血小板数16.7万/UL. 生化学所見:TP6.6 g/dL,Alb3.4 g/dL,T-Bil 0.3 mg/dL,GOT 22 IU/L,GPT 12IU/L,ALP 270 IU/L,LDH 215 IU/L,BUN
22 mg/dL,Cre0.64 mg/dL,Na140 mEq/L,K3.5 mEq/L,Cl 106 mEq/L,CRP1.18 mg/dL,血糖値122 mg/dL,TSH 4.4 μIU/mL,FT41.2 ng/dL,ビタミンB1 30 pg/mL,ビタミンB12 420 pg/mL,葉酸3.3 ng/mL,アンモニア22μg/dL.
●インフルエンザ迅速抗原検査:陰性.
●尿検査:白血球1 未満/HPF,赤血球1 未満/HPF,細菌(−).
●動脈血液ガス(室内気):pH 7.404,PCO2 40.3 mmHg,PO2 88.6 mmHg,HCO3− 27.1 mmol/L,BE 2.5 mmol/L.
●尿グラム染色:有意な細菌貪食像を認めない.
●髄液検査:施行せず.
●胸部X 線検査:特記所見なし.
●腹部CT 検査:異常なし.
●頭部CT 検査:頭部MRI 検査(図1 〜5).
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経過1

発熱,悪心・嘔吐,軽度意識障害の鑑別のため,各種血液検査を実施したが,肝腎機能・血糖・電解質・甲状腺機能などは正常であった.救急外来では,軽度意識障害の鑑別のため,脳血管障害も考え頭部単純MRI を撮影されていたが,脳血管障害は否定的であった.娘さんが持ってきていたお薬手帳から内服歴を見直したところ,セレスタミンⓇ(ベタメタゾン+ d -クロルフェニラミンマレイン酸塩配合錠)を内服していることが判明した.鼻炎に対して内服しており,30 年来近医で投薬されていた.本人に確認したところ,食欲低下に伴い,食後に内服していた薬は胃に悪い影響があるのではないかと考えて,来院2 日前より内服すべてを自己中断していたことが判明した.また,嘔吐精査のために腹部CT を施行していたが,描出範囲内で副腎腫瘍や炎症性疾患などの病変を指摘できなかった.経過からセレスタミン自己中断による副腎不全の可能性が高いと判断し,ACTH 負荷試験(ACTH 製剤(コートロシンⓇ)0.25 mg 静注)を行ったあと,その結果を待たずにデキサメタゾンの点滴を実施した.

問題2

病歴と検査所見から考えられる副腎不全のパターンは何か.一つ選べ.
1. 一次性副腎不全
2. 二次性副腎不全
3. 三次性副腎不全

考察1

 本症例では,発熱,悪心・嘔吐,JCSⅠ-1 の軽度意識障害を認めていたが,画像所見では脳血管障害は否定的で,感染症,とくに敗血症の要素についても血液培養採取したが結果的には陰性であった.表1 は救急外来での急性意識変容の原因別頻度である1).副腎不全などの代謝性要素の頻度は全体の7.9% と比較的頻度が高いため注意が必要である. 副腎不全は,大きく分けて一次性・二次性・三次性に分けられる2).一次性は腫瘍・出血・炎症などで副腎が破壊され,グルココルチコイドとミネラルコルチコイドが欠乏した状態である.二次性は下垂体機能不全が原因であり,下垂体・視床下部の腫瘍浸潤・炎症・外傷・髄膜脳炎などが多い3)との報告がある.三次性は視床下部- 下垂体系のフィードバック機構の問題が原因であり,ステロイド長期内服によるものが最多といわれている4).副腎不全は臨床症状が多彩であり,原発性副腎不全と二次性副腎不全をまとめた解析では,「倦怠感・食欲低下・体重減少・性欲減退・低血圧・食欲低下・頭痛・悪心・嘔吐・下痢・皮膚乾燥・色素沈着・胃痛・四肢の疼痛」などの症状が報告されている5). 本症例では,原因不明の悪心・嘔吐を認めており,これらは副腎不全の部分症状であったと思われた.コルチコステロイド使用中の副腎不全患者を調べたメタアナリシス・システマティックレビューでは,投与法・投与期間・投与量では副腎不全を明瞭には除外できないことが示唆されている6).表2 は各投与法による副腎不全の相対危険率を表している.経口・吸入・局所投与(皮膚を含む)・関節内・経鼻など,どれも副腎不全をきたすリスクはあり,説明しがたい原因不明の症状を認めた場合には,ステロイドを含む薬剤使用歴を聴取し,副腎不全をきたしていないか検討する必要があると思われる.本症例もまさにそのとおりであった.
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経過2

 腹部CT では一次性副腎不全を示唆するような腫瘍や炎症性疾患などの病変はなく,頭部MRI では二次性副腎不全をきたすような粗大な下垂体病変を指摘できなかった.デキサメタゾン投与前,ACTH 2.0pg/mL 未満(正常値7.2 〜63.3pg/mL),コルチゾール3.2 μg/dL(正常値4.5 〜21.1 μg/dL)であり,コルチゾール低値にもかかわらずACTH の反応がないことから,原発性副腎不全は否定的であった.ACTH 負荷試験(ACTH 製剤(コートロシンⓇ)0.25mg 静注)ではコルチゾール値は0 分値3.2 μg/dL → 60 分値5.9 μg/dL であり,副腎不全を示唆する結果であった.デキサメタゾンで治療を開始しつつ検査結果をふまえ,ステロイド治療を検討することとした.病歴から三次性副腎不全と診断し,ミネラルコルチコイドの投薬は不要と判断しプレドニゾロン内服を開始した.デキサメタゾン投与後から悪心・嘔吐・軽度意識障害はすべて消失した.プレドニゾロン10mg/ 日より内服開始し,徐々に生理的必要量の5mg/ 日まで漸減していくこととした.臨床的にも感染症を疑う所見なく,血液培養・尿培養でも有意な所見を得られなかった.すべての症状は副腎不全のためと診断され,症状も改善したため,入院6 日目に自宅退院した.

考察2

 通常ACTH 負荷試験では,負荷後のコルチゾール値18 μg/dL 以上もしくは増加量が5 μg/dL 以上であると副腎不全が否定され,3 〜6 μg/dL 未満であれば副腎不全を示唆する7).ACTH 負荷試験のみでは,中枢性の副腎不全を否定しきれないため,中枢性の可能性がある場合には,インスリン負荷試験・メチラポン試験・CRH 負荷試験など組み合わせ下垂体機能を評価する必要がある.本症例ではMRI で下垂体や視床下部付近の粗大病変が指摘できなかったことや病歴より,これらの負荷試験を実施していない.ACTH 負荷試験は一次性副腎不全では感度95%・特異度97.5% であるが,二次性副腎不全では感度57%・特異度95% であり,この試験だけでは二次性を否定しきれない8).そのため検査が陰性である場合には先に述べたインスリン負荷試験・メチラポン試験・CRH 負荷試験などを組み合わせて検査を追加する必要も出てくる.
 副腎不全の治療は,緊急時・経口摂取できない場合には,ACTH 負荷試験前はデキサメタゾン2 〜4mg 静注を実施し,試験後はヒドロコルチゾン50 〜100mg を6 〜8 時間ごとに静注することとなる9).その後経口摂取できるようになれば,経口ステロイドを開始していくこととなる.一次性副腎不全の場合には,ヒドロコルチゾン20 〜30 mg/ 日を朝2/3・夕1/3 に分けて内服し,プレドニゾロン5 mg/ 日を朝に内服することとなる.二次性・三次性の場合には,ヒドロコルチゾンの投与が必要ないため,プレドニゾロン5 mg/ 日を継続していくこととなる.本症例はステロイド内服中断による三次性副腎不全のためプレドニゾロン内服のみを継続した.
 セレスタミンⓇ(ベタメタゾン+ d -クロルフェニラミンマレイン酸塩配合錠)は,1 錠あたりプレドニン換算2.5 mg のステロイドを含有している.各種アレルギー疾患で頻用される傾向があり,中止をせず漫然と処方されることが散見される.
小児科領域の報告では,過去22 例のセレスタミンⓇによる医原性副腎不全が報告されている10)が,成人例では報告はほとんど認められない.使用頻度は成人のほうが高いと思われ,おそらくcommon disease として診られ報告があがっていないだけなのかもしれない.

結語

 セレスタミンⓇ(ベタメタゾン+ d -クロルフェニラミンマレイン酸塩配合錠)による医原性副腎不全の症例を経験した.原因がわからない臨床症状を診たとき,副腎不全を鑑別の一つとして検討する必要がある.またステロイドの投与経路にかかわらず,副腎不全は起こりうるということは覚えておきたい.

< 利益相反にかかわる開示>
 本稿において利益相反に関して開示すべき事項はない.

参考文献

1)Hai-yu X, Yu-xuan W, Teng-da X, et al.Evaluation and treatment of altered mental status patients in the emergency department: Life in the fast lane. World J Emerg Med. 2012;3(4): 270-277.
2)Evangelia C, Nicolas C N, George P C. Adrenal insufficiency. Lancet. 2014; 383: 2152-2167.
3)Wiebke A, Bruno A. Adrenal insufficiency. Lancet. 2003; 361: 1881-1893.
4)Alan SK. Glucocorticoid-induced adrenal insufficiency. JAMA. 1999; 282(7): 671-676.
5)Benjamin B, Manfred V, Marcus Q, et al. Delayed diagnosis of adrenal insufficiency is common: A cross-sectional study in 216 patients. Am J Med Sci. 2010; 339(6): 525-531.
6)Leonie HAB, Alberto MP, Jens OL, et al. Adrenal insufficiency in corticosteroids use:Systematic review and meta-analysis. J Clin Endocrinol Metab. 2015; 100(6): 2171-2180.
7)Roberto S. Adrenal insufficiency. JAMA. 2005; 294(19): 2481-2488.
8)RI Dorin, CR Qualls, LM Crapo. Diagnosis of adrenal insufficiency. Ann Intern Med. 2003; 139(19): 194-204.
9)Djillali A, Eric B, Pierre-Edouard B, et al. Coriticosteroids in the treatment of severe sepsis and septic shock in adults: A systematic review. JAMA. 2009; 301(22): 2362-2375.
10)谷口真紀,宮川直将,松下祥子,他:遷延する低血糖を呈したセレスタミンによる医原副腎不全の1 例.小児科臨床.2014;67(7):1225-1230.

キーメッセージ

・検査で異常のない意識障害では病歴聴取が重要
 
・原因不明の臨床症状では副腎不全を考慮する
 
・副腎不全はステロイドの投与経路に関係なく起こる

問題の答え

問題1の答え : 正解は1(脳梗塞)
 局所神経学的脱落はなく,血圧も正常であり,脳梗塞である可能性は低い.
 
問題2の答え : 正解は3(三次性副腎不全)

プロフィール

難波 雄亮
沖縄県立中部病院総合内科/つばさ在宅クリニック
 
略歴
2005 年順天堂大学医学部卒業。初期研修修了後、2007 年亀田総合病院神経内科シニアレジデント、2010 年沖縄県立中部病院内科シニアレジデントプログラムへ応募し離島地域医療研修。
2013 年亀田総合病院神経内科医長。
2014 年より沖縄県立中部病院総合内科へ。
2016 年より現職。
器材の少ない地域でも診療できるように、研修医と日々診療しています。
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本村 和久
沖縄県立中部病院総合診療内科
 
略歴
1997 年山口大医学部卒。
同年より沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。沖縄県内の離島にある伊平屋診療所勤務を経て、沖縄県立中部病院で内科後期研修に従事。同県立宮古病院, 王子生協病院などを経て、2008 年より現職。
ジェネラリストとして、研修医へのプライマリ・ケア教育に携わっている。
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最終更新:2022年01月10日 22時22分

実践誌編集委員会

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